2020.04.01

チャンスを掴んだシャフマンとVenge、Tarmac DiscそしてShiv TT ボーラ・ハンスグローエのパリ〜ニース2020

チームとして2度目のステージレース総合優勝を成し遂げたボーラ・ハンスグローエ。彼らが戦った7日間を振り返ります。

欧州での新型コロナウィルスの感染拡大によりレースのキャンセルが相次ぐ中で開催されたパリ〜ニース。マキシミリアン・シャフマン(ドイツ/ ボーラ・ハンスグローエ)が総合優勝を飾った。 ボーラ・ハンスグローエのステージレース総合優勝はこれが2回目となる。

1回目の勝利は昨年のプレジデンシャル・サイクリング・ツアー・オブ・ターキー。クイーンステージである第5ステージ、超級山岳カルテペを制し総合首位に立ったフェリックス・グロスチャートナー(オーストリア)が総合優勝に輝いた。 総合系チームとして躍進を続けるボーラ・ハンスグローエのパリ〜ニースと、選手達を支えたスペシャライズドのバイクを紹介する。


2019ツアー・オブ・ターキー第5ステージ、冷たい雨が降る超級山岳カルテペ決戦。
グロスチャートナーがネオプロの超新星レムコ・エヴェネプール(ベルギー/ ドゥクーニンク・クイックステップ)との登坂バトルを制し、ステージ勝利も勝ち取った。

一挙両得の器用なチーム
そもそもボーラ・ハンスグローエとはどんなチームなのか。チームの成り立ちから振り返ってみよう。 UCI最上位カテゴリチームであるワールドツアーチームになったのは2017年。2016年で解散したティンコフ(ロシア)からペテル・サガン(スロバキア)、ラファウ・マイカ(ポーランド)ら有力選手、そしてセカンドスポンサーにハンスグローエ社(ドイツのシャワー、水回り機器メーカー)を迎え、プロコンチネンタルチームであったボーラ・アルゴン18から昇格した。ちなみに、このタイミングでスペシャライズドがバイクサプライヤーになっている。


セカンドスポンサーのハンスグローエ社の製品は日本でも購入可能。

2019年のUCIランキングは2位(1位は同じくスペシャライズドがサポートするドゥクーニンク・クイックステップ)。 世界選手権ハットトリックのスーパースター・サガンに目が行きがちだが、その他のメンバーも強力だ。2010年に発足したチーム・ネットアップ時代から在籍している生え抜き選手達の成長も著しい。

所属選手の平均年齢は28.4歳と実はワールドツアー19チーム中最も高い。ベテラン、中堅、若手がバランスよくミックスされたチームと言えるだろう。


チームのスローガンは「Band Of Brothers(絆で結ばれた兄弟)」。結束は固い。

スプリントと総合順位、両方を一度に狙いに行けるのがこのチームの強みだ。2019年ツール・ド・フランスではサガンの7回目のマイヨヴェール(スプリント賞)とエマヌエル・ブッフマン(ドイツ)の総合4位を達成している。

スプリントエースと総合エース、どちらもアシストなくしては上位成績を手に入れることはできない。そのため片方に狙いを絞るチームも多い。アシストの振り分けがしやすいからだ。だが、ボーラ・ハンスグローエはどちらも諦めない。チームワークと、そして個の力でカバーする。


誰もが認めるロードレース界のナンバーワン・スターのサガン。7度のポイント賞は史上最多。


安定感のある走りでツール総合4位となったブッフマンはチームの総合エース。
派手さはないが、安定した走りで上位入賞を重ねる実力派だ。


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「太陽へ向かうレース」

パリ〜ニースは「太陽へ向かうレース」という通称の通り、冬の空気が残るパリ近郊から南仏ニースを目指す8日間のステージレースだ。コースは平坦、アップダウン(丘陵)、山岳、そして個人タイムトライアルも設定されており、総合力が試される。


