SUPER GTレーサー オリベイラさん クロストレーニングとしてロードバイクを取り入れる!
SUPER GTレーサーとして活躍するブラジル人、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラさんがクロストレーニングとして、ロードバイクをおすすめする理由とは?
2018年夏のとある朝、ひとりのカーレーサーがスペシャライズド新宿に姿を見せた。男の名前はジョアオ・パオロ・デ・オリベイラ、SUPER GTレーサーとして名を馳せるブラジル人である。コンマ数秒に命を懸けるレーサーは、驚くほど気さくで、柔和な表情をしていた。前日には富士スピードウェイで行われたSUPER GT第5戦を6位でフィニッシュし、疲れていて当然の朝なのにも関わらず、である。自転車がたくさん置かれたスペシャライズド新宿の店内で彼は、目を輝かせている。
今日彼が乗るのはレーシングカーではなく、ロードバイクだ。もっと厳密にいうならば、新しいロードバイクのフィッティングをしに、ここやってきたのだ。聞くところによると、JPオリベイラはこのところ日常のトレーニングにロードバイクを用いているのだという。
「もともとはトレーニングにはランニングをしていたんだけど、今はもっぱらロードバイクだね。最初は補給の摂り方とか、何を食べたらいいかわからなかったけど、経験豊富な友達のおかげでいろいろわかるようになってきた。まったくの未経験から上達していくというのは楽しいことさ」
人生で、プロのカーレーサーに会うことはなかなか少ないと思うのだが、JPオリベイラと相対してみて、その体の太さに驚かされる。とりわけ、体幹の重厚感がすごい。肩から首にかけて、ある種の闘牛を思わせるような肉付きをしているのだが、それはバイクフィッティングツールRETULに乗るべく、サイクルジャージ姿に着替えるとなおさら際立つのだった。
「ロードバイクで山を登るのが大好きなんだ。友達と都民の森に登りに行くけど、みんな速くてね。僕は最初、登り切るまで1時間以上かかっていたんだけど、今では12分縮めて53分くらいで走れるようになったよ。常に向上している、と感じることができるのはいいことだよね」
すっかりロードバイクにハマっている様子のJPオリベイラ。ブラジル・サンパウロで育ち、14歳の時からレーシングカーのキャリアを始めたという彼。20歳の時に、F1を走りたいという夢を追いかけてヨーロッパへ渡った。3年間の在欧期間には、F3のドイツチャンピオンまで上り詰めた。その後鈴鹿サーキットでテストドライブする機会があり、その縁によって2003年から、日本でレースをすることになった。
2010年には日本最高峰のフォーミュラ・ニッポンでチャンピオンを獲得。現在はSUPER GTに戦いの場を移している。JPオリベイラは、カーレースの世界を戦い抜いてきた生粋のアスリートである。主戦場であるSUPER GTについて彼はこう話す。
「SUPER GTは、世界中で賞賛されているレーシングシリーズなんだ。というのはたくさんのエキサイティングな要素があるからね。まず最初に挙げるべきなのは、GT500のクルマは、この世界でトップクラスの速さがあるということだね。ノー・ダウト、そこに疑いの余地はないよ。そしてヨーロッパが高いレベルを誇り、世界的なカテゴリーに発展しているGT300カテゴリーは車種の選択肢が豊富。SUPER GTではこの2つのカテゴリーが同時にレースを走るんだ。この混走によってレースにアクション、アクシデント、ハプニングが生み出され、エキサイティングな展開が世界中のファンから支持されている。
テクニック、ドライバーのレベル、ブロードキャスティングのレベル、サーキットに来る観客の多さ……日本のレースがトップレベルにあるのは間違いないよ。昨日のレースも40,000人が来たし、GWの富士スピードウェイでは80,000人が来ることもあるんだ!ビッグ・ショーだね」
カーレースにさほど知見がなくとも、2009年のF1チャンピオンのジェンソン・バトンの名前は聞いたことがあるかもしれない。彼が昨年からSUPER GTに参戦していることも、巷を賑わすホットな話題だ。注目度の高いSUPER GTを戦い抜く上で、どんなフィジカルがドライバーには問われるのだろうか。
「GTカーはとても速いスピードでコーナリングしていくので、体にものすごく強い重力がかかる。シートは体に完全にフィットして、まったく動かなくなるんだ。動かせるのは足と手だけなんだよ。F1もそうだけどね。そしてストップやアクセルによる、首にかかる負荷は強大だ。首を常に上にして、目線を保ち続けないといけない。体幹、首、そしてもちろん重いステアリングをさばく腕力が重要になる。
それに、エンデュランス耐性も必要とされる。というのは、クルマの中はすごく暑くなるからね。昨日のレースでも、室内の温度は40℃だったんだ。エアコンをつけていてもだよ。レーシングスーツとヘルメットを着用するからなおのことさ」
ロードバイクはスピード、視野、予測力を養える
聞けば聞くほど、過酷さとの戦いに思われるカーレースの世界。そのトレーニングにロードバイクを取り入れるJPオリベイラの意図はどこにあるのだろう?
