2021/08/29 01:01

スペシャライズドライダーのツール・ド・フランス2021を振り返る

カヴの快進撃とマイヨヴェール、そして3つの独走勝利。スペシャライズドライダーたちのツールを振り返ります。

スペシャライズドライダーのツール・ド・フランス2021を振り返る

ツール・ド・フランス。世界最大のロードレースだ。普段ロードレースは観ないが名前は知っている、という方も多いだろう。

21日間で争われるステージレース「グランツール」は全部で3つ。5月のジロ・デ・イタリア、8月のブエルタ・ア・エスパーニャ(スペイン)、そして7月のツール・ド・フランスである。今年のツールは五輪開催を考慮し、通常よりも1週間早いスケジュールでの開催となった。


2021年のグランデパール(開幕地)はフランス・ブルターニュ半島の西端に位置するブレスト。世界最古のサイクリングイベントにして長距離サイクリング「ブルベ」の最高峰「パリ・ブレスト・パリ」で知られる街でもある。自転車を愛する街ブレストをスタートしたプロトンはフランスを大きく右回りに走り、最後はお馴染みのパリ・シャンゼリゼにフィニッシュ。総走行距離は3,414km。レースの難易度は高く、アルプス、ピレネーなどの難関山岳、計2回で58qを走る個人タイムトライアルを含む。

スペシャライズドがサポートする2チームにとっては大成功のツールとなった。ドゥクーニンク・クイックステップとボーラ・ハンスグローエは、全体の3分の1にあたる計7ステージを勝利。更にマーク・カヴェンディッシュ(イギリス/ドゥクーニンク・クイックステップ)が最強スプリンターに与えられるマイヨヴェル(緑色のジャージの意)を獲得している。世界最高峰のレースでのスペシャライズドライダーの活躍を振り返っていこう。

ドゥクーニンク・クイックステップ―復活のカヴ

今年のツールの主役は誰か。マーク・カヴェンディッシュがその1人だったことは間違いない。なにしろ1人で4勝した。もちろん今大会の最多勝利選手である。

そもそもカヴェンディッシュのツール出場は想定外だった。チームのスプリントエースは昨年マイヨヴェールを勝ち取ったサム・ベネット(アイルランド)。だが膝の故障からの回復が間に合わず、直前に急遽カヴェンディッシュの出場が決まった。


現役選手では最多となるツール区間30勝の記録を持つ名手のカヴ。しかし3年ぶりのツール、最後にステージ勝利を飾ったのは5年前。長い低迷の時間を経て、古巣であるドゥクーニンク・クイックステップに戻ってきた。今季はツアー・オブ・ターキーやベルギーツアーで勝利し、復調の兆しを見せてはいた。だが世界最高峰の選手が揃うツールで勝つことができるだろうか。期待と疑問が入り混じった空気が漂う中、カヴのツールは幕を開ける。

始まってみれば、快進撃だった。大会1回目の集団スプリントとなったStage3こそトラブルで足止めされスプリントに参加できなかったものの、Stage4ではライバルたちの隙間を縫う絶妙なライン取りでフィニッシュラインへ飛び込んだ。緩斜面でのスプリントを後押ししたのはTarmac SL7のクイックなハンドリングと加速。出身地にちなんだ「マン島ミサイル」の異名にふさわしい圧巻の走り。チームメイトのみならずライバルたちも惜しみない祝福をカヴェンディッシュに贈った。チームに感謝の言葉を述べながら涙を流すカヴェンディッシュの姿に、世界中が暖かい歓喜に包まれる。

Stage4のフィニッシュ地フジェールはエティックス・クイックステップ所属時代に走った2015年ツールStage7で勝利した思い出の地。
6年前と同じチーム、同じガッツポーズで強いカヴが帰ってきた。© Getty Images

そこからは誰もカヴェンディッシュを止められなかった。カヴ自身の強さはもちろん、スプリントトレインの強さも光った。初日に勝利し早々にマイヨジョーヌに袖を通していた世界王者ジュリアン・アラフィリップ(フランス)を筆頭に、ロンド・ファン・フラーンデレン覇者カスパー・アスグリーン(デンマーク)、オンループ・ヘットニュースブラッドを勝ったダヴィデ・バッレリーニ(イタリア)、そして最強のリードアウトマンであるミケル・モルコフ(デンマーク)らが世界最速の列車を走らせた。列車の最後尾を走るカヴは時にライバルの加速をも利用しながらフィニッシュラインを目指す。175pとスプリンターにしては小柄なカヴが下ハンドルを握ってもがきだすと、もう彼を捕まえることはできないのだ。


