狼達はマイヨジョーヌの夢を見るか―Tarmac Disc、Venge、Shiv TT Discで駆け抜けたツール・ド・フランス2019@

2019/08/09

狼達はマイヨジョーヌの夢を見るか―Tarmac Disc、Venge、Shiv TT Discで駆け抜けたツール・ド・フランス2019@

ジュリアン・アラフィリップとドゥクーニンク・クイックステップの21日間の冒険。「ウルフパック」の戦いの軌跡を振り返ります

■勝利に飢えた狼達と1度目のマイヨジョーヌ
ツール・ド・フランス。本場ヨーロッパでは、サッカーワールドカップ、オリンピックと並ぶ三大スポーツの祭典に数えられるという世界最大の自転車レース。全ての自転車選手の憧れを集める最高峰のグランツールがベルギー・ブリュッセルで開幕したのは7月6日。2019年は第106回大会にして、総合リーダーに与えられる栄光のマイヨジョーヌ(フランス語で黄色いジャージの意)が制定されてから100回目の記念大会だ。5度のツール総合優勝を飾った偉大なる「人喰い」エディ・メルクスゆかりの地ベルギーは、ドゥクーニンク・クイックステップのお膝元でもある。
 



チームプレゼンに登壇するドゥクーニンク・クイックステップ。地元ベルギーのチームだけあり、ひときわ大きな歓声が飛ぶ。©cyclingimages
 

彼らは、勝つためにやって来た。エーススプリンターであるエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)と、前哨戦のツール・ド・スイスで猛威を振るった最強トレインーすなわちカスパー・アスグリーン(デンマーク)、イヴ・ランパールト(ベルギー)、マクシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)、そしてミケル・モルコフ(デンマーク)―をそっくりそのままツールに投入し、スプリントでの必勝態勢を敷いた。実にチームメンバー8人中5人がスプリント要員。残りの3席は、2018年ブエルタ・ア・エスパーニャで表彰台に上がった若き総合エースのエンリク・マス(スペイン)とベテラン山岳アシストのドリス・デヴェナインス(ベルギー)、そして昨年のツールで山岳王に輝いたフレンチパンチャー「ルル」ことジュリアン・アラフィリップに割り当てられた。


未勝利のまま終わったグランツール初戦のジロ・デ・イタリア、その分までツールで勝つ。マスは初めてのツールで経験を積みながら総合上位を狙うが、チームはあくまでもステージ勝利量産のための布陣ー誰もがそう思っていた。
だから、それはちょっとしたボーナスとして受け止められた。第3ステージで独走したアラフィリップが勝利し、「今年は水玉ではなく黄色を狙う」と公言していた通りマイヨジョーヌに袖を通したことは。


シャンパーニュの丘陵地帯で独走勝利を決めたアラフィリップ。彼が得意とするアルデンヌクラシックのようなレイアウトだった。©cyclingimages

開幕スプリントの第1ステージかチームタイムライアルの第2ステージで勝利し、ベルギーでマイヨジョーヌを着るというシナリオは実現できなかった。しかし、ベルギーを出てフランスに入る第3ステージで、彼らは勝利を掴むことができた。
5年ぶりのフランス人マイヨジョーヌ着用選手であるアラフィリップは、翌日の第4ステージではスプリントトレインで先頭を牽引、ヴィヴィアーニの勝利に貢献。チームはステージ2連勝を手にし、ヴィヴィアーニは三大グランツール全てでステージ勝利を飾った選手の仲間入りを果たした。


モルコフ、リケーゼの完璧なリードアウトから発射されたヴィヴィアーニが接戦のスプリントを制した。使用バイクはもちろんVenge。ジロに続いてツールでもVengeが勝利。©cyclingimages

2019年最初の山岳ステージとなった第6ステージで、アラフィリップはマイヨジョーヌを失うことになった。この日逃げに乗りステージ2位でフィニッシュしたジロ山岳王ジュリオ・チッコーネ(イタリア/ トレック・セガフレード)に6秒という僅差で首位を明け渡す。


6つの山岳を経て挑んだ1級山岳ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ。未舗装路区間と激坂に負けず力を尽くしたアラフィリップだったが、ボーナスタイム差でマイヨジョーヌを脱ぐことに。©cyclingimages

