2022.05.04

Fight for the Pink ジロ・デ・イタリア2022プレビュー

ロードレースカレンダーはグランツールシーズンに突入。「ジロ・デ・イタリア」に挑むスペシャライズドライダーをチェックしていきましょう。

TOP画像:© 2021 Getty Images

ジロ・デ・イタリア2022概要

春が終わり、夏がやって来る。ロードレースもワンデークラシックからグランツールの季節に向かう。グランツールは複数日で競うステージレースの中でも最高格。そのグランツールの初戦が、ジロ・デ・イタリアである。

開催時期は5月。「イタリア一周」の名の通り舞台はイタリアだが、コースは毎年変わり、今年の「グランデ・パルテンツァ(出発地)」はハンガリーの首都ブダペスト。ジロがイタリア国外からスタートするのは4年ぶり。実はハンガリー開幕は2020年に予定されていたが、パンデミックの影響により延期となっていたのだ。ジロを待ちわびていた「ドナウの真珠」から北イタリアのヴェローナを目指す長い旅がついに始まる。選手たちのために用意されたのは、美しくも過酷な21のステージだ。

ジロ・デ・イタリア総合優勝者に贈られる「トロフェオ・センツァフィーネ(終わりのないトロフィー)」には
歴代の総合優勝者名が刻まれている。

2022年大会の開催期間は5月6日(金)から5月29日(日)まで。
ハンガリーで3日間を過ごした後シチリアに飛び、イタリア半島を北上してヴェローナに向かう。

21ステージの総走行距離は3,445.6km、1ステージあたりの平均距離は164.1km。ただしこれは個人タイムトライアルステージを含む数値なので、実際はほぼ毎日200km弱を走ることになる。特筆すべきは総獲得標高で、50,586mは圧巻の一言。山岳に比重を置いた厳しいコース設定となっていることがわかる。

コース構成を見るとアルプス、ドロミテ山脈の急峻が数多く配置された第3週が目を引くが、ハンガリーからイタリアへの移動直後の第4ステージに本格的な山岳が登場するなど、序盤から中盤にかけても数多くの難所が組み込まれており、一筋縄ではいかない。さらに5月のイタリアの気まぐれな天候にも注意が必要だ。空が冷たい雨や風を呼べば、レースの過酷さはさらに増すだろう。

そしてステージを完走しなければ次のステージに進むことはできないのがグランツールのルール。3週間にわたって脚力、スタミナ、メンタルの高度なマネジメントが求められる。まさに究極のエンデュランススポーツと言えよう。


標高の高い山には雪が残っていることも多い。5月開催のジロならではの風景だ。© 2021 Getty Images

選手たちが目指す栄誉、ステージ勝利のチャンスは全部で21回。さらに特別賞がある。その日までのステージを最も速く走った選手=積算走行時間が最も短い選手には「総合賞」が、コースに設定されたスプリントと山岳ポイントを最も多く収集した選手にはそれぞれ「ポイント賞」と「山岳賞」が与えられる(25歳以下の選手を対象とした若手総合賞もある)
特別賞の選手たちは翌日のステージで専用のスペシャルジャージを着用し、最終ステージ後に大会を通じた成績が確定する。
ステージごとの総合賞と最終日の総合賞=総合優勝者に贈られるのが「マリア・ローザ(バラ色のジャージ)」で、このジャージのピンク色はジロ・デ・イタリアのシンボルでもある。レースが通過する街はピンク色の装飾をまとい、華やかに選手やファンを迎え入れるのがお約束だ。


マリア・ローザのバラ色はイタリアの新聞ガゼッタ・デッロ・スポルトの紙の色に由来する。© 2020 Getty Images


ジロはイタリアの初夏の祭典。街はマリア・ローザの色に染まる。© 2021 Getty Images


ポイント賞「マリア・チクラミーノ(シクラメン色のジャージ)」は最強スプリンターの証。2021年大会はペテル・サガンが獲得した。

クイックステップ・アルファヴィニル

ジロ・デ・イタリアに出場するスペシャライズドサポートチームとライダーをチェックしていこう。グランツールの出場メンバーは1チームにつき8名。クイックステップ・アルファヴィニルのメンバー構成は以下の通り。

チーム公式SNSの出場メンバー発表動画。選手それぞれのキャラが伺える。

目玉は何といってもマーク・カヴェンディッシュ。15回のステージ優勝と2度のマリア・ローザ着用という輝かしい経験を持つ「マン島ミサイル」がジロに戻ってくる。2013年にポイント賞を獲得して以来、9年ぶり6度目の出場だ。Tarmac SL7のエアロ性能とカヴの低い姿勢でのスプリントは相性抜群で、今季はレース日数こそ控えめだがツアー・オブ・オマーンとUAEツアー、そしてミラノ〜トリノで勝っており、良い脚で開幕地ブダペストに乗り込むだろう。