シャトールーにフィニッシュするStage6で今大会2勝目。
2008年と2011年のシャトールーステージでも勝利を飾っており、この街では負けなし。© 2021 Getty Images


Stage1、アルデンヌクラシックを思わせる起伏と激坂を制したアラフィリップ。
今ツールでは逃げて良し、スプリントトレインを牽いて良しと千両役者ぶりを存分に見せつけた。© 2021 Getty Images

ファンの興味は次第にカヴェンディッシュの勝利数に移っていく。すなわち、あのエディ・メルクスが持つツール最多勝利数である34勝に並べるか、そして更新できるか。カヴの勢いは止まらない。


Stage10、完璧なチームワークで今大会3勝目。その様はまさに集団で狩りをする「ウルフパック(狼の群れ)」
勝利を確信したリードアウトマン、モルコフが後ろでガッツポーズをしているのに注目。
© 2021 Getty Images

カヴのヘルメットはマイヨヴェール仕様のS-WORKS EVADE.。
スペシャライズドが誇る風洞実験施設ウィントンネルでのテストでベンチレーションを最適化、世界で一番速く涼しく快適なヘルメットを作り上げた。
© 2021 Getty Images


脚の力をペダルに伝えるシューズはスプリンターには特に重要な機材。
パワー伝達に優れたS-WORKS Aresシューズは理想的。しかも履き心地は快適そのもの。© 2021 Getty Images

勝てばメルクスの記録34勝に並ぶStage12。過去7回逃げ切り勝利を見守ってきた城塞都市カルカッソンヌがスプリントバトルの舞台となった。終盤に連続して登場するコーナーをクリアし、最後は発射台モルコフとのコンビネーションでワンツーフィニッシュを決めた。ついにツール通算34勝目。36歳のカヴェンディッシュは同大会で区間4勝を飾った最年長選手となった。


Stage13でついに今大会4勝目にしてツール通算34勝目をマーク。
ハンドルを投げているのはモルコフ(写真右から2番目) カヴを助けるモルコフ自身も優秀なスプリンターである。© 2021 Getty Images


Stage13終盤に発生した落車で頼れる牽引役のティム・デクレルク(ベルギー)が落車。
チームメイトたちがカヴの勝利のために牽く集団から大きく遅れ、たった1人でフィニッシュを目指すことに。
勝利のために、時に自らを犠牲にしながらチームに貢献する。
それがアシストの仕事だ。© 2021 Getty Images

難関山岳が多く登場する後半、登坂を苦手とするスプリンターは時間との戦いを強いられる。タイムアウトになればそこでレースは終わってしまう。しかし、ここでも「ウルフパック」が抜群のチームワークを見せる。カヴェンディッシュを守り、決められた時間内にしっかりとフィニッシュラインに送り届けた。安心してチームメイトに全てを任せるカヴは、笑顔さえ見せながらいくつもの山を越えてみせた。


リードアウトトレインは優秀な親衛隊でもある。モルコフ、バッレリーニ、そして落車負傷したデクレルクもしっかり仕事をこなす。
普段はアラフィリップの相棒を務めるドリス・デヴェナインス(ベルギー/写真左)は厳しい山岳での守護天使だ。© 2021 Getty Images

そして迎えた最終日、パリ・シャンゼリゼ。勝てばツール通算35勝目の新記録だったが、それはかなわなかった。しかし量産した勝利で10年ぶりのマイヨヴェールを確定させたカヴェンディッシュは、夕陽が照らす表彰台で1ヶ月前には想像もしていなかった栄光を存分に味わった。


Stage21を勝てなかったことは悔しいだろう。だが復活を果たしたカヴには次がある。だって誰がこの結末を想像しただろうか。不可能なことは何もないと、他ならぬカヴ自身が世界中に教えてくれたのだ。


カヴェンディッシュのツール通算34勝を祝うトップチューブのステッカー。© 2021 Getty Images


機材には人一倍こだわりを見せていたカヴェンディッシュ。スタート前にクランクまわりを入念にチェック。
スプリントも山岳もオールマイティーなTarmac SL7はカヴの良き相棒となった。© 2021 Getty Images