■2度目のマイヨジョーヌと「マイヨジョーヌ・マジック」
フランス革命記念日を翌日に控えた第8ステージ、延々とアップダウンが続く難ステージの最後の登りでアラフィリップが集団から大きく加速する。
「絶対に、マイヨジョーヌを取り戻す。」
気迫の走りに追随した同じフランス人のティボー・ピノ(グルパマFDJ)とともに、ステージ勝利に向けて独走するプロトン随一のエスケープスペシャリスト、トーマス・デヘント(ベルギー/ ロット・スーダル)に迫る力走を見せた。集団ではマスがローテーションを妨害し、アラフィリップの逃げをアシスト。フランス人同士の協調とチームメイトの助けを得て、アラフィリップは再びマイヨジョーヌに袖を通した。


第3ステージと同じく最後の登りでアタックし、タイムを奪取したアラフィリップ。ステージ2位は協調してくれたピノに譲ったのかもしれない。彼の得意とするアップダウンでの加速をTarmac Discの剛性と軽さが助けている。©cyclingimages

第9ステージ、フランス国民の記念日をマイヨジョーヌで過ごしたアラフィリップとウルフパックは、翌第10ステージで攻撃に出た。終盤の横風区間でペースアップし、集団分裂を仕掛ける。チーム・イネオスなどのライバルチームも攻勢に加わったことで、メイン集団を破壊することに成功。小さな先頭集団で争われたマッチスプリントではヴィヴィアーニは惜しくも2着だったが、マスの総合順位を引き上げるという目的を達成し、アラフィリップ自身も総合タイム差でのリードを拡げることになった。


横風分断はドゥクーニンク・クイックステップのお家芸。多くのライバル達を後方に置き去りにし、猛スピードで風を切り裂いて走る。© 2019 Getty Images

「総合成績を狙っているわけじゃない。これから起こることは全てボーナスだ。」とコメントしていたアラフィリップだが、マイヨジョーヌを着続ける彼への期待は日を追うごとに高まっていく。フランス人によるツール総合優勝。実現できたなら実に34年ぶりの快挙となる。
「まさか」と「もしかしたら」が交錯する中迎えた第13ステージ、個人タイムトライアル。この日、フランス中が、いや世界中がアラフィリップの走りに熱狂した。誰も、おそらく本人さえも予想していなかったステージ優勝。最終走者として出走したアラフィリップが、ステージ優勝最右翼と言われていたゲラント・トーマス(イギリス/ チーム・イネオス)に14秒差をつける素晴らしい走りを見せた。タイムトライアル巧者にしてツール前年覇者トーマスにマイヨジョーヌを奪われるのでは、という周囲の予想をひっくり返し、総合リードを拡げて臨んだ翌第14ステージでもサプライズが待っていた。


フランス人のツール個人タイムトライアルステージ勝利は18年ぶり、マイヨジョーヌを着ての勝利は実に35年ぶりと記録尽くしの勝利。アラフィリップの走りを後押ししたのは観客達の声援とリリースされたばかりのShiv TT Disc。© 2019 Getty Images


デンマークチャンピオンジャージで序盤暫定首位、最終的にステージ8位に入賞したアスグリーン。第3ステージでの落車負傷、連日の集団牽引にも関わらず力走。© 2019 Getty Images


総合順位が大きく動くことになった第13ステージ。ステージ9位につけたマスが総合4位と新人賞ジャージを獲得。© 2019 Getty Images

第14ステージは超級山岳トゥールマレーにゴールする難関山岳ステージ。モビスターやグルパマFDJ、チームユンボ・ヴィスマなど総合エースを擁するチームが先頭でハイペースを刻み、脱落する選手が続出する。しかしアラフィリップは先頭に食らいつき、更にステージ勝利に向けてアタックしたピノを追って急勾配区間でスプリント、ライバル達をふるい落とし2位でフィニッシュ。総合2位以下とのタイム差を更に拡げる。