「太陽へ向かうレース」という名称だが、前半のステージは悪天候もあって春先のクラシックのような過酷さ。

新型コロナウィルス感染拡大の影響を受け、ストラーデビアンケ、ティレーノ〜アドリアティコ、そしてモニュメント初戦ミラノ〜サンレモとイタリアでのレースが次々とキャンセルになる中で開催されたパリ〜ニース。ワールドツアー19チーム中7チーム(イネオス、ミッチェルトン・スコット、UAEチームエミレーツ、アスタナ、CCCチーム、モビスター、ユンボ・ヴィズマ)が欠場を決めたことで、ワイルドカード枠でプロチーム2チーム(サーカス・ワンティゴベール、B&Bホテルズ・ヴィタルコンセプト)が追加となり、更に1チームの出場人数は7人から8人に増員。これにより出場を表明していたチームはこぞって主力選手をパリ〜ニースに投入、総合系からクラシックスペシャリストまでエース級の選手が集結することになった。

ボーラ・ハンスグローエからはチームのスプリントWエース、サガンとパスカル・アッカーマン(ドイツ)が参戦。ちなみにこの2人はジロ・デ・イタリア(延期が決定。新日程は4月3日以降に発表予定)でも共闘予定だ。 更に総合成績のためにシャフマン、グロスチャートナー、そしてパトリック・コンラッド(オーストリア)と登りに対応できるメンバーを揃え、万全の布陣で臨むこととなった。



ボーラ・ハンスグローエも主力メンバーを揃えた。ちなみにペテル・サガンのパリ〜ニース参戦は9年ぶり。

過去何度も波乱を起こしてきた横風は第1ステージから吹き荒れた。悪天候と風の中、ドゥクーニンク・クイックステップやサンウェブなどがペースアップを繰り返し、集団を破壊。更にそこからジュリアン・アラフィリップ(フランス/ ドゥクーニンク・クイックステップ)とティシュ・ベノート(ベルギー/ チーム・サンウェブ)が抜け出し、終盤まで先行する展開となった。 この日はアシストに徹したサガンによって横風分断から守られ、脚を温存していたシャフマンはディラン・トゥーンス(ベルギー/ バーレーン・マクラーレン)ともに追走集団から飛び出し、粘り強く先頭の2人を追走。残り3q弱で追い付くことに成功する。

精鋭4人によるスプリントはシャフマンの勝利。他チームの総合系選手達がタイムを失う中、初日からシャフマンがリーダージャージ「マイヨジョーヌ(黄色いジャージの意)」に袖を通した。


このレースでは有能なアシストとして活躍したサガン。吹き荒れる風をVengeで切り裂いて先頭を進む。


クレバーな動きで初日から区間勝利とリーダージャージを手に入れたシャフマン。ドイツチャンピオンジャージを着て走ったのは初日だけで、翌日以降はマイヨジョーヌを着用し続けた。

第2ステージも第1ステージに続く冷たい雨と風、そして横風分断。ライバル達から総合首位のリードを奪うため、そしてスプリントの勝利を掴むため、先頭集団に人数を揃えたボーラ・ハンスグローエは積極的に動いた。
この日もサガンのアシストが光った。シャフマンを護衛しながらペースアップを行い、集団を分裂させ、更に最終盤では発射台としてアッカーマンを送り出す。千両役者ぶりを存分に発揮した。
アッカーマンのスプリントは伸び切らず、惜しくも2位。しかしシャフマンは上位でフィニッシュし、この日もマイヨジョーヌを守ることに成功した。


前半のスプリントステージではVengeをチョイス、前に出て積極的にペースアップを図る。攻撃は最大の防御だ。

第3ステージも雨、風、そして落車。隙あらば横風分断。一瞬たりとも気を抜くことはできない。リーダーチームとして集団牽引の仕事をこなしつつ、他チームの危険な動きには素早く対応する。この日はサガンがスプリントに挑んだが、前日のアッカーマンに続いて2位となった。


一日中仕事をこなし、最後にスプリントに参加するという千両役者ぶりを発揮。
2位に終わったものの、サガンの多才ぶりに改めて驚く。

 

4日目はテクニカルなショートコースでの個人タイムトライアル。個の力が試されるこの日、シャフマンは攻めの走りを見せ区間2位。タイムトライアルスペシャリストに競り勝ち、総合優勝を狙うライバル達を突き放した。


