2022.04.08

SUPER GTレーサー JPオリベイラ 3年目のポジション修正とTTバイクの初ポジション出し

いまから3年前、Retul Fitを受けたSUPER GTレーサーのジョアオ・パオロ・デ・オリベイラさんが、再びスペシャライズドにやって来た。

目的はこの3年間で変化したポジションの修正と、新たに入手予定のタイムトライアルバイクのポジション出し。3年前はトレーニングながら自転車が楽しくてしょうがないといった様子だったオリベイラさんだが、その情熱は全く変わっていなかった。


ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラPROFILE: SUPER GTレーサー。2004年F3にて日本で走り始めると、2005年F3年間チャンピオンに。2015年SUPER GT500、2020年SUPER GT300でタイトルを獲得。2021年はSUPER GT300シリーズ2位に輝いているトップレーサー。トレーニングの一貫としてロードサイクリングを行うが、ロードレース観戦も欠かさない、生粋の自転車好き。


Instagram @ jpdeoliveira(https://www.instagram.com/jpdeoliveira/)

3年前のRetül Fit取材の際にも、細かなポジションの変更をすぐに感じ取っていたオリベイラさん。そんな鋭敏な感覚を持つ彼だからこそだろうか、トレーニングを積み徐々に身体が変わっていくにつれ、以前のポジションに違和感を覚えるようになったという。

成長過程の乗り込んでいるライダーには、こうしたポジションの段階的な変化は珍しくないと語るのは、3年前にもフィッティングを担当した板垣フィッター。現状のポジションをサイジングバイクMuve SLに落とし込むと、すぐにどんな変更が行われたかがわかる。

「サドルが1cm高くなっていますね。アグレッシブなポジションをとるためでしょう」

さらにオリベイラさん本人からも、ポジションに対して加えた変更やいま感じていることをヒヤリングする。すると、サドルの前後位置を変更したこと、最近は股擦れに悩まされていること、ハンドルバーを400mmから380mm幅へ変更したこともわかった。クランク長については、「今は172.5mmだが、別のバイクで170mmに乗った時に、が柔軟に動く感じがあって、試してみたい」という意見も。

そうした事実とライダーのフィーリングをデータと突き合わせながら、板垣フィッターは新しいポジションを探っていく。さすがはアスリートというべきか、オリベイラさんの身体は大きな問題なく、「様々なポジションをとることのできる幅の広いライダー」ということだが、一点、ハンドルポジションに深く影響するハムストリングの柔軟性が気になるという。特にこのポイントは、後に一からフィッティングするタイムトライアルバイクのポジション出しに関わるため、入念にチェックすることに。

ハムストリングの柔軟性において、左右差があることが懸念点だが、これは3年前のアセスメントでも評価されていたポイントだ

クリートの位置と高さを調整した後、サドルの位置を決めていく。前乗り気味のオリベイラさんに合わせて、サドルの前に座れながらも、後ろに座った時にも適切な膝の角度となるようポジションを突き詰めていく。現行のポジションから少し低く、より前に出るセットアップに落ち着いた。現在のプロ選手のような、前目に座るポジションでありつつ、後ろでリラックスして座れる幅が生まれたという。

オリベイラさんは左脚の方が右脚よりも5mmほど長い。それもあって、ライド時には左のほうがパワー比率でも2-3%ほど高い状態だという。「踏み込んだ時に、しっかりと踏めていない感覚があるんだ」とオリベイラさん。体重64kgでFTPが300Wを超えるパワーライダーならではの悩みでもありそうだ。

「5mmほど長い左が、サドルの股擦れを引き起こしている原因でしょう。この場合、5mmのシムを右のクリートに入れれば解決、とならないのが難しいところなんです。まずは3mmで試してみましょう」

脚長差を埋めるサポートを入れると「数ミリの違いでも、大きな違いを感じるよ」とオリベイラさんも納得の表情を浮かべた。2022年ロードバイクでの目標は、富士ヒルクライムとニセコクラシックだというオリベイラさん。特に富士ヒルクライムは昨年の大会で悔いの残る走りだっただけに、新しいポジションでリベンジを期している。

「富士では集団の前を引きすぎたせいで勝つチャンスを失ったんだ……でもこうやって経験も積んだことだし、もしまた走れるなら順位を狙っていけると思っている」

ただ2022年の富士ヒルクライムとニセコクラシックは日程が重なっている。どちらを選ぶかは「難しいね……」と苦笑いのオリベイラさん。日本一の山でのヒルクライムか、北の大地のロードレースか、いずれにせよ彼の走りに期待したい。