Tarmac Discで超級トゥールマレーを駆け上がったアラフィリップ。他の総合系ライバルを圧倒する走りを見せた。© 2019 Getty Images

長い登りやパリ〜ルーベのようなパヴェが主役のレースは専門外だが、アップダウンや激坂を得意とし、タイムトライアルもスプリントもこなす、守備範囲の広いクラシックハンター兼パンチャー。それがこれまでのアラフィリップだった。グランツールの本格的な山岳ステージでライバルを突き放す走りを見せる彼を、一体誰が想像しただろうか。リーダージャージを着る選手は特別な力を発揮することがあるという。「マイヨジョーヌ・マジック」が実在するとしたら、きっとアラフィリップはその魔法を味方につけていた。
翌日の第15ステージでは遂に遅れる姿を見せたが、アラフィリップが総合首位を保ったままツールは最後の休息日を迎える。


マイヨジョーヌと声援を力に変えて、総合首位を走り続けるアラフィリップ。休息日には報道陣が詰めかけた。© 2019 Getty Images

■運命の最終週
「史上最も標高の高いツール」という呼び名にふさわしく、標高2,000mを超える山岳が数多く配置された第3週。アルプス三連戦の初日となる第18ステージ、ドゥクーニンク・クイックステップはマイヨジョーヌ防衛のために持てるリソースを惜しみなく投入した。逃げ集団にリケーゼを送り込み、メイン集団に残ったメンバーが交代で先頭を牽引する。スプリンターのヴィヴィアーニも例外ではなく、登りでアラフィリップをアシスト。チームメイトが総力戦でアラフィリップをエスコートし、最終局面でアラフィリップが粘りチームの献身に応える。状況に応じてエースを変えながら戦う普段の彼らの戦略とは異なる、1人のエースを全員が支える走り。これもまた、ウルフパックの戦いだった。


超級ガリビエ峠の登坂で遅れを取りながら、得意のダウンヒルでライバルを猛追したアラフィリップがこの日もマイヨジョーヌを守った。クイーンステージ(最難関ステージ)を終えてなお首位を守るアラフィリップに、フランス人ツール総合優勝という希望の火が灯る。


ガリビエ峠を今大会で2番目の速さとなる最高時速88.06kmで下ったアラフィリップ。限界までコーナーを攻める走りを支えたのはTarmac Disc。©cyclingimages

だが、終わりは突然訪れた。第19ステージは悪天候による土砂崩れで続行不可能となり、レース中盤の超級山岳イズラン峠の山頂通過タイムを総合成績に反映するという決定が下った。これによりマイヨジョーヌはイズラン峠をトップタイムで駆け上がった若きコロンビアの新星エガン・ベルナル(チーム・イネオス)に渡る。


前日に続きイズラン峠の登りで遅れ、下りで挽回する作戦だったアラフィリップはダウンヒル中に無線でレース中断を伝えられ、バイクを降りた。チームカーの助手席で流した涙は、戦わずにマイヨジョーヌを失う悔しさからだった。ツールに「もしも」は存在しないが、仮にレースが続行していたとしてもマイヨジョーヌを守ることは難しかったかもしれない。しかし彼は、全てを失ったとしても最後まで戦う覚悟を持ってこの日スタートラインに立ったのだ。それはマイヨジョーヌに相応しい、王者のプライドだった。


失意のアラフィリップをマスが抱き締める。© 2019 Getty Images

 


例えマイヨジョーヌを失っても、彼がヒーローであることに変わりはない。集まったファン達に笑顔で応える。© 2019 Getty Images

アルプスを覆う悪天候は翌日も続き、第20ステージもコース短縮が早々に決まった。59qという短距離に圧縮された実質上の最終ステージ、久しぶりにロイヤルブルーのチームジャージを着たアラフィリップは、前日まで自分のものだったマイヨジョーヌを着るベルナルと握手を交わした。


超級山岳ヴァル・トランスの長い登坂でペースを上げるライバル達から後退するアラフィリップに、もう力は残っていなかったのかもしれない。だが彼は諦めなかった。マスのアシストを受け、オールアウトでフィニッシュに飛び込むアラフィリップを、観客達の声援が温かく包む。マイヨジョーヌを失い、総合表彰台から滑り落ちても、アラフィリップはアラフィリップだった。


