2018.08.14

スタンプジャンパーは40年前からずっとスタンプジャンパーだった

最新と最古のスタンプジャンパーを乗り比べてわかったことがある。スタンプジャンパーはずっと、山を楽しく走る最先端の自転車だということだ。

最新2019年モデルのMen's S-Works Stumpjumper 27.5と最古・初代スタンプジャンパー(のレプリカ)を乗り比べてみた。まあ比べるものではないのはもちろんで、その乗り味はぜんぜん違う全く別の乗り物だ。でも、変わらず同じスピリット、やりたかったことを感じた。40年前からそうだった。スタンプジャンパーは、山を楽しく走るという目的のために生まれた。そしてそれは、ずっと時代々々の最先端を突っ走っている。
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システムが変わると名前が変わることも多いが、スタンプジャンパーはそうじゃない。これは多分、スペシャライズドの強い意志の現れだ。つまり スタンプジャンパーとは、山を、オフロードを楽しく走るための乗り物だということだ。

最新モデルのスタンプジャンパーを昔のスタンプジャンパーと乗り比べて、そう思った。

スタンプジャンパーは、マウンテンバイクというジャンルというか乗り物が存在する前から、山を楽しく走るものとして生まれたもの。そしてそれは今も全く変わらない。

その楽しみ方は、今のお客さん(俺たちだ)のさまざまなこだわりや思い込みを超越して、まずは楽しい、というところにある。

【まず1981年製スタジャンの乗り味から】
世界初の市販量産型MTBであるスタンプジャンパーが初めて発売されたのは1981年。そのモデルを2006年に25年記念として復刻したのがこれだ。2006年って言ったってもう12年前の話でもある。つまり37年前のマシンだ。

見た目やうんちくなどのノスタルジーはさておき、乗り味でいうとどうしたって悪く聞こえるが、まず重い。ホイールベースは長く、コーナリングはダウンヒルバイクのように寝ている感じがある。しかし、ハンドリングはクイックで、クイッと曲がる。カッコいいクラウンを持つこのフォークのオフセットのせいか。


とはいえ、当時にはこんな自転車はなかった。量産型というのはつまり、カリフォルニアのヒッピーだけでなく全米のホワイトカラーでも買えるようになった、山を走るという当時最先端のヒップな遊びをするための、唯一で先端のバイクだったわけである。

【最新の2019モデル・スタジャンを見てみよう】
では、その最先端の自転車が、40年をかけてどのようになったかというと、やっぱり最先端である。2019年モデルの最高級モデルであるMen's S-Works Stumpjumper 27.5を見てみよう。

まず目について、この最先端・翠カラーの[アシッドキウイ]。もうカメラごときにはまともに写らないこの色は、つまりはその目で実物を見るべきだろ? というメッセージに違いない。


そして2019年モデルの最も特徴的なのはフレーム中央、リアサスユニットの取り付けられている位置だ。『サイドアームフレーム』という形状で、

1)前フレームへのリアサスユニットの取り付け部を一体化し剛性を上げた。
2)リンクとリアサスユニットの取り付けを、シートチューブを巻く斬新な形にした。
3)BBの上にあるスイングアームとのピボットと上記2つの3点を、一つの剛性体として繋いだ。

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ということだ。メカに弱いオレでもわかるように言うと、つまりはリンク部と中央部分の剛性アップである。

スポーツバイクでは1に剛性、2も剛性と、剛性という言葉をよく言うのだが、特にフルサスフレームでは、剛性の高さは重要だ。サスユニットを繋ぐリンクは、フレームと別体であるため、このリンク自体の剛性つまり『形を変えない強度』とでも言うのかな、が、確かであれば、フレームもリンクも横に歪まずに、サスユニットは意図したように、前後方向へスムーズに動くのだ。これが後に伝える、サスのダイレクト感に直結している。


2018年モデルはチェーンステーを別体にしていたのだが、新モデルはピポットの周りの厚みを増やすことで、結果剛性を高められた。例えばチェーンステー自体は細くなって軽くなったが、剛性は上がっている。そしてこのラバープロテクターのウネウネやばい。


