2023.01.12

2023ロードレースシーズン開幕前に知っておくべき7つのこと

今年もスペシャライズドは世界最高峰のロードレースを走るチームをサポートしていきます。知っておくと今季のロードレース観戦が楽しくなるトピックをお伝えしましょう。

TOP画像:©Wout Beel

1. ジュリアン・アラフィリップは再起を誓う

常勝軍団「ウルフパック(狼の群れ)」ことソーダル・クイックステップ。ソーダル社(シーリング・コーキング材メーカー)のタイトルスポンサー加入に伴いチーム名が変わる。
その看板選手の1人にして世界最強のパンチャーであるジュリアン・アラフィリップ(フランス)にとって、2023年は復活の年になる。

昨年は苦難の連続だった。落車と病気でシーズン前半戦を棒に振り、毎年ファンを熱狂させるツール・ド・フランスも欠場。2年間着続けた虹色の世界チャンピオンジャージも後輩のレムコ・エヴェネプール(ベルギー)に譲った。

雇い主のチームからは「給料に見合った働きをするように」と釘を刺されている(なぜならアラフィリップはチーム屈指の高給取りである) もちろん自身のモチベーションも高い。例年以上に冬のトレーニングに打ち込み、心と身体は連戦連勝を誇っていた頃の水準に戻った。あとは、結果を出すだけだ。

シーズンスタートはスペイン・マヨルカ島を舞台とするワンデーレース群チャレンジマヨルカ(1月25日〜29日)。3月からは全力疾走で、ストラーデビアンケ(3月4日)、ティレーノ〜アドリアティコ(3月6日〜12日)、そして世界5大クラシックであるミラノ〜サンレモ(3月18日)へ。クライマックスは2年ぶりの石畳レース、「クラシックの王様」ロンド・ファン・フラーンデレン(4月2日)。

本能を呼び覚ますようなアタックと華やかな勝利がアラフィリップの真骨頂。その走りを取り戻し、再び世界中を魅了することができるか。

2.    レムコ・エヴェネプールが次に狙うのは

スーダル・クイックステップのもう1人の看板選手、レムコ・エヴェネプール(ベルギー)
アラフィリップとは対照的に、2022年は大成功。チームの昨季年間勝利47勝のうち14勝を1人で叩き出し、その中にはチーム初のグランツール(世界3大ステージレース)制覇となるブエルタ・ア・エスパーニャ総合優勝も含まれる。更には世界選手権ロードレースも勝利。今季も虹色のTarmac SL7がレースを走る。


エヴェネプールは5色のラインが入った世界チャンピオンジャージを着用する。© 2022 Getty Images

快進撃を続けるエヴェネプールの次の目標はジロ・デ・イタリア(5月6日〜28日)。大怪我からの復帰戦として出場した2021年は第2週以降大失速、更に落車で途中棄権を強いられたが、今年はグランツール優勝経験者として総合上位での完走を目指す。そして全21ステージのうち、どれか1つは勝ちたい。

道のりは厳しい。山岳のボリュームと険しさは昨年のブエルタの比ではないし、ライバルも手強い。3ステージ合計約70kmと長い個人タイムトライアルが設定された今年のジロには、エヴェネプールのようなタイムトライアル巧者のオールラウンダーたちが既に参戦を表明している。ゲラント・トーマス(イギリス/ イネオス・グレナディアーズ)プリモシュ・ログリッチ(