シャンゼリゼで愛する子どもたちと表彰台に上がるカヴェンディッシュ。
ドゥクーニンク・クイックステップは2年連続のマイヨヴェール獲得だ。© 2021 Getty Images

ボーラ・ハンスグローエ―攻めの走りを貫く

ペテル・サガン(スロバキア)の8度目のマイヨヴェールとウィルコ・ケルデルマン(オランダ)の総合上位入賞を目指してツールに乗り込んだボーラ・ハンスグローエ。

特にサガンは今年のジロ・デ・イタリアで最強スプリンターの証であるマリアチクラミーノ(シクラメン色のジャージの意)を手に入れており、ジロ・ツールの連続スプリント賞に意欲を燃やしていた。しかしStage3で落車に巻き込まれ負傷。レースは続行したものの、膝の痛みに苦しみStage12未出走となった。
サガンがツールを途中棄権するのは初。マイヨヴェールを1度も着ないままツールを終えるのも、初めてのことである。


マイヨヴェールを目指して出場するも、大会最初の集団スプリントで落車に巻き込まれ、無念の途中棄権となったサガン。

スプリントエースを失ったチームは、素早く目標を切り替えた。横風分断により逃げグループでステージが争われたStage12で、早速ニルス・ポリッツ(ドイツ)が勝利。序盤で逃げに乗り、終盤のアタックの応酬を制し、残り12qで独走に持ち込んだ。ワンデークラシックを得意とする彼らしい走りだ。サガンが去ったまさにその日、チームが求めていたツール区間勝利と自身のプロ2勝目を掴み取ってみせたのだ。


今シーズンからボーラ・ハンスグローエに加入したポリッツ。
192pの長身から生み出されるパワーが持ち味。シートポストの高さに注目。© Getty Image

さらにStage16ではパトリック・コンラッド(オーストリア)が独走勝利を決めた。このツールで何度も逃げに乗り込みながら勝ちきれずにいたコンラッドは、この日は一切の迷いを捨てた。最後まで1人で走り切る覚悟を決めて残り37kmで飛び出した。冷たい雨も、風も、険しい登りも、彼を止めることはできなかった。ワールドツアーチーム昇格前からチームに所属する、いわば生え抜きと言っていい選手だ。ジロ・デ・イタリアをはじめ数々のステージレースで上位に入賞する実力派でありながら、ビッグレースでの勝利は初めて。オーストリアチャンピオンジャージでのツールステージ勝利は史上初である。


GRIPTONのコンパウンドのTURBO COTTON TIREのグリップ力でウェットな下りもクリア。
クリンチャーの転がり抵抗の低さは、エアロと軽量を兼ね備えたroval RAPIDE CLXと組み合わせることで、過酷なレースを戦う大きな武器となる


強豪ライダーながら控えめな存在感のコンラッド。しかしこの日は存分に強さを見せつけた。

果敢に逃げに乗って序盤に山岳賞ジャージを着用したイーデ・スヘリンフ(オランダ)も忘れてはいけない選手だ。初出場のツールで伸び伸びと走り、チームを大いに活気づけた。


スヘリンフは23歳。初めてのツールで物怖じすることなく山岳賞争いに参戦した。今後が楽しみなライダーの1人。

エースとしてツールに臨んだケルデルマンは総合5位でツールを終えた。特に山岳ステージでの堅実な走りが印象に残る。ジロを落車で去ったエマニュエル・ブッフマン(ドイツ)らのアシストに支えられ、チームの目標である総合上位入賞を果たしている。


個人タイムトライアルを走るケルデルマン。Shiv TTは平坦でのエアロ性能も登りでの軽さも両立。
特に下りのハンドリングの安定性は選手たちの安心感に繋がる。


シャンゼリゼでツールを締めくくった後は短い祝宴に酔いしれる。
ボーラ・ハンスグローエのスタッフ、選手たちはとにかく明るく、楽しむことを常に忘れない。果敢に攻め、大いに楽しむことが勝利の秘訣なのかもしれない。

【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。カヴの4勝とマイヨヴェールは本当にエキサイティング!ずっと応援していたコンラッドの区間勝利も嬉しかったです。

池田 綾さんの記事はこちらから>

関連記事:
The Right Stuff 「正しい資質」が勝つ2021426日)
アンサング・ヒーロー 最強の勝利請負人202142日)
プロチームの気になるトレーニングキャンプ事情2021126日)
おかえり、カヴ!マーク・カヴェンディッシュが戻ってきた!(2021年1月6日)
Man in the Green―Tarmac SL7、Shiv TTとドゥクーニンク・クイックステップのツール・ド・フランス2020(2020年10月2日)


