2019.05.27

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに挑むボーラ・ハンスグローエ (3)機材のスペシャリスト、メカニックインタビュー

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2019へのボーラ・ハンスグローエの挑戦。第3回は機材の面からチームをサポートするメカニックへのインタビューをお届けします。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに挑むボーラ・ハンスグローエ(1)チェーザレ・ベネデッティ選手インタビュー>
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに挑むボーラ・ハンスグローエ(2)レース直前監督インタビュー>

■メカニックバスの主
ボーラ・ハンスグローエが滞在していたホテルには3台のバスが停車していた。チームバス、キッチンバス、そしてメカニックバスだ。選手達がレース中に使用するバイクなどの機材は全てこのメカニックバスで管理している。このバスの中で忙しく働いているメカニックのルネ・オプスト(Rene Obst)さんにインタビューをすることができた。


取材当日は雨だったため、チームバスの屋根を出すルネさん。屋根は電動で出るようになっている。©Keisuke Kitaguchi

■リエージュ〜バストーニュ〜リエージュを戦う機材
―明日のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュではどのバイクを使うのですか。
―明日は全員Tarmac Discを使う予定だよ。

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メカニックのルネさん。チームの前身であるネットアップ時代、2013年からチームのメカニックを務める。何年か他のチームで働いていたこともあるが、フリーランスを経て4年前に再合流。バイクをいじるのが大好きと語る、根っからの仕事人。実は元選手。©Keisuke Kitaguchi

 

―明日は、誰がエースになるのでしょうか。
―マクシミリアン・シャフマン(ドイツ)とダヴィデ・フォルモロ(イタリア)だ。そしてパトリック・コンラッド(オーストリア)とジェイ・マッカーシー(オーストラリア)がジョーカーだね。


レース後のシャフマンのバイク。©Keisuke Kitaguchi

―ボーラ・ハンスグローエは今年ディスクブレーキオンリーで戦うことを表明しています。リムブレーキからディスクブレーキへのシフトはいかがでしたか?
―選手はディスクブレーキにすぐ慣れていたし、問題はなかったね。僕達メカニックは慣れるまでは少し大変だったけど、今はうまくやっているよ。
ディスクブレーキになってから、レース中パンクがあった時はホイール交換ではなくて、バイクごと交換することが多くなった。選手全員のバイクを車に積んでいるんだ。明日のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュでは全部で7台のスペアバイクを準備しているよ。


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Tarmac Discが載せられたチームカー。ホイールは全員Roval CLX50を使う。©Keisuke Kitaguchi

基本はバイク交換だけど、レースの展開がそこまで速くない時はホイール交換で対応することもある。ドリルを使ってホイール交換をするんだ。でもホイールの状態を全て完璧に同じにすることはできないから、交換時にブレーキパッドが当たってしまうことがある。そういう点からも、できるだけバイク交換で対応するようにしているよ。

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実際にホイール交換時に使用しているドリルを見せてくれたルネさん。©Keisuke Kitaguchi

―スペアバイクといえば、明日は出走しませんがペテル・サガン(スロバキア)はスペシャルバイクを使っていますよね。彼のスペシャルバイクは何台あるんですか。
―サガンのバイクは全部で11台だったかな。このバスの中にもあるよ。

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リエージュ〜バストーニュ〜リエージュは走らなかったが、アムステルゴールドレースとフレーシュ・ワロンヌを戦ったサガンのバイク(写真奥)。©Keisuke Kitaguchi

―明日は厳しいアップダウンがあるコースですが、どのギアをチョイスするのですか。
―リアは全員11-30tを使う。フロントは2人だけ52-36tを使うけど、他の選手は53-39tを使うね。
明日は使わないけどメカニックバスにはリア32tも用意しているよ。どのギアを使うかは、選手が好みで決めているね。


メカニックバスの壁にはたくさんのスプロケットが用意されていた。©Keisuke Kitaguchi


レース後のフォルモロのバイク。落車対策のためかリアディレイラーのDi2の配線が結束バンドで固定されている。©Keisuke Kitaguchi

■選手達が選ぶ機材
―ギアは選手が自分で選ぶのですね。バスの中のバイクを見ていると、ハンドルもAEROFLY IIとノーマルが混在しています。これも選手が自分で決めているのでしょうか。
―そうだね、基本は選手自身が何を使うか決めているよ。
明日は使わないけど、Vengeで走るならAEROFLY IIになるね。Tarmac Discだとどちらも使えるね。登りでハンドルバーの上を持って走る選手はノーマルハンドルを選ぶ。

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リエージュ〜バストーニュ〜リエージュで2位に入ったフォルモロはノーマルハンドル。ハンドルバー上部に変速スイッチを設けていた。©Keisuke Kitaguchi

ちなみにハンドル幅はミヒャエル・シュヴァルツマン(ドイツ)だけ380mmで、他の選手は全員400mmか420mmを使っている。一番多いのは400mmだね。

―サドルもRomin Evoを使っているバイクとPowerを使っているバイクがありますね。
―サドルも選手が自分で選んでいるよ。Romin Evoの方が柔らかくて、Powerは硬めだね。
シーズン初めにドクターが選手の動きを診てどのサドルを使うか検討するんだけど、最終的には選手が実際に使ってみてどれが良いかを決めているね。

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※在庫がないものは入荷案内のお申込みをしていただくと次回入荷の際にメールにてお知らせいたします。