マイヨジョーヌを失っても最後まで諦めない。持てる力を振り絞ってヴァル・トランスを登る。© 2019 Getty Images


力を出し尽くしてフィニッシュした後は立ち上がれない程。いつだって彼は全力だった。© 2019 Getty Images
 

最終日、第21ステージ。アラフィリップはこのツールを勇敢な走りで大いに沸かせた主役の一人として、総合敢闘賞を獲得した。シャンゼリゼのスプリント勝利は叶わなかった。このツールでチームが得たのは、アラフィリップのステージ2勝とヴィヴィアーニのステージ1勝、アラフィリップの14日間のマイヨジョーヌ、総合5位、そして総合敢闘賞の赤いゼッケン。夕闇の中、凱旋門を背に表彰台に登るアラフィリップの顔は晴れやかだった。


昨年は山岳賞、今年はスーパー敢闘賞。次に表彰台に登る時、彼はどんなアラフィリップになっているのだろうか。© 2019 Getty Images

一日でも長くマイヨジョーヌを着続ける、その夢のためにチームと戦った21日間。ツール終了後のインタビューで「来年はロンド・ファン・フラーンデレンに挑戦したい」と語ったアラフィリップは、今は自身の位置付けをクラシックハンターから変える気はないようだ。
しかし、いずれ総合系に転換し、総合優勝候補としてツール・ド・フランスに臨む日が来るのかもしれない。
何故なら、彼は獅子の心を持つ狼なのだから。

マイヨジョーヌとライオン達はアラフィリップの宝物。ツール終了後、自分を支えてくれたチームメイト達に1枚ずつマイヨジョーヌを手渡し、感謝を伝えた。

■ウルフパックを支えたスペシャライズドバイク
おそらく、開幕前の予定とは全く異なる戦いをツール・ド・フランスで繰り広げたドゥクーニンク・クイックステップ。平坦ステージではVenge、丘陵・山岳ステージではTarmac Disc、そしてタイムトライアルステージではShiv TT Discがウルフパックを支えた。

Vengeについて>
Vengeをオンラインストアでチェックする>

Tarmac Discについて>
Tarmac Discをオンラインストアでチェックする>


マイヨジョーヌを獲得したことで例年以上に集団コントロールを担う時間が長かったドゥクーニンク・クイックステップ。© 2019 Getty Images

彼らにとってはディスクブレーキオンリーで臨む初のツールだったが、メカトラブルなど機材由来のトラブルとは無縁で、終始安定した走りを披露した。スルーアクスルの剛性がスムースな加速を、安定したバイクコントロールがコーナリングを実現し、特にアラフィリップの攻撃的な走りをアシストしている。

乗って実感!やっぱり“S-Works” Tarmac Discはスゴかった!>
 


得意のダウンヒルが光ったアラフィリップ。Tarmac Discは彼のよき相棒だ。©cyclingimages

また、直前にリリースされたShiv TT Discを駆ったドゥクーニンク・クイックステップは、第13ステージの個人タイムトライアルにおいて10位圏内に3人もの選手を送り込んでいる(優勝アラフィリップ、8位アスグリーン、9位マス)。選手自身の力走もさることながら、機材のアドバンテージも十分に活かしたと言えるだろう。

新型Shiv TTについて>


最高のエアロ性能を実現したShiv TT Disc。タイムトライアルでのアドバンテージは計り知れない。© 2019 Getty Images

また、今ツール中に発表されたS-Works Turbo Rapid Air※が早速投入されたことにも触れておきたい。ドゥクーニンク・クイックステップの要望を受け開発されたチューブレスタイヤは軽く、速く、耐パンク性能に優れ、更にハンドリング性能の向上まで実現。第1ステージ、そして第21ステージで青い狼達の脚として道を駆けている。
※発売は2019年秋を予定しております。

RapidAirについて詳しく>


プロ選手達のこだわりが詰まったS-Works Turbo Rapid Air。タイヤが走りに与える影響は、実は大きい。
 

スペシャライズドバイクとウルフパック。この組み合わせが、これからも勝利とドラマを作り上げていくだろう。

【筆者紹介】
池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。ドゥクーニンク・クイックステップがツール・ド・フランスで総合争いをする日が来るとは思っていませんでした!持てる手札を惜しみなく使いながら毎ステージ全力を尽くし、マイヨジョーヌもスプリントも諦めないウルフパックのエモーショナルな走りに胸を熱くしながらの観戦。個人的なMVPはツール初出場のアスグリーン。連日素晴らしい仕事をしながら第17ステージでは逃げに乗り2位に入るなど大活躍で、個人的にはとても嬉しかったです。

