最新スタンプジャンパー、S-WORKS STUMPJUMPER 6 FATTIEが転びにくかった話と、ネイトに聞いたシンヤード氏の話など。
最新MTBの性能やウンチクはもちろん、創業者マイク・シンヤードやアメリカ本社での動きを、MTB部門マーケティングを率いるネイトに聞きました。
―スペシャライズドのランチライドについて
「もちろんランチライドはするさ。スペシャライズドだからね。午後12時になって、机についていると『この人なにやってんの?』って不思議な顔で見られるんだ。本当なんだよ、すごいだろ?
で、ライド自体はローカルレースみたいになることもあるよ。15分走ると冬でも乗れるトレイルがあるから、そこに行くことが多いかな」
「あと、キャンプライドってのがあるんだ。これは夜。火曜日の夜かな、会社からそのまま走りに出て、どっかでキャンプして、そのまま会社に帰ってきて、シャワーを浴びてまた仕事する。毎週やってるよ」
―会長マイク・シンヤードについて
「会長のマイク・シンヤードはねえ、毎日会社にいるよ。毎日乗ってるんだ。乗ってくるし、会社の中を歩き回ってる。それで、すごいのが、社員みんなの顔と名前を覚えてて、歩きながら名前を呼んで挨拶するんだ。これはクールだと思うよ。みんなもクールだと思う、って言う。それに彼の言動をみているのは、単純に『おもしろい』よ」
カリフォルニア本社の様子はこちら。SBCU先生のモーガンヒル本社探検VOL.1 >
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―ネイト自身について
「高校生のときにバイクショップでバイトを始めたんだ、19才でミシュランタイヤのMTBワールドカップ・レーシングサポートのスタッフに。そのあとDHチームのメカニックとして働いてジャイアントへ就職、それでスペシャライズドに転職したんだ」
あれだけ乗れる男だから、この業界もかなり長いに違いないと思ったら、その通りだった。なんというか、レース界のチームライダーの移籍劇のような、本当にMTB業界の中で動いてきた人物だ。
なお、いまスペシャのMTBの開発担当は3人いるそうで、その1人がジョー・バックリーという。どっかで聞いたことある名前だなと思っていたら、1990年代当時、スペシャライズド・ライダーとして世界をあっと言わせたMTBダウンヒル『悪』王子、ショーン・パーマーのメカニックだった人だ。パーマーにメカの腕と人柄を見込まれ、1996年に一緒にスペシャライズドのチーム入り。紆余曲折あって今はスペシャMTBの開発をしてるそう。
なるほど、ここんとこスペシャライズドのMTB製品、特にアクセサリーとかがかなりやる気あるな、とニラんだ裏には、こんなストーリーがあったのか。SBCU先生にでも、ジョー・バックリー氏にいろんな話をぜひ聞いてもらいたいところである。
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ネイトは続ける。
「それでさ『オーリンズ』がすごいんだ。S-Works Stumpjumperとかについてる前後サスペンションのことだよ。今までいろんなサスを触って乗ってきたけど、あれは別物だよ。
滑らかで、調整のクリック数も少ないから操作も簡単。明日きみも乗るんだ。驚くぜ」
次の日、その『オーリンズ』サスペンションを備えた S-Works Stumpjumper 6Fattie に、富士見パノラマで乗った。トレイルライド用の最高モデルだ。ちょっとウェットなコンディションの富士見は、ふじてんよりも平均スピードは高くなる、フルサスのテストには最高だ。
開発者といつも一緒に乗ってるわけだから、その本当の使い勝手をよくわかっているはずだろうと、ネイトに調整をお願いしたら、「問題ないよ、オーリンズのリアサスには、オートサグがあるんだ。ある程度空気入れて、座って、このボタンを押せば適正なサグ(初期沈み量)になる」。あっけない。
富士見のハイスピードコースでは、わかってたことだがネイトには速くて追いつかない。最初の数本はネイトの後ろについて走りを学ばせてもらったが、後半は我々の後ろについてもらい、一緒に走ったMTB初級者ケンタの面倒もみてもらった。ネイトはケンタを褒めながら、お手本になるようケンタの少し前を走る。
さて「オーリンズ」搭載の、スタンプジャンパーのS-Works版の乗り心地だ。このサスペンションの動きは、その通りにショッキングである。
サスの動きは、ものすごく滑らかだ。速いとか遅いとか引っかかりがない、というよりも、なんというか、いろんな動きがまろやかなのだ。サスの突き上げや入り込みなど挙動のシャープさを感じながらも、その動きのすべての角が丸まっている。
ネイトが使用するシューズは2FO CLIPLITE、詳細はこちら >
感じ方がとてもまろやかというのは、タフなセクションについ突っ込んでしまっても、そのまろやかさのなかで心に余裕が生まれ、体が対処しやすくなる。みたいな。ネイトの言う通り、たしかにこれまでになかったサスペンションの感覚である。別物だ。
言うまでもなく、それぞれ6段階の調整ノブで戻りの速さは調整でき、数を増やすごとにまろやかさは増える。とは言え、適正値はやっぱり最高値。1度設定すればその後あまり変えることもないはず。
という新感覚の『オーリンズ』サスだが、バイク全体としての印象は、「攻めるというよりも、つい突っ込んでしまったときのリカバリー力にとても優れている」という感じだ。
速いネイトと一緒に走ってよくわかったが、速いライダーはラインも違う。いつもと違うラインを走って、予期しない状況が待っていてヤバイかも!と思う。そんなときにも太いタイヤとサスの包容力が路面の荒れを受け、軽い車体で、なんだかクリアしてる、というのがいくつかあった。どんなトレイルでも楽しく走れ、走って帰ってこれる。その基本となるMTBにおける安全性=走破性? という性能が高められているという印象だ。クルマの衝突防止装置みたいなものか。ちょっと違うか。
オーリンズサス搭載の「S-WORKS STUMPJUMPER FSR 6FATTIE」をチェック >
そしてネイトだ。これだけ乗れると、それだけで説得力がある。上手さだけではない『好き』さが走りに感じられて、その一言に重みが出る。ブランドマネージメントという組織での役割をこなすのではない、いわゆる『バイク・ファナティック』の感覚をネイトにビンビンと感じる。MTBの開発の話も製品もそうだし、スペシャライズドは、とにかく乗り手が開発するという当たり前の話が、当たり前に行われているんだなあ、と、特にMTBに関して感じる。ほんと毎度に繰り返しになってしまい申し訳ないのだが、MTB好きとしては大変に嬉しく思うのだ。
ネイトはそんなライドのスキルと好きさで、ウィスラーやコースタルバークやら、名だたるパークやトレイルを、視察という立場で回るんじゃないかと思う。今度会えたときは、そんな世界のパークの話をしてもらいたいと思う。
【書き手】中村浩一郎
ネイトは、久しぶりに一緒に乗ってアガるライダーでした。なんていうか、一緒に走っている遅い人への思いやりのようなものを感じるんですよね。これがあるいは出世の秘訣なのかも!とも思って、勉強になりました。
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