カテゴリ:
ロード
試乗会/イベント/レース
キーワード:
Tarmac
池田綾

スペシャライズドライダーのツール・ド・フランス2021を振り返る

2021/08/29

スペシャライズドライダーのツール・ド・フランス2021を振り返る

カヴの快進撃とマイヨヴェール、そして3つの独走勝利。スペシャライズドライダーたちのツールを振り返ります。

ツール・ド・フランス。世界最大のロードレースだ。普段ロードレースは観ないが名前は知っている、という方も多いだろう。

21日間で争われるステージレース「グランツール」は全部で3つ。5月のジロ・デ・イタリア、8月のブエルタ・ア・エスパーニャ(スペイン)、そして7月のツール・ド・フランスである。今年のツールは五輪開催を考慮し、通常よりも1週間早いスケジュールでの開催となった。


2021年のグランデパール(開幕地)はフランス・ブルターニュ半島の西端に位置するブレスト。世界最古のサイクリングイベントにして長距離サイクリング「ブルベ」の最高峰「パリ・ブレスト・パリ」で知られる街でもある。自転車を愛する街ブレストをスタートしたプロトンはフランスを大きく右回りに走り、最後はお馴染みのパリ・シャンゼリゼにフィニッシュ。総走行距離は3,414km。レースの難易度は高く、アルプス、ピレネーなどの難関山岳、計2回で58qを走る個人タイムトライアルを含む。

スペシャライズドがサポートする2チームにとっては大成功のツールとなった。ドゥクーニンク・クイックステップとボーラ・ハンスグローエは、全体の3分の1にあたる計7ステージを勝利。更にマーク・カヴェンディッシュ(イギリス/ドゥクーニンク・クイックステップ)が最強スプリンターに与えられるマイヨヴェル(緑色のジャージの意)を獲得している。世界最高峰のレースでのスペシャライズドライダーの活躍を振り返っていこう。

ドゥクーニンク・クイックステップ―復活のカヴ

今年のツールの主役は誰か。マーク・カヴェンディッシュがその1人だったことは間違いない。なにしろ1人で4勝した。もちろん今大会の最多勝利選手である。

そもそもカヴェンディッシュのツール出場は想定外だった。チームのスプリントエースは昨年マイヨヴェールを勝ち取ったサム・ベネット(アイルランド)。だが膝の故障からの回復が間に合わず、直前に急遽カヴェンディッシュの出場が決まった。


現役選手では最多となるツール区間30勝の記録を持つ名手のカヴ。しかし3年ぶりのツール、最後にステージ勝利を飾ったのは5年前。長い低迷の時間を経て、古巣であるドゥクーニンク・クイックステップに戻ってきた。今季はツアー・オブ・ターキーやベルギーツアーで勝利し、復調の兆しを見せてはいた。だが世界最高峰の選手が揃うツールで勝つことができるだろうか。期待と疑問が入り混じった空気が漂う中、カヴのツールは幕を開ける。

始まってみれば、快進撃だった。大会1回目の集団スプリントとなったStage3こそトラブルで足止めされスプリントに参加できなかったものの、Stage4ではライバルたちの隙間を縫う絶妙なライン取りでフィニッシュラインへ飛び込んだ。緩斜面でのスプリントを後押ししたのはTarmac SL7のクイックなハンドリングと加速。出身地にちなんだ「マン島ミサイル」の異名にふさわしい圧巻の走り。チームメイトのみならずライバルたちも惜しみない祝福をカヴェンディッシュに贈った。チームに感謝の言葉を述べながら涙を流すカヴェンディッシュの姿に、世界中が暖かい歓喜に包まれる。

Stage4のフィニッシュ地フジェールはエティックス・クイックステップ所属時代に走った2015年ツールStage7で勝利した思い出の地。
6年前と同じチーム、同じガッツポーズで強いカヴが帰ってきた。© Getty Images