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2019/08/09

狼達はマイヨジョーヌの夢を見るか―Tarmac Disc、Venge、Shiv TT Discで駆け抜けたツール・ド・フランス2019@

ジュリアン・アラフィリップとドゥクーニンク・クイックステップの21日間の冒険。「ウルフパック」の戦いの軌跡を振り返ります

狼達はマイヨジョーヌの夢を見るか―Tarmac Disc、Venge、Shiv TT Discで駆け抜けたツール・ド・フランス2019@

■勝利に飢えた狼達と1度目のマイヨジョーヌ
ツール・ド・フランス。本場ヨーロッパでは、サッカーワールドカップ、オリンピックと並ぶ三大スポーツの祭典に数えられるという世界最大の自転車レース。全ての自転車選手の憧れを集める最高峰のグランツールがベルギー・ブリュッセルで開幕したのは7月6日。2019年は第106回大会にして、総合リーダーに与えられる栄光のマイヨジョーヌ(フランス語で黄色いジャージの意)が制定されてから100回目の記念大会だ。5度のツール総合優勝を飾った偉大なる「人喰い」エディ・メルクスゆかりの地ベルギーは、ドゥクーニンク・クイックステップのお膝元でもある。
 



チームプレゼンに登壇するドゥクーニンク・クイックステップ。地元ベルギーのチームだけあり、ひときわ大きな歓声が飛ぶ。©cyclingimages
 

彼らは、勝つためにやって来た。エーススプリンターであるエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)と、前哨戦のツール・ド・スイスで猛威を振るった最強トレインーすなわちカスパー・アスグリーン(デンマーク)、イヴ・ランパールト(ベルギー)、マクシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)、そしてミケル・モルコフ(デンマーク)―をそっくりそのままツールに投入し、スプリントでの必勝態勢を敷いた。実にチームメンバー8人中5人がスプリント要員。残りの3席は、2018年ブエルタ・ア・エスパーニャで表彰台に上がった若き総合エースのエンリク・マス(スペイン)とベテラン山岳アシストのドリス・デヴェナインス(ベルギー)、そして昨年のツールで山岳王に輝いたフレンチパンチャー「ルル」ことジュリアン・アラフィリップに割り当てられた。


未勝利のまま終わったグランツール初戦のジロ・デ・イタリア、その分までツールで勝つ。マスは初めてのツールで経験を積みながら総合上位を狙うが、チームはあくまでもステージ勝利量産のための布陣ー誰もがそう思っていた。
だから、それはちょっとしたボーナスとして受け止められた。第3ステージで独走したアラフィリップが勝利し、「今年は水玉ではなく黄色を狙う」と公言していた通りマイヨジョーヌに袖を通したことは。


シャンパーニュの丘陵地帯で独走勝利を決めたアラフィリップ。彼が得意とするアルデンヌクラシックのようなレイアウトだった。©cyclingimages

開幕スプリントの第1ステージかチームタイムライアルの第2ステージで勝利し、ベルギーでマイヨジョーヌを着るというシナリオは実現できなかった。しかし、ベルギーを出てフランスに入る第3ステージで、彼らは勝利を掴むことができた。
5年ぶりのフランス人マイヨジョーヌ着用選手であるアラフィリップは、翌日の第4ステージではスプリントトレインで先頭を牽引、ヴィヴィアーニの勝利に貢献。チームはステージ2連勝を手にし、ヴィヴィアーニは三大グランツール全てでステージ勝利を飾った選手の仲間入りを果たした。


モルコフ、リケーゼの完璧なリードアウトから発射されたヴィヴィアーニが接戦のスプリントを制した。使用バイクはもちろんVenge。ジロに続いてツールでもVengeが勝利。©cyclingimages

2019年最初の山岳ステージとなった第6ステージで、アラフィリップはマイヨジョーヌを失うことになった。この日逃げに乗りステージ2位でフィニッシュしたジロ山岳王ジュリオ・チッコーネ(イタリア/ トレック・セガフレード)に6秒という僅差で首位を明け渡す。


6つの山岳を経て挑んだ1級山岳ラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ。未舗装路区間と激坂に負けず力を尽くしたアラフィリップだったが、ボーナスタイム差でマイヨジョーヌを脱ぐことに。©cyclingimages