カヴェンディッシュのグランツールといえば昨年怒涛の4勝を飾ったツール・ド・フランスを思い出すが、今年はまずはジロを走ることになる。現時点で今年のツールをエーススプリンターとして走る可能性が高いと言われているのはファビオ・ヤコブセンだ。カヴの歴代最多ステージ勝利記録34勝の更新は来年以降になるかもしれない。だがカヴはヤコブセンとのライバル関係は望んでいないと言う。もし2020年8月ツール・ド・ポローニュで瀕死の重傷から復帰したヤコブセンが初のツールを走るとしたら、それは昨年からヤコブセンを支え見守ってきたカヴェンディッシュにとっても喜ばしいことで、2人の間に摩擦は不要なのだ。

The Wolfpack never gives up カヴの勝利とヤコブセンの帰還 >

リードアウトマンことミケル・モルコフを筆頭に、ダヴィデ・バッレリーニベルト・ファンレルベルフとスピードマンが揃う。3人ともいざとなれば自分たちのスプリントで勝負できる実力者だ。平坦ステージ終盤を高速で駆ける青い列車にどうぞご注目あれ。


ツールでのステージ35勝目が楽しみなカヴェンディッシュだが、まずはジロで結果を残したい。© 2022 Getty Images

とにかく今年の「ウルフパック」は勝利に飢えている。カヴが主役になる平坦ステージ以外でも勝ちたい。そこで山岳ステージでは英国人クライマーのジェームス・ノックスが、丘陵ステージではマウリ・ファンセヴェナントとマウロ・シュミットの22歳コンビと12回のグランツール出場経験を持つベテランのピーター・セリーが勝利を狙う。
特にシュミットは昨年ジロ初出場ながら難関グラベルステージを勝っており、ここ一番の強さは折り紙付き。彼らが逃げに乗る日はきっと面白くなるだろう。


若いながら展開を読み仕掛ける力を持つシュミット。強さは年齢に比例するものではない。© 2022 Getty Images

レムコ・エヴェネプールのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ勝利は劇的だったが、この春チームは病気と怪我と不運による成績低迷に泣いた。その分までジロで勝ってくれることを期待しよう。

ボーラ・ハンスグローエ

ボーラ・ハンスグローエの出場メンバーは山岳偏重のコースを意識した構成。登りのスペシャリストたちをジロに送り込む。

チーム公式SNSの出場メンバー発表画像。サングラスのない素顔の選手たちをよく見ておこう。

エースナンバーを背負うのはウィルコ・ケルデルマン。Shiv TTを上手に扱う彼は2回の個人タイムトライアルステージで好タイムを叩き出してくれるだろう。目標は昨年のツール・ド・フランス5位入賞を上回る成績、できれば表彰台だ。実はボーラ移籍前の2020年ジロで3位は経験済みで、その時2位だったのはチームメイトだったジャイ・ヒンドレー。2人はボーラで合流し、再びジロをともに走ることになる。


登りとタイムトライアルが得意なケルデルマンは抜群の安定感を誇る選手。あらゆるステージで上位に入ることができる。


ケルデルマン、ヒンドレーとともにチームリーダーを担うのがエマヌエル・ブッフマン。つまり2020年のジロ表彰台2人と2019年ツール4位のジャーマンクライマーのトリオが協力して総合上位を目指す。登坂力ではおそらく今大会最強チームの1つになるだろう。山岳ステージでは緑色のジャージに注目だ。


朗らかで陽気なキャラが揃うボーラにおいて珍しく?物静かで控えめなブッフマン。ただし走りは全くおとなしくない。

脇を固めるアシスト陣はチェザーレ・ベネデッティがまとめてくれる。イタリア生まれボーランド籍のベネデッティがジロを走るのは今年で7回目。過去6回は全て完走、2019年には逃げからステージ優勝も果たしている。ジロを知り尽くしたロードキャプテンは、若く元気なジョヴァンニ・アレオッティパトリック・ガンパーをやさしくリードしながらチームを支えてくれるに違いない。

昨年マウンテンバイクからロードに転向しチームに加入したベン・ツィーホフレナード・ケムナはジロ初出場。ケムナは生粋のステージハンターで、独走勝利が得意技。感染症と精神的ストレスが原因で一時離脱、昨シーズン後半を休養に充てていたが、昨年秋に「マウンテンバイクのツール・ド・フランス」と言われるケープ・エピックでレースに復帰した。そこでバディを組んだのがツィーホフで、2人は抜群のコンビネーションを見せ完走。なおケムナは既に今季2勝を挙げている。


登りでのアタックから独走に持ち込むのがケムナの勝ちパターン。2020年ツールに続くグランツールステージ勝利を掴みたい。

文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライターです。いよいよ始まるジロに向けて連休中はたっぷり休息。寝不足になる準備はできています!

池田 綾さんの記事はこちらから>

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