タイムトライアルステージではShiv TTの出番だ。アップダウン、コーナーが設定された難コースではその軽さとハンドリング性能が力になってくれる。

第5ステージは強力な逃げメンバーをスプリントエース擁する集団が追いかける展開に。ハイスピードレースのフィナーレは集団スプリントだった。この日DNFを選択したアッカーマンに代わってサガンがステージ勝利を狙うも3位となった。

初日から5日間シャフマンの総合首位を守り通したボーラ・ハンスグローエ。レースは後半、いよいよ登りが始まる。 シャフマンは総合力に優れた選手ではあるが、所謂クライマーではない。山岳ステージではより登りを得意とするライバル達が攻撃を仕掛けてくることが予想された。攻撃に耐え、第4ステージの個人タイムトライアルで稼いだリードを守り切ることができれば総合優勝を勝ち取ることができる。

開幕前から大会に影を落とし続けていた新型コロナウィルスの感染拡大によって最終第8ステージのキャンセルが決定し、最終日前日となった第6ステージは危険な展開が続く。この日組織的な動きを見せたサンウェブが総合ライバルであるベノートの独走を演出、ステージ勝利をもぎ取った。 追走するシャフマンはフィニッシュ手前のカーブで落車してしまう手痛いミス。タイムは救済されたものの、総合2位のベノートに差を詰められる結果となった。


思わぬ形でタイムを失ったシャフマン。
第7ステージ終了時点でグリーンのポイント賞ジャージを着用するベノートとのタイム差はわずか36秒に。

 

新型コロナウィルスの影響により、選手、チームが次々と去っていく中迎えた最終第7ステージ。この日のスタート地点にはペテル・ユライのサガンブラザーズの姿はなかった。代わりに奮闘したのがシュヴァルツマン、コンラッド、そして昨年一足先にステージレース総合優勝を成し遂げたグロスチャートナーだ。彼らは序盤から断続的に登りが続くクイーンステージで集団をコントロールし、アラフィリップやトーマス・デヘント(ベルギー/ ロット・スーダル)を含む強力な逃げメンバーとのタイム差を詰めていく。


横風の平坦ステージでも山岳でも力強い走りを見せたコンラッドは現オーストリアチャンピオン。
2018年ジロ・デ・イタリア総合7位、2019年ツール・ド・スイス3位など実績ある選手だ。

ステージの最後にそびえ立つ1級山岳ラ・コルミアーヌ。ナイロ・キンタナ(コロンビア)のステージ優勝を狙うアルケア・サムシックのペースアップにより、シャフマンは早々に単騎での戦いを強いられることになる。狙いすましたアタックでキンタナが飛び立つと、残ったのはベノート、セルジオ・イギータ(コロンビア/ EFプロサイクリング)、ヴィンチェンツォ・ニバリ(イタリア/ トレック・セガフレード)、ティボー・ピノ(フランス/ グルパマFDJ)ら総合上位のエース達だ。彼らが次々に繰り出すアタックに、シャフマンはひたすらに耐えた。逆転を狙い抜け出したベノートを追い、他のライバルに遅れを取らないよう、ただただ山を登り続ける。
後に「地獄のようだった」振り返る我慢の時間を経て、ようやくシャフマンはフィニッシュに辿り着く。既にキンタナ、そしてベノートがゴールした後だった。


各チームのエース同士がぶつかり合う山岳決戦。このステージでは登坂力に優れたTarmac Discを選択。

まさにオールアウト。しばらく起き上がれない程だった。貯金を崩しながらもリードを守れたか、それとも逆転を許してしまったのか。全てを出し尽くしたシャフマンに総合優勝が告げられる。
この瞬間、全てが報われた。自身初のステージレース総合優勝。ドイツ期待の総合系がキャリア最大の勝利を掴んだ。