■2度目のマイヨジョーヌと「マイヨジョーヌ・マジック」
フランス革命記念日を翌日に控えた第8ステージ、延々とアップダウンが続く難ステージの最後の登りでアラフィリップが集団から大きく加速する。
「絶対に、マイヨジョーヌを取り戻す。」
気迫の走りに追随した同じフランス人のティボー・ピノ(グルパマFDJ)とともに、ステージ勝利に向けて独走するプロトン随一のエスケープスペシャリスト、トーマス・デヘント(ベルギー/ ロット・スーダル)に迫る力走を見せた。集団ではマスがローテーションを妨害し、アラフィリップの逃げをアシスト。フランス人同士の協調とチームメイトの助けを得て、アラフィリップは再びマイヨジョーヌに袖を通した。


第3ステージと同じく最後の登りでアタックし、タイムを奪取したアラフィリップ。ステージ2位は協調してくれたピノに譲ったのかもしれない。彼の得意とするアップダウンでの加速をTarmac Discの剛性と軽さが助けている。©cyclingimages

第9ステージ、フランス国民の記念日をマイヨジョーヌで過ごしたアラフィリップとウルフパックは、翌第10ステージで攻撃に出た。終盤の横風区間でペースアップし、集団分裂を仕掛ける。チーム・イネオスなどのライバルチームも攻勢に加わったことで、メイン集団を破壊することに成功。小さな先頭集団で争われたマッチスプリントではヴィヴィアーニは惜しくも2着だったが、マスの総合順位を引き上げるという目的を達成し、アラフィリップ自身も総合タイム差でのリードを拡げることになった。


横風分断はドゥクーニンク・クイックステップのお家芸。多くのライバル達を後方に置き去りにし、猛スピードで風を切り裂いて走る。© 2019 Getty Images

「総合成績を狙っているわけじゃない。これから起こることは全てボーナスだ。」とコメントしていたアラフィリップだが、マイヨジョーヌを着続ける彼への期待は日を追うごとに高まっていく。フランス人によるツール総合優勝。実現できたなら実に34年ぶりの快挙となる。
「まさか」と「もしかしたら」が交錯する中迎えた第13ステージ、個人タイムトライアル。この日、フランス中が、いや世界中がアラフィリップの走りに熱狂した。誰も、おそらく本人さえも予想していなかったステージ優勝。最終走者として出走したアラフィリップが、ステージ優勝最右翼と言われていたゲラント・トーマス(イギリス/ チーム・イネオス)に14秒差をつける素晴らしい走りを見せた。タイムトライアル巧者にしてツール前年覇者トーマスにマイヨジョーヌを奪われるのでは、という周囲の予想をひっくり返し、総合リードを拡げて臨んだ翌第14ステージでもサプライズが待っていた。


フランス人のツール個人タイムトライアルステージ勝利は18年ぶり、マイヨジョーヌを着ての勝利は実に35年ぶりと記録尽くしの勝利。アラフィリップの走りを後押ししたのは観客達の声援とリリースされたばかりのShiv TT Disc。© 2019 Getty Images


デンマークチャンピオンジャージで序盤暫定首位、最終的にステージ8位に入賞したアスグリーン。第3ステージでの落車負傷、連日の集団牽引にも関わらず力走。© 2019 Getty Images


総合順位が大きく動くことになった第13ステージ。ステージ9位につけたマスが総合4位と新人賞ジャージを獲得。© 2019 Getty Images

第14ステージは超級山岳トゥールマレーにゴールする難関山岳ステージ。モビスターやグルパマFDJ、チームユンボ・ヴィスマなど総合エースを擁するチームが先頭でハイペースを刻み、脱落する選手が続出する。しかしアラフィリップは先頭に食らいつき、更にステージ勝利に向けてアタックしたピノを追って急勾配区間でスプリント、ライバル達をふるい落とし2位でフィニッシュ。総合2位以下とのタイム差を更に拡げる。


