2022.01.20

スペシャライズドにレジェンドが集結。そして、日本のMTBシーンが変わる

なぜ、スペシャライズドにはレジェンドたちが集結するのか、山本幸平、竹谷賢二と、マーケティング部の小田島(片山)梨絵。3人のオリンピアンに自由に語ってもらった。

スペシャライズドのアンバサダーに就任した山本幸平。すでに竹谷賢二、松本駿、辻浦圭一など、日本のMTBクロスカントリー界を牽引してきた人物がスペシャライズドのアンバサダーおよびサポート選手として名を連ねているが、そこに新たなレジェンドが加わった格好だ。なぜ、スペシャライズドにはレジェンドたちが集結するのか、そのブランドの魅力とMTB界の今後に向けた取り組みを、山本幸平、竹谷賢二と、マーケティング部の小田島(片山)梨絵。3人のオリンピアンに自由に語ってもらった。

山本幸平(やまもと こうへい)

マウンテンバイク・クロスカントリー競技のプロライダーとして、国内・アジアでは敵なしの強さを誇った。五輪は4大会連続で出場し、東京2020オリンピックでのレースを最後に現役を引退。現在は「Yamamoto Athlete Farm」の代表として、自転車イベントやMTBレーシングチームの運営、MTBスクールの開催など、自転車を身近なスポーツとして普及させるため様々な事業を展開している。北海道出身。1985年生まれ。

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竹谷賢二(たけや けんじ)

MTBクロスカントリー競技で4度の全日本王者に輝き、2004年にアテネ五輪へ出場。引退後はスポーツバイク・アドバイザーとして各種メディアやイベント、スクールを通じてノウハウを提供する。スポーツバイクの適切な普及と発展に携わる。スペシャライズド・ジャパンのアンバサダーであり、昨年は千葉県幕張市に「スペシャライズド 幕張」をオープンさせた。東京都出身。1969年生まれ。

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小田島梨絵(おだじま りえ)


MTBクロスカントリー競技において、全日本選手権を9連覇、二大会連続五輪出場などの輝かしい実績を残して2012年に引退。引退後はJOCの研修でスイスにある国際自転車競技連合のトレーニングセンターで選手育成プログラムを学ぶなどし、MTB競技の普及や後進の育成などに携わる。現在はスペシャライズド・ジャパンでマーケティングを担当。大阪府出身。1979年生まれ。

北林 力(きたばやし りき)

ジュニア時代からMTBクロスカントリー競技で頭角を表し、全日本選手権U-23クラスでは通算2勝を記録(2020年、2021年)。中学時代にアルペンスキー大会の男子大回転で全国制覇を成し遂げるなど、スキーの世界でも一線で活躍していたが、山本幸平と出会ったことをきっかけにMTBのプロとして生きていく道を選ぶ。山本幸平の後継者として世界を目指す次世代のエース。長野県出身。1999年生まれ。

昨年の東京オリンピックを最後に長い競技生活を終えた山本幸平だが、すでに新たなステップへとペダルを漕ぎ始めている。「Yamamoto Athlete Farm」代表として本格始動した山本の「いま」とは?


スペシャライズドジャパンの忘年会ライドで「ただいま」の挨拶をする山本

竹谷賢二(以下竹谷):昨年の東京オリンピックで選手生活にピリオドを打った訳だけど、振り返ってみてどう?

山本:うーん、正直なところ僕の中では東京オリンピックはもう過去の話になってしまっているんですよ(笑)

竹谷:それはもう次の事を見据えてるって事かな?

山本:そうですね。今はもう振り返る暇もないぐらい次の展開に向けて集中しています。選手から「Yamamoto Athlete Farm」の代表へとスムーズに意識を切り替えできたと思います。コロナ禍でオリンピックが1年延期になったじゃないですか。その時間を無駄にしないようにと会社を立ち上げ、引退後の道筋を自然に作ることができました。

小田島:これからどんな展開を考えているの?