そこからは誰もカヴェンディッシュを止められなかった。カヴ自身の強さはもちろん、スプリントトレインの強さも光った。初日に勝利し早々にマイヨジョーヌに袖を通していた世界王者ジュリアン・アラフィリップ(フランス)を筆頭に、ロンド・ファン・フラーンデレン覇者カスパー・アスグリーン(デンマーク)、オンループ・ヘットニュースブラッドを勝ったダヴィデ・バッレリーニ(イタリア)、そして最強のリードアウトマンであるミケル・モルコフ(デンマーク)らが世界最速の列車を走らせた。列車の最後尾を走るカヴは時にライバルの加速をも利用しながらフィニッシュラインを目指す。175pとスプリンターにしては小柄なカヴが下ハンドルを握ってもがきだすと、もう彼を捕まえることはできないのだ。


シャトールーにフィニッシュするStage6で今大会2勝目。
2008年と2011年のシャトールーステージでも勝利を飾っており、この街では負けなし。© 2021 Getty Images


Stage1、アルデンヌクラシックを思わせる起伏と激坂を制したアラフィリップ。
今ツールでは逃げて良し、スプリントトレインを牽いて良しと千両役者ぶりを存分に見せつけた。© 2021 Getty Images

ファンの興味は次第にカヴェンディッシュの勝利数に移っていく。すなわち、あのエディ・メルクスが持つツール最多勝利数である34勝に並べるか、そして更新できるか。カヴの勢いは止まらない。


Stage10、完璧なチームワークで今大会3勝目。その様はまさに集団で狩りをする「ウルフパック(狼の群れ)」
勝利を確信したリードアウトマン、モルコフが後ろでガッツポーズをしているのに注目。
© 2021 Getty Images

カヴのヘルメットはマイヨヴェール仕様のS-WORKS EVADE.。
スペシャライズドが誇る風洞実験施設ウィントンネルでのテストでベンチレーションを最適化、世界で一番速く涼しく快適なヘルメットを作り上げた。
© 2021 Getty Images


脚の力をペダルに伝えるシューズはスプリンターには特に重要な機材。
パワー伝達に優れたS-WORKS Aresシューズは理想的。しかも履き心地は快適そのもの。© 2021 Getty Images

勝てばメルクスの記録34勝に並ぶStage12。過去7回逃げ切り勝利を見守ってきた城塞都市カルカッソンヌがスプリントバトルの舞台となった。終盤に連続して登場するコーナーをクリアし、最後は発射台モルコフとのコンビネーションでワンツーフィニッシュを決めた。ついにツール通算34勝目。36歳のカヴェンディッシュは同大会で区間4勝を飾った最年長選手となった。


Stage13でついに今大会4勝目にしてツール通算34勝目をマーク。
ハンドルを投げているのはモルコフ(写真右から2番目) カヴを助けるモルコフ自身も優秀なスプリンターである。© 2021 Getty Images


Stage13終盤に発生した落車で頼れる牽引役のティム・デクレルク(ベルギー)が落車。
チームメイトたちがカヴの勝利のために牽く集団から大きく遅れ、たった1人でフィニッシュを目指すことに。
勝利のために、時に自らを犠牲にしながらチームに貢献する。
それがアシストの仕事だ。© 2021 Getty Images

難関山岳が多く登場する後半、登坂を苦手とするスプリンターは時間との戦いを強いられる。タイムアウトになればそこでレースは終わってしまう。しかし、ここでも「ウルフパック」が抜群のチームワークを見せる。カヴェンディッシュを守り、決められた時間内にしっかりとフィニッシュラインに送り届けた。安心してチームメイトに全てを任せるカヴは、笑顔さえ見せながらいくつもの山を越えてみせた。


リードアウトトレインは優秀な親衛隊でもある。モルコフ、バッレリーニ、そして落車負傷したデクレルクもしっかり仕事をこなす。
普段はアラフィリップの相棒を務めるドリス・デヴェナインス(ベルギー/写真左)は厳しい山岳での守護天使だ。© 2021 Getty Images

そして迎えた最終日、パリ・シャンゼリゼ。勝てばツール通算35勝目の新記録だったが、それはかなわなかった。しかし量産した勝利で10年ぶりのマイヨヴェールを確定させたカヴェンディッシュは、夕陽が照らす表彰台で1ヶ月前には想像もしていなかった栄光を存分に味わった。


Stage21を勝てなかったことは悔しいだろう。だが復活を果たしたカヴには次がある。だって誰がこの結末を想像しただろうか。不可能なことは何もないと、他ならぬカヴ自身が世界中に教えてくれたのだ。