Tarmac Discで超級トゥールマレーを駆け上がったアラフィリップ。他の総合系ライバルを圧倒する走りを見せた。© 2019 Getty Images

長い登りやパリ〜ルーベのようなパヴェが主役のレースは専門外だが、アップダウンや激坂を得意とし、タイムトライアルもスプリントもこなす、守備範囲の広いクラシックハンター兼パンチャー。それがこれまでのアラフィリップだった。グランツールの本格的な山岳ステージでライバルを突き放す走りを見せる彼を、一体誰が想像しただろうか。リーダージャージを着る選手は特別な力を発揮することがあるという。「マイヨジョーヌ・マジック」が実在するとしたら、きっとアラフィリップはその魔法を味方につけていた。
翌日の第15ステージでは遂に遅れる姿を見せたが、アラフィリップが総合首位を保ったままツールは最後の休息日を迎える。


マイヨジョーヌと声援を力に変えて、総合首位を走り続けるアラフィリップ。休息日には報道陣が詰めかけた。© 2019 Getty Images

■運命の最終週
「史上最も標高の高いツール」という呼び名にふさわしく、標高2,000mを超える山岳が数多く配置された第3週。アルプス三連戦の初日となる第18ステージ、ドゥクーニンク・クイックステップはマイヨジョーヌ防衛のために持てるリソースを惜しみなく投入した。逃げ集団にリケーゼを送り込み、メイン集団に残ったメンバーが交代で先頭を牽引する。スプリンターのヴィヴィアーニも例外ではなく、登りでアラフィリップをアシスト。チームメイトが総力戦でアラフィリップをエスコートし、最終局面でアラフィリップが粘りチームの献身に応える。状況に応じてエースを変えながら戦う普段の彼らの戦略とは異なる、1人のエースを全員が支える走り。これもまた、ウルフパックの戦いだった。


超級ガリビエ峠の登坂で遅れを取りながら、得意のダウンヒルでライバルを猛追したアラフィリップがこの日もマイヨジョーヌを守った。クイーンステージ(最難関ステージ)を終えてなお首位を守るアラフィリップに、フランス人ツール総合優勝という希望の火が灯る。


ガリビエ峠を今大会で2番目の速さとなる最高時速88.06kmで下ったアラフィリップ。限界までコーナーを攻める走りを支えたのはTarmac Disc。©cyclingimages

だが、終わりは突然訪れた。第19ステージは悪天候による土砂崩れで続行不可能となり、レース中盤の超級山岳イズラン峠の山頂通過タイムを総合成績に反映するという決定が下った。これによりマイヨジョーヌはイズラン峠をトップタイムで駆け上がった若きコロンビアの新星エガン・ベルナル(チーム・イネオス)に渡る。


前日に続きイズラン峠の登りで遅れ、下りで挽回する作戦だったアラフィリップはダウンヒル中に無線でレース中断を伝えられ、バイクを降りた。チームカーの助手席で流した涙は、戦わずにマイヨジョーヌを失う悔しさからだった。ツールに「もしも」は存在しないが、仮にレースが続行していたとしてもマイヨジョーヌを守ることは難しかったかもしれない。しかし彼は、全てを失ったとしても最後まで戦う覚悟を持ってこの日スタートラインに立ったのだ。それはマイヨジョーヌに相応しい、王者のプライドだった。


失意のアラフィリップをマスが抱き締める。© 2019 Getty Images

 


例えマイヨジョーヌを失っても、彼がヒーローであることに変わりはない。集まったファン達に笑顔で応える。© 2019 Getty Images

アルプスを覆う悪天候は翌日も続き、第20ステージもコース短縮が早々に決まった。59qという短距離に圧縮された実質上の最終ステージ、久しぶりにロイヤルブルーのチームジャージを着たアラフィリップは、前日まで自分のものだったマイヨジョーヌを着るベルナルと握手を交わした。


超級山岳ヴァル・トランスの長い登坂でペースを上げるライバル達から後退するアラフィリップに、もう力は残っていなかったのかもしれない。だが彼は諦めなかった。マスのアシストを受け、オールアウトでフィニッシュに飛び込むアラフィリップを、観客達の声援が温かく包む。マイヨジョーヌを失い、総合表彰台から滑り落ちても、アラフィリップはアラフィリップだった。