「脚を鍛えておくのも重要だ。走行中はペダルをずうっと踏んでいるけど、特にブレーキペダルはすごく重いんだ。だから左足は右足よりも負荷がかかっているね。ブレーキペダルはだいたい100kgくらいのパワーをかけて踏むんだよ。最高で300km/hで走る場面では、キックするような勢いでブレーキペダルを踏みつけるんだ。それが100周回分あるわけだね。
普段のトレーニングはというと、腕の特殊な動き方をメインに、コアトレーニング、バランス、そしてロードバイクだ。バイクはとても重要。というのはスピードに対する感覚、物事を捉える視野、注意力、予測力、そうしたもののいいトレーニングになるから。
サドルの上で、特にグループで3〜4時間を速いペースで走るようなライドでは、疲労を感じてペースがキツく感じ始めると、集中力を保ち続けることの難しさがわかるはずだ。エネルギーを失うと、集中力がなくなる、これはカーレースでも同じだ。最後まで集中できる体とメンタルのコンディションづくりが重要なんだ。そんな練習にバイクはとてもいいね」
精神を鍛えるものとしてのロードバイク
「それにメンタル面も鍛えることができる。僕が思うに、自分が苦しむことのできる最大の苦痛領域まで自分を追い込むことができるのはプロのライダーだけだね。でも自転車を続けることによって、この領域に少しずつ近づいていってるという進歩を感じることができるのが面白いんだ。
ロードバイクを通じて、自分の体についての理解が促進される。例えばウォーミングアップの必要性、1時間走り続けるならこのペース、2時間ならこのペース……みたいにね。この類の経験を積み重ねることはとても大事なことだ。それは苦しむこと、についても理解することだからね。
ほとんどのサイクリストは苦しむことを楽しんでいるんじゃないかなぁ? 僕はまだそこまで達してない気もするけど(笑)、少なくとも自分が向上していることについては楽しんでいるよ。面白いよね」
まだ苦しみを楽しんでいないと、謙遜しながら語るJPオリベイラだが、トレーニングということもありその強度は決して低くない。また頻度も週に4日ほどは乗っているという。なんといっても、よく一緒に走る友達がニセコクラシックの年代別優勝者であったりと、しっかりと追い込めているようだ。しかし楽しいときこそ落とし穴があるもので……。
「最近、大きな落車をしてしまったんだ。結構な怪我を負ってしまって……ラッキーなことにその直後はレースがなかったので1週間しっかり休んで、またトレーニングを再開したけど、今は強度を少し下げている。まぁこれもロードバイクに乗っていたらあることだからね。そうそう、こういう苦境があっても、ほとんどのサイクリストは諦めないで、また自転車に乗り続けるけど、これはサイクリングというスポーツにおいて賞賛したいことのひとつだよ。
ジルベールのガッツとサガンのスタイル
「ライダーは落車して道に投げ出されても、しかも骨折していてもバイクにまたがって走り出す。このあいだのツール・ド・フランスでも、フィリップ・ジルベールが峠の下りで曲がりきれずに落車した。人々が彼を担ぎ上げてなんとか道に連れ戻したら、ジルベールは再びバイクに乗って走り出した! 言葉が出ないよ」
自らがレーサーとして生きるJPオリベイラは、自転車ロードレースを観るのも好きだという。
「ツールも、ジロ・ディタリアも観ていたよ。今年のジロ第19ステージは特にすごかった。フルームがまだ距離があるうちから飛び出して……。ロードライドがどれだけ苦しいか、どれだけのエネルギーを使うかを知っているから、あそこで一人で行くというのは、本当に……クレイジーだと言う他ないよね」
※2018ジロ・ディタリア第19ステージで、チームスカイのクリス・フルームはゴールまで残り80kmのフィネストレ峠の未舗装路区間で単独でアタックし、並み居るライバルたちに3分差で区間優勝を挙げるとともに、総合でも大逆転。この年の総合優勝に輝いた。
いろんなスタイルのライダーがいるけど、好きな選手はと聞かれると(ペテル・)サガンだね。ワンデイレーサーで、長い距離をこなせて、クラシックで勝つ。フルームやゲラント・トーマスのようにヒルクライムとTTが強い選手も好きだし、トム・デュムランなんてほとんど誰も勝てないようなTTスペシャリストだけど、全体的なスタイルを考えるとやっぱりサガン。数ヶ月前に彼がポストしたトレーニングの動画、見た?