カヴェンディッシュのツール通算34勝を祝うトップチューブのステッカー。© 2021 Getty Images


機材には人一倍こだわりを見せていたカヴェンディッシュ。スタート前にクランクまわりを入念にチェック。
スプリントも山岳もオールマイティーなTarmac SL7はカヴの良き相棒となった。© 2021 Getty Images


シャンゼリゼで愛する子どもたちと表彰台に上がるカヴェンディッシュ。
ドゥクーニンク・クイックステップは2年連続のマイヨヴェール獲得だ。© 2021 Getty Images

ボーラ・ハンスグローエ―攻めの走りを貫く

ペテル・サガン(スロバキア)の8度目のマイヨヴェールとウィルコ・ケルデルマン(オランダ)の総合上位入賞を目指してツールに乗り込んだボーラ・ハンスグローエ。

特にサガンは今年のジロ・デ・イタリアで最強スプリンターの証であるマリアチクラミーノ(シクラメン色のジャージの意)を手に入れており、ジロ・ツールの連続スプリント賞に意欲を燃やしていた。しかしStage3で落車に巻き込まれ負傷。レースは続行したものの、膝の痛みに苦しみStage12未出走となった。
サガンがツールを途中棄権するのは初。マイヨヴェールを1度も着ないままツールを終えるのも、初めてのことである。


マイヨヴェールを目指して出場するも、大会最初の集団スプリントで落車に巻き込まれ、無念の途中棄権となったサガン。

スプリントエースを失ったチームは、素早く目標を切り替えた。横風分断により逃げグループでステージが争われたStage12で、早速ニルス・ポリッツ(ドイツ)が勝利。序盤で逃げに乗り、終盤のアタックの応酬を制し、残り12qで独走に持ち込んだ。ワンデークラシックを得意とする彼らしい走りだ。サガンが去ったまさにその日、チームが求めていたツール区間勝利と自身のプロ2勝目を掴み取ってみせたのだ。


今シーズンからボーラ・ハンスグローエに加入したポリッツ。
192pの長身から生み出されるパワーが持ち味。シートポストの高さに注目。© Getty Image

さらにStage16ではパトリック・コンラッド(オーストリア)が独走勝利を決めた。このツールで何度も逃げに乗り込みながら勝ちきれずにいたコンラッドは、この日は一切の迷いを捨てた。最後まで1人で走り切る覚悟を決めて残り37kmで飛び出した。冷たい雨も、風も、険しい登りも、彼を止めることはできなかった。ワールドツアーチーム昇格前からチームに所属する、いわば生え抜きと言っていい選手だ。ジロ・デ・イタリアをはじめ数々のステージレースで上位に入賞する実力派でありながら、ビッグレースでの勝利は初めて。オーストリアチャンピオンジャージでのツールステージ勝利は史上初である。


GRIPTONのコンパウンドのTURBO COTTON TIREのグリップ力でウェットな下りもクリア。
クリンチャーの転がり抵抗の低さは、エアロと軽量を兼ね備えたroval RAPIDE CLXと組み合わせることで、過酷なレースを戦う大きな武器となる


強豪ライダーながら控えめな存在感のコンラッド。しかしこの日は存分に強さを見せつけた。

果敢に逃げに乗って序盤に山岳賞ジャージを着用したイーデ・スヘリンフ(オランダ)も忘れてはいけない選手だ。初出場のツールで伸び伸びと走り、チームを大いに活気づけた。


スヘリンフは23歳。初めてのツールで物怖じすることなく山岳賞争いに参戦した。今後が楽しみなライダーの1人。

エースとしてツールに臨んだケルデルマンは総合5位でツールを終えた。特に山岳ステージでの堅実な走りが印象に残る。ジロを落車で去ったエマニュエル・ブッフマン(ドイツ)らのアシストに支えられ、チームの目標である総合上位入賞を果たしている。


個人タイムトライアルを走るケルデルマン。Shiv TTは平坦でのエアロ性能も登りでの軽さも両立。
特に下りのハンドリングの安定性は選手たちの安心感に繋がる。


シャンゼリゼでツールを締めくくった後は短い祝宴に酔いしれる。
ボーラ・ハンスグローエのスタッフ、選手たちはとにかく明るく、楽しむことを常に忘れない。果敢に攻め、大いに楽しむことが勝利の秘訣なのかもしれない。

【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。カヴの4勝とマイヨヴェールは本当にエキサイティング!ずっと応援していたコンラッドの区間勝利も嬉しかったです。

池田 綾さんの記事はこちらから>

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