マイヨジョーヌを失っても最後まで諦めない。持てる力を振り絞ってヴァル・トランスを登る。© 2019 Getty Images


力を出し尽くしてフィニッシュした後は立ち上がれない程。いつだって彼は全力だった。© 2019 Getty Images
 

最終日、第21ステージ。アラフィリップはこのツールを勇敢な走りで大いに沸かせた主役の一人として、総合敢闘賞を獲得した。シャンゼリゼのスプリント勝利は叶わなかった。このツールでチームが得たのは、アラフィリップのステージ2勝とヴィヴィアーニのステージ1勝、アラフィリップの14日間のマイヨジョーヌ、総合5位、そして総合敢闘賞の赤いゼッケン。夕闇の中、凱旋門を背に表彰台に登るアラフィリップの顔は晴れやかだった。


昨年は山岳賞、今年はスーパー敢闘賞。次に表彰台に登る時、彼はどんなアラフィリップになっているのだろうか。© 2019 Getty Images

一日でも長くマイヨジョーヌを着続ける、その夢のためにチームと戦った21日間。ツール終了後のインタビューで「来年はロンド・ファン・フラーンデレンに挑戦したい」と語ったアラフィリップは、今は自身の位置付けをクラシックハンターから変える気はないようだ。
しかし、いずれ総合系に転換し、総合優勝候補としてツール・ド・フランスに臨む日が来るのかもしれない。
何故なら、彼は獅子の心を持つ狼なのだから。

マイヨジョーヌとライオン達はアラフィリップの宝物。ツール終了後、自分を支えてくれたチームメイト達に1枚ずつマイヨジョーヌを手渡し、感謝を伝えた。

■ウルフパックを支えたスペシャライズドバイク
おそらく、開幕前の予定とは全く異なる戦いをツール・ド・フランスで繰り広げたドゥクーニンク・クイックステップ。平坦ステージではVenge、丘陵・山岳ステージではTarmac Disc、そしてタイムトライアルステージではShiv TT Discがウルフパックを支えた。

Vengeについて>
Vengeをオンラインストアでチェックする>

Tarmac Discについて>
Tarmac Discをオンラインストアでチェックする>


マイヨジョーヌを獲得したことで例年以上に集団コントロールを担う時間が長かったドゥクーニンク・クイックステップ。© 2019 Getty Images

彼らにとってはディスクブレーキオンリーで臨む初のツールだったが、メカトラブルなど機材由来のトラブルとは無縁で、終始安定した走りを披露した。スルーアクスルの剛性がスムースな加速を、安定したバイクコントロールがコーナリングを実現し、特にアラフィリップの攻撃的な走りをアシストしている。

乗って実感!やっぱり“S-Works” Tarmac Discはスゴかった!>
 


得意のダウンヒルが光ったアラフィリップ。Tarmac Discは彼のよき相棒だ。©cyclingimages

また、直前にリリースされたShiv TT Discを駆ったドゥクーニンク・クイックステップは、第13ステージの個人タイムトライアルにおいて10位圏内に3人もの選手を送り込んでいる(優勝アラフィリップ、8位アスグリーン、9位マス)。選手自身の力走もさることながら、機材のアドバンテージも十分に活かしたと言えるだろう。

新型Shiv TTについて>


最高のエアロ性能を実現したShiv TT Disc。タイムトライアルでのアドバンテージは計り知れない。© 2019 Getty Images

また、今ツール中に発表されたS-Works Turbo Rapid Air※が早速投入されたことにも触れておきたい。ドゥクーニンク・クイックステップの要望を受け開発されたチューブレスタイヤは軽く、速く、耐パンク性能に優れ、更にハンドリング性能の向上まで実現。第1ステージ、そして第21ステージで青い狼達の脚として道を駆けている。
※発売は2019年秋を予定しております。

RapidAirについて詳しく>


プロ選手達のこだわりが詰まったS-Works Turbo Rapid Air。タイヤが走りに与える影響は、実は大きい。
 

スペシャライズドバイクとウルフパック。この組み合わせが、これからも勝利とドラマを作り上げていくだろう。

【筆者紹介】
池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。ドゥクーニンク・クイックステップがツール・ド・フランスで総合争いをする日が来るとは思っていませんでした!持てる手札を惜しみなく使いながら毎ステージ全力を尽くし、マイヨジョーヌもスプリントも諦めないウルフパックのエモーショナルな走りに胸を熱くしながらの観戦。個人的なMVPはツール初出場のアスグリーン。連日素晴らしい仕事をしながら第17ステージでは逃げに乗り2位に入るなど大活躍で、個人的にはとても嬉しかったです。

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