ジムトレーニングの映像だったけど、彼の開脚の開きっぷりといったら。あんなこと普通できないよ。あれこそ、本物のアスリートだよね。ほとんど体操選手みたいだ(笑)」
JPオリベイラの2輪は、Tarmac Men SL6 Comp Disc
彼のロードバイクへの思いを聞きながら、バイクフィッティングは進行していく。15ものアセスメントステップ(評価項目)を経るRETULでは、ライダーの履歴が事細かに問いただされる。そこにはかつて負ったケガのことも含まれる。
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フィッティングは大まかに、
1.サドルハイト、距離、角度
2.ステムの長さ、角度
3.ヒザのブレ、インソール提案
4.クリート位置
といった順序で進行していくが、JPオリベイラは少し左足が長いということもこの過程でわかった。ケガやレーシングカードライバーとしての特質が影響しているだろうが、こうした事実がデータとして吐き出され、調整を繰り返して修正につなげて行くプロセスは、まるでコースコンディションに合わせてセットアップされるレーシングカーのようでもある。
バイクフィットを担当したスペシャライズド新宿の板垣フィッターによると、「オリベイラさんはとても感覚が敏感ですね。体の位置など、普段から気にされているアスリートらしいです」とのこと。確かに、サドルを後ろに下げたり、ステムを伸ばしたりという変化の直後にはズバリとその変化を言い当てたりする場面が何度かあった(先入観を持たせないよう、Retulフィットではポジションを調整の際どこを変えたかをライダーには伝えないそう)。
2時間に及ぶフィッティングも無事完了し、JPオリベイラの新しい相棒Tarmac Comp Discは彼仕様のポジションを出されて納車されることになる。続くカーレースでの活躍にTarmac Comp Discが果たす役割が大きくなることだろう。そして彼自身も、ヒルクライムやニセコクラシックに出たい! とわくわくした様子で語ってくれた。ロードレースの会場で、このコンビを目にする日はそう遠くなさそうだ。
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最上位グレードのS-Worksと同じ特徴を多く採用した、ライドを楽しくさせてくれる、満足できる1台です。正確な変速で信頼のおけるシマノ・アルテグラ機械式ドライブトレイン、すばやく止まれる油圧ディスクブレーキ、耐久性に優れたDT R470 Disc ホイールなど、本気のスペックを採用しています。
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オリベイラさんは9月末までに800q乗られています!その感想をお聞きしました。
FITTING:
受けたフィッティングは、とてもプロらしい技だと感じた。フィッターは僕の体を丁寧に分析し、もっと安心して乗れる姿勢を提案してくれたんだ。あと、このセッションのおかげで自分の体をもっと知ることができた。
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DISC BRAKES:
ディスクブレーキは、サイクリングの未来だね。サッと安心して止まれるし、ブレーキング中にホイールの挙動は乱れないのだから。パワフルな制動力に任せて急な下り坂を攻めたり、ウェットコンディションでも安心して減速したいライダーには、とても強い味方だと思う。
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COMPLIANCE:
このバイクの反応性には心底驚かされた。とても安定していて快適に走れる一方、驚異的なスピードを出せるエアロバイクなんだ。このTarmacに乗り始めて1ヶ月が経つけど、他社製のバイクに乗りたいとは思わない。ライドの充実度が大きく向上したよ!
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STIFFNESS:
このバイクは剛性が高い。他社製のバイクから乗り換えた時、そう強く感じた。とても安定していて、その剛性の高さから、パワーをよりダイレクトに後輪に伝えてくれる。パワーが無駄になっているようには感じなかったよ! これが僕の感じた、他のバイクとの一番大きな違いかな。
WEIGHT:
山をよく走り、常に上を目指している身として、このバイクの重量はとても大切な要素。Tarmac Comp Discは前に乗っていたバイクより少し重いんだけど、剛性が高いおかげでパワーをしっかり伝えてくれるから、重さはそれほど感じない。もちろん、軽いバイクの方が、急で長い登りをもっと速く走れるけどね。
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GENERAL:
全体的に、Tarmac Comp Discは素晴らしい! これまでに乗った中で、最も速くて安定性に優れたバイクだね。
【筆者紹介】小俣雄風太
サイクリングアパレルブランドのプレスを経て、現在はスポーツカルチャー誌 “mark” やウェブサイト “onyourmark.jp” などを手がける編集者。またスポーツチャンネルDAZNでは海外ロードレースの実況中継を担当する。情熱を燃やすシクロクロスはC1で走り、現在はグラベルバイクでのツーリングに夢中。
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