サドルはRomin EvoとPowerが混在している。 ©Keisuke Kitaguchi

■メカニックの現場事情
―ルネさん達メカニックは、レースの最中はどこにいるのですか。
―チームカーに乗っていることもあれば、コース上のポイントで待機していることもある。
アムステルゴールドレースとフレーシュ・ワロンヌでは仲間のメカニックがチームカーに乗って、僕はコース上のポイントからポイントへ移動していた。メカニックの配置は監督が決めていて、チームカー7台で走り回っていたんだよ。決められたポイントに行って、走って、また次のポイントに行って…面白いよね(笑)
実際のレースは6時間もあるけど、僕らメカニックは忙しくしているから、あっという間だよ。


メカニックには名前入りのツールボックスが支給されている。©Keisuke Kitaguchi

―お話を聞いているだけで大変そう!レース中は何人のスタッフがどういう構成でレースをサポートしているのですか。
―通常は監督2人、メカニック3人、マッサー5人という構成だよ。他に広報もいるね。
グランツールの時はもう少し多くて、監督3人、メカニック4人、マッサー6人になる。余談だけど2018年のツール・ド・フランスのパリ〜ルーベステージ(第9ステージ)では更にスタッフを追加して、パヴェ(石畳)区間で予備のホイールを用意してサポートした。今回のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュは、2人のメカニックで対応しているよ。


パリ〜ルーベでも走るパヴェ区間が設定された2018年 ツール・ド・フランス 第9ステージ。このステージだけは各チームがパリ〜ルーベさながらの装備で挑んだ。©BrakeThrough Media

メカニックとして一番大変なレースは、なんといってもパリ〜ルーベだね。
ホイールをいくつ用意すれば十分なのかわからないし…スペアバイクはRoubaixを用意しているけど、あらゆるケースを想定してTarmac Discも準備しているよ。
もちろんツール・ド・フランスなどのグランツールはチームにとって重要なレースだし大変なんだけど、パリ〜ルーベとは比較にならないよ。実はグランツールは距離こそ長いけど、メカニックにとってはそれほど特別なレースではないんだ。パリ〜ルーベだけは別格だよ。


2019パリ〜ルーベを走るサガン。パリ〜ルーベは選手にとってもメカニックにとっても特別なレースだ。©cyclingimages
 

―パリ〜ルーベは選手だけでなくメカニックにとっても過酷なレースなのですね。そういえば今年のパリ〜ルーベではボーラ・ハンスグローエの選手には1度もパンクがありませんでした。
―本当に1回もパンクがなかったんだ!パリ〜ルーベで使っていたタイヤは30mmで、ロンド・ファン・フラーンデレンや他の石畳が登場するレースでは28mmを使っていたよ。

30oだとサイドウォールも高くて、トレッドでカバーされている部分も大きいからパンクがないのだと思う。スペシャライズドのタイヤのクオリティには満足しているね。実は去年のパリ〜ルーベでもパンクは1回だけだったんだよ。

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メカニックバスには大量のホイールとタイヤがストックされている。©Keisuke Kitaguchi

■気になるメカニックの生活
―メカニックはレースに帯同しなければなりませんし、いつも忙しそうですよね
―そうなんだ、もう3週間も家に帰っていないよ!明日4月28日のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュが終わったら、明後日にはフランクフルトに向かう。次のレースは5月1日のエシュボルン〜フランクフルト。それが終わったら、次の日に久しぶりに家に帰るよ。僕が住んでいるのはドイツのドレスデン。すごく良い街だから、是非来るべきだよ!


メカニックバスの作業台前の壁面にはツールが整然と並ぶ。 ボトルを利用したツールボックスに注目。©Keisuke Kitaguchi


メカニックバスの中を熱心に案内してくれるルネさん。機材に対する情熱が伝わってくる。©Keisuke Kitaguchi


エシュボルン〜フランクスルト(5月1日開催)の後にバイクを片付けるルネさん。一緒にパスカル・アッカーマン(ドイツ)の勝利を喜ぶことができました。©Keisuke Kitaguchi


エシュボルン〜フランクフルトで集団スプリントを制し勝利したアッカーマン。 ボーラ・ハンスグローエのチームワークが光った。©BORA-hansgrohe / Bettiniphoto

■終わりに
4月27日のインタビューから4日後、エシュボルン〜フランクフルト後にルネさんと再会することができた。
ドイツチームがドイツナショナルチャンピオンをドイツ開催のワンデーレースで優勝させるという快挙にチーム関係者とファンが沸く中、ルネさんは機材を片付けるのに忙しい。しかし、我々を見つけると優しく笑いかけてくれる。
アッカーマンの勝利を喜び合った後、「これから今日のレースで使ったバイクのメンテナンスなんだ、明日には家に帰るよ」と言って選手達よりも先に小さなトラックでチーム拠点へ戻っていくルネさんを見送った。
レース中継には映らないメカニックの献身。見えないところで選手を支える彼らもまた、ロードレースにおける主役なのだ。

【筆者紹介】
池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。チームバスに続きメカニックバスの中に入ることができて大興奮。メカニックのルネさんは静かな語り口でしたが、機材とレースへの愛に満ちていました。黙々と仕事を進めつつ、私達を見つけると優しい笑顔を向けてくれるナイスガイ。こういう人がチームを支えているのだなと感じました!


北口 圭介
インタビュアー兼写真担当。ルネさんとメカニックバスの中にいると無限に話せそうです。選手のローラートレーニングの直前のお忙しい中、お時間を頂き感謝です。ルネさんは誠実で職人気質な感じがすごくかっこよかったです。

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