そして、昨今ではもっとも重要視したいタイヤサイズについてだ。フレームには2.6が入るようにできていて、S-Worksのモデルには2.6サイズのタイヤが入っている。もちろんだがスペシャライズド製。ていうより、他には2.6サイズのタイヤはない。 「今の時代の流れは、太めだけど太すぎない2.6サイズのタイヤでしょう」ということで、作ってしまったんだと思う。実際の乗り手の感覚は、『市場の売れ筋』とはたいてい異なるものを求める。ライダーファーストを提唱し、パーツを作れる力のあるスペシャライズドならではのやり方だ。これ、本当に大切なことだと思う。ライダーのことを考えたものづくり、である。

あるいはスタンプジャンパー自体の存在がそういうことなんだろう。

【最新のスタンプジャンパーに乗って感じたこと】
実際に乗って感じるのは、まあ大まかにいうと、先に竹谷賢二さんが感じたことと同じである。コックピットで感じる車体のボリュームは小さい、というか自由度が高い。
竹谷賢二さんが楽しむ、新しいStumpjumperはこちら>


その結果、体を伸ばして抜重しやすいのだ。つまり荷重と抜重でヒラヒラと左右に振りやすく、路面にきっかけがあれば軽くジャンプして空中で車体を降る、みたいなアクションもやりやすい。スノーボードやスケートボード、サーフィンなどでこういった動きを体得しているあなたなら、存分に楽しんでもらえることだろう。
 

加えて、登りやすい。なんていうのか、リアサスのおかげでカラダ路面から浮いてるんだけど、ペダルを踏み込んでも余計に動きかない、そんな各ピボットの位置設定なのだ。サスが沈んで伸び上がるときに、上でなく前に進んでいる。そんな走りの印象だ。

そしてリアサスの動きをプラッシュに、鮮烈に感じられる。動きそのものは滑らかで、調整ダイヤルの変更をダイレクトに感じられる。ひと目盛りぶんダンピングを遅くすればひと目盛り分遅く感じる。これが、先に述べた剛性を上げた結果なんだと感じる。


そして剛性があるというのは、フルサスの場合安心感にもつながる。バイクの変なヨレがないのは、例えばジャンプなど空中にちょっと飛び出そうとする直前に、変にヨレるとバランスが崩れてよろしくない。それが少ないように感じられ、素直に体の動きにシンクロする。こういうのって、ホント乗らないとわからない。

【スタンプジャンパーとは常に、山で楽しく走る最先端の自転車なのだ】


単にモデル名を変えないだけじゃないか。あなたはそう言うかもしれない。しかし見ろ、この生き馬の目を抜く世の中で、40年近くも続くマウンテンバイクのモデル名は他にない。ロードを含めてもないかもしれない。

 

モデル名を変えないというのは、つまりその目的が変わっていないということだ。スタンプジャンパーは、山を楽しく自転車で遊ぶ、という目的のために生まれた。その「山を走る」という目的自体が最先端だった80年代から40年、山を走ることが当たり前になった今は、先端の技術力を使って、山を走るのに楽しい乗り物を、やっぱり提供している。

特にマウンテンバイクでは、乗り手が欲しいものを敏感に察し、いち早く具現化して製品化するスペシャライズドのこのやり方は多分、『スタンプジャンパー』というモデルが存在していること自体に理由があるんじゃないかと思う。

スペシャライズドがスペシャライズドになった第一台目のモデルの名前のもとに作り続けることで、そのかたくなな『マウンテンバイク・ラブ』を貫き通しているんじゃないかと思う。これからも、その貫きっぷりを、いちマウンテンバイカーとして、頼みたい。

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【筆者紹介】中村浩一郎
マウンテンバイク系の物書きとして25年ほど乗って書いてます。毎日続けているウィリー練習が、少しずつ身になってきました。いわゆる気づきがあるんだよね、あ、ここだ!って。しかしその気付きはとても薄くすぐにどこか言ってしまうので、また追いかける。ウィリーはある日突然できるようになるそう、でもそれまで毎日やってないとその日は来ないとのこと。

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