地獄から天国へ。ようやく掴んだ表彰台の一番上でシャフマンの笑顔が弾ける。
 

「皆、僕が総合系としてやっていけるのか疑問視していた。でも、こうして勝つことができた。しかもパリ〜ニース、この格式あるステージレースで勝てたんだ」と喜ぶシャフマン。これまでもステージレースの区間勝利やワンデーレースの上位入賞を重ねてきたが、ステージレースの総合優勝には届かなかった。2020年初戦ヴォルタ・アン・アルガルヴェでも終始快走を見せたが、エヴェネプールに敗れ2位。シーズン2戦目のパリ〜ニースは特に過酷なことで有名なレースだ。いつレースがキャンセルになるかわからず、更に次々とプロトンから人が去っていく中、毎日スタートからフィニッシュまでもがき続けて手に入れたマイヨジョーヌをチームで守り抜いた。 「我々は一人のムービースター、リーダーがいるチームではなく、若くて素晴らしい選手が複数いるパランスの取れたチーム」と教えてくれたのは監督のゼムケ氏だったが、その言葉を体現するようなレースを見せてくれた。今や強豪総合系チームとなったボーラ・ハンスグローエ。彼らは総合成績もスプリントも貪欲に追いかける。二兎を追う者だけが二兎を得ることができるのだ。

パリ〜ニースを最後にしばしの間レースはお休み。サガンのキャプション大喜利など選手達のSNSをチェックしつつ、再開を楽しみに待とう。

リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに挑むボーラ・ハンスグローエ (2)レース直前監督インタビュー>

パリ〜ニースを走ったバイク紹介

縮小版グランツールのような多彩なコースで構成されたパリ〜ニース。チームの総合力に加えて、バイクの総合力も試される。スペシャライズドは平坦、山岳、そして個人タイムトライアルの全てで選手の走りを支えた。

総合優勝を飾ったシャフマンは全7ステージ中4ステージをVengeで戦った。パリ〜ニースは例年僅差で勝者が決まる。横風やトラブルでの遅れは許されない。スペシャライズドが開発した「最速のエアロバイク」Vengeは平坦での空力に優れるばかりでなく、軽量でクイックな加速性能を持つ。ライバル達のアタックが頻発するサバイバルな展開では特に頼りになる存在だ。

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2019ジロ・デ・イタリアでポイント賞を獲得したパスカル・アッカーマン(ドイツ)もVengeを愛用。
エーススプリンター達の愛車というイメージが強いが、軽量でクイックな乗り味はオールラウンダーの力にもなってくれる。

近年の個人タイムトライアルステージはテクニカルなカーブや起伏の多いルート等、一筋縄ではいかないコース設定が登場する。Shiv TTはこうした難コースで真価を発揮するバイクだ。ディスクブレーキ搭載により走行時の安定性とエアロ性能がより高まった。

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2019年ツール・ド・フランス第2ステージチームタイムトライアルでも登場したShiv TT。

山岳ステージで選手達が選ぶのはTarmac Disc。登りにおける重要要素である軽さはもちろん、ディスクブレーキ化に伴い搭載されたスルーアクスルが生み出す剛性により、登りも下りも思いのままに走ることができる。更にサイズごとに設計を最適化するRIDER-FIRST ENGINEERED™により、衝撃吸収に優れ乗り心地は快適そのもの。
平坦ステージでもTarmac Discを愛用する選手もいる程だ。まさに究極のオールラウンドバイクと言えるだろう。

世界最高峰のレースを走る選手達とともに進化してきたスペシャライズドバイク。総合成績とスプリントを追求するボーラ・ハンスグローエにとっては頼もしい相棒だ。プロが認める実力を、ぜひ体感してみてほしい。

Tarmac Discについて>
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ボーラ・ハンスグローエのもう1人の総合系エース、ラファウ・マイカ(ポーランド)。
厳しい山岳を得意とする選手で、Tarmac Discをよくチョイスしている。

■今回の記事で紹介した選手-プロ選手チップス
記事の中で紹介した選手達の特徴を、小ネタも入れてカード形式でお届けします。
レース観戦中など、この選手どんな選手だっけ?と思い出してもらえれば幸いです。


【筆者紹介】 文章:池田 綾(アヤフィリップ) サイクリングライター。昨年のリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ3位入賞を現地で祝ったシャフマンの総合優勝、とても嬉しく思います。少し話す機会があったのですが、彼が連日の表彰台で見せていたあの笑顔、あれが素のナイスガイです。

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