山本:ご存じだと思いますが、直近の目標は2024年に開催されるパリ・オリンピックです。出場は前提として、上位入賞を目指しています。そのためにはまず「Athlete Farm SPECIALIZED」の北林 力選手に日本はもちろん、アジアのレースで結果を出してもらわなければなりません。アジア大会、アジア選手権、全日本選手権の3つのタイトルを獲って山本の後に北林あり!というのをアピールしたいですね。それと同時にMTB競技の普及に貢献する活動です。すでに長野県富士見町で毎週水曜日にMTBスクールを開催する事が決まってますし、誰でも参加できるようなMTBレースも主催します。今年は長野県の富士見パノラマスキー場と僕が生まれ育った北海道幕別町で開催予定です。

小田島:MTBの普及とトップ選手の育成は相乗効果のある、切っても切り離せない関係だから。その両方にしっかり力を入れていくという幸平のビジョンにはとても共感を持ったし、その構想を初めて聞いたときにワクワクした。トップ選手の育成に関しては、日本やアジアにとどまらず、真っすぐ世界の頂点を目指してもらいたいな。それは私の夢でもあったりするんだけど、何よりスペシャライズドがサポートするからには本気でなくては、ね。

竹谷:東京オリンピック男子MTBクロスカントリーレースで金メダルを獲ったピドコックは力選手と同世代だもんね。パリ・オリンピックまでの二年間で勢力図は大きく変化するだろうね。ベテランも頑張っているけれど、若手選手はすごい刺激を受けたんじゃないかな。


左からAthlete Farm SPECIALIZED所属選手の北林仁、力、山本幸平。合宿中に自炊をしながら選手としての生活の基礎から経験を伝えていく(写真:Athlete Farm提供)

山本:あとはクラウドファンディングで多くの方から支援をいただき長野県富士見町にある山荘を「ヤマモトアスリートファームベース」として整備したんです。ここでライドと「食」を組み合わせたイベントなども開催したいと思っています。

竹谷:それは意外な発想だね。なぜ食とMTBを組み合わせようと思ったの?

山本:これまで選手として世界各地に遠征してレースを戦ってきましたが、そういう生活の中で食の重要性を身をもって知ったんです。MTBクロスカントリー競技ってロードレースみたいに競技時間が長くないので体重が増えないよう食事の量を抑えなきゃいけないじゃないですか。だから食べるなら選りすぐりの良質なモノという考え方が生活習慣になっているんです。いつ、どういうものを、どうやって食べるかについて人一倍考えて生きてきたので、ぜひ何かやってみたいと思ったんです。もともとMTBって遊びの要素が強いスポーツなので、食を楽しみながら相性もいいだろうなと思って。

竹谷:幸平は選手時代から常にとんでもないことをやってくれるんじゃないかと期待させてくれるキャラクターなんだよね。MTBレースをストイックに極めようとする面と、MTBをレジャーとして楽しもうとする面を両方持っているので、広範囲に魅力を発信ができるんじゃないかな。

スペシャライズドの理念とMTBのこれから

小田島:MTBのあらゆる楽しさを知り尽くしている幸平だけに、サイクリングでより多くの人の生活を豊かにしたいっていうスペシャライズドの理念を「広く、強く」伝えられると思っているんだけど、幸平にとってスペシャライズドってどんなブランド? 過去にはファクトリーチームに所属した経験もあるけど。

山本:優れたプロダクトを作る会社であるのと同時に「自由」で「個」を尊重する社風も僕の性にフィットする感じなんですよね。分担がはっきりしていて各分野のプロフェッショナルがそれぞれの目標に向かって邁進することでチームとして大きな力を発揮するという。能力のあるメンバーも多いんでしょうけど、そうした社風も世界ナンバー1ブランドになった原動力なんじゃないかなと個人的には思っています。

小田島:制約が少ない代わりに個々の果たす責任は大きいというね。個に強い想いがあれば、必ず活かせる会社だと私も思う。幸平は日本だけではなくアジアでも知名度のある選手だったし、目標に向かって真っ直ぐ進む強い気持ちを持っているから、MTBに乗るとどんな世界が体感できるかをポジティブなメッセージとして広く発信して欲しいな。

竹谷:まずは日本社会でMTBがいまより身近なスポーツとして認知されるようにならないとね。それが世界で活躍できる強い選手を育成することにも繋がるし。

小田島:前に二年間ほど滞在したスイスでは、MTBに乗ることがファミリーの身近なレジャーとして定着していました。レースに参加したければ地域にクラブがあって、一緒に活動したり、技術を教えてもらえたりする。日本でレースというと勝ち負けにこだわってシリアスになりがちだけど、彼の地では多くの子供たちがもっと気軽にレースを楽しんでいる。もともと自転車の文化が根付いていることもあって、そういった活動に協力することを楽しんでいる大人も多いですよね。例えば子供にスキルを指導する人から、MTBのために土地を貸してくれる地主さんとか。自転車競技をすること自体にリスペクトがあるから、挑戦することに子供たちも誇りを持てるんじゃないかな。結果だけにとらわれず、努力すること自体に価値を置くという、スポーツに対する成熟した捉え方を強く感じました。そうやって多くの子供が自転車競技に触れて裾野が広がれば選手のレベルだって必然的に上がる。良い循環になってるんだなあと。