タイムトライアルバイクのポジション出し

この日のもうひとつの目的は、近々納車予定のタイムトライアルバイク(SHIV!)のポジション出し。オリベイラさんにとっては人生で初めてのTTバイクになるとのことで、全く未知の世界。先程までのロードバイクは、すでにRetul でのポジションデータがあったが、全く初めての車種のフィッティングはフィッター泣かせとも言えそうだ。

「これからポジションを出すTTバイクは、今日が初めてということで、まずはスタートラインを作る段階といえます。なので、これから作るポジションを土台に、今後さらに煮詰めていく前提です」

さらに板垣フィッター泣かせなのは、TTバイクならではの特性だ。

「TTバイクは、ロードバイクよりもポジションが限られるため、セッティングがシビアなんです。その分アセスメントも数が増えますね。オリベイラさんは先程もみたように、ポジション出しの幅が広い方なのでその点はやりやすいです」

オリベイラさんがTTバイクを欲しいと思う理由はいくつかある。ひとつは、空力の粋を集めたレースマシンに、緻密なペダリングや走り方を要求される乗り物であること。これはSUPER GTレーサーの彼らしい。

もうひとつは、走りたいレースの存在。強豪市民レーサーのライド仲間が好成績を収めた〈しろさとTT〉だ。自動車のテストコースを用いた、TTバイクで思う存分走れるレース・イベントだが、特徴的なのはその距離。50km、100km、200km(!)と長距離の個人タイムトライアルで競われる。

「友人が優勝した50kmクラスか、それとも100kmクラスに出るかは、これから納車されるTTバイクのフィーリングをみて決めようと思ってるんだ」

そうした用途を踏まえた上で、板垣フィッターとオリベイラさんのセッションが始まった。とれるポジションが限られるTTバイクだが、だからこそハンドルバーの突き出し量やアームパッドの位置など調整できる箇所を何度もトライしては、ディスカッションし、煮詰めていく。

「目的が100kmのTTにもなりうるので、それを踏まえたポジションに落とし混んでいきました。単にハンドルを低くして、エアロを追求することもできるんですが、100km、およそ2時間半を走ることを考えると、もう少しリラックスしたポジションでないといけない。今日出したポジションは、現状のオリベイラさんにとって快適性とエアロでぎりぎりまで詰めたものになっているかと思います」

初めてのTTバイクのフィッティングに、手応えを感じているのはオリベイラさんも同様のようだ。

「初めてTTバイクのポジションをとってみたけど、想像していたものと大きなズレは無かったね。エアロと快適性を両立する理想的なところに近いポジションになっていると思う。固定バイク上ではいい感触だった。あとは、実際に外に出て微調整していきたいね。レースカーでは、シートのフィッティングは、実際に路上でクルマを走らせることで感覚を確かめ、良し悪しの判断ができるようになるんだ。これはTTバイクも同じだよね」

板垣フィッターも、実走することでライダーがポジションに対してどんなフィーリングを抱くかの重要性を認める。

「ポジション合わせは、データや数値でわかることは多いですが、ライダーの感覚という要素も無視できません。数字合わせならすぐにフィッティングは終わるんです。ただ、数字に示されている範囲ではライダーが何か違和感を覚えることも出てくるので、ライダーの感覚的なフィードバックやペダリングの感触を聞き、それとデータや数字とをすり合わせていくことが大切なんです。 また、Retül Fitではフォローフィットという実走後の相談サービスも行っています。フィット中に取ったデータをもとに、どのくらいの範囲なら変更してもパフォーマンスや快適性に影響がないか、フィッターと相談しながら微調整していけます。」

実際にTTポジションをとるオリベイラさんは、その筋骨隆々とした体格もあってエアロポジションが様になっている。すでに速そうな雰囲気まで醸し出しているが、最初のポジション出しで満足なものにたどり着いたことでより一層、納車が待ちきれない様子だ。

「TTバイクは乗る時のポジションが一つしか無いから、ちゃんとそのためのトレーニングをしないといけないね! 長い間フォームを保てるような練習を、1週間に1度は乗るようにしたいね」

かつてロードバイクの魅力を、極限状態での感覚と集中力が養われること、と語っていたオリベイラさん。より究極のスピードマシンであるTTバイクに乗ることで、本業のSUPER GTでのさらなるパフォーマンスアップが今シーズン見込めそうだ。同時に、TTレースで彼がどれだけバイクを乗りこなすのかも見てみたい。2022年も、ジョアオ・パオロ・デ・オリベイラからは目が離せそうにない。


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