山本:僕がいま拠点にしている長野もそうですが、日本でもMTBトレイルやMTBを広めようというコミュニティはひと頃より確実に増えていますよね。昨今のアウトドアブームもあって流れが来ているのは確かだと思います。ライフスタイルに溶け込んでるとまではいかないですけど、アクティビティの選択肢に上がるようにはなってきている。身近なトレイルを自転車で遊ぶという行為が根付けば自然と競技の方にも注目が集まるようになるとは思っているんですが。

竹谷:流行になってしまうと、消費されて終わりなのでそこは気を付けなきゃいけないよね。世間全体にMTBを訴求するのではなく、熱心なファンをひとりひとり確実に獲得していってそれが最終的に大きなうねりになるというのが理想なんじゃないのかな。フィールドにも限りがある訳だし、リテラシーの高いユーザーを増やさないとすぐに次のムーブメントに取って代わられるだけだと思うんだよね。

小田島:トレイルの運営や管理などに目を向けて見るとMTBで遊ぶための環境作りって思っていた以上に手間がかかって大変なんですよね。ただ楽しいだけでは終われなかったりする。もちろんユーザー全員がフィールド作りに携わる必要はないと思うけど、自然環境に配慮し、共生することをイメージしてライドできるユーザーが増えれば、ただ消費されて終わるようなことはないと思う。この面倒な部分も含めてMTBの魅力(笑)。 とはいえ本来MTBってちょっとした広場にパイロンを置いて8の字走行するだけでも楽しめるものなので、トレイルライド以外の楽しみ方も並行して伝えていきたいと思っています。

竹谷:トレイル環境に関しては行政やインフラ、日本人特有の意識の違いもあるから今すぐドラスティックな変化を起こすのは難しいかもしれないけど、近年になってこのフォレストバイクみたいな専用フィールドが少しずつ増えてきたのは嬉しいよね。天然のトレイルはどうしてもルールやマナーを明文化しきれないところがあって地元のコミュニティに属していないと近寄りがたかったりする。お金を払えば誰でも遊べる環境が整備されるというのは、MTBが社会のシステムの一部として機能している証でもあるから。だから幸平にはMTBの普及活動を「ビジネス」としても大成功させて欲しいよね。なかなか困難な道ではあると思うけど。

山本:そうですね。選手は引退しましたけど、高い目標に向かって全力を尽くすアスリートスピリットは維持したいと思ってるんです。基本的に限界ギリギリの状態が好きなんですよ。そのゾーンに入っているときでないと見えない世界や事象があるし、そこに共感を抱いてくれる人も沢山いるので。生まれ育った北海道、日本、そしてアジアにMTBを根付かせるために動くつもりです。これまでも一般的ではない特異なキャリアを歩んできた自負があるので、新しい独自のアプローチで活動したいですね。一般的な道を歩こうと思えばいくらでも歩けますけど、あえて茨の生い茂る最短コースで。

小田島:いや〜幸平はもうフツーの道は歩めないと思うけどなあ(笑)

山本:(笑)

スペシャライズド・ジャパンはMTBの魅力を知り尽くしたレジェンド達と共にMTBの普及をさらに推進する計画だ。それにはローカルトレイルの支援やイベント・レースの開催といった実質的なサポートはもちろんのこと、MTBに対する一般的なイメージを変革する働きかけも同時に行うことになる。困難に立ち向かう意義、自然との共生、強い肉体、瞬間的な判断力、自己マネージメント力……MTBを通じて得られる成果には普遍性があり、人生を豊かにしてくれるものである。新しいMTB文化の創生をぜひ期待して欲しい。

文・写真/佐藤旅宇

取材協力:フォレストバイク

神奈川県小田原市にある初心者から上級者まで、どんなレベルのライダーでも楽しめるMTBパークです。スペシャライズドの超軽量e-MTB、Levo SLの体験拠点として、Turbo Experience Stationの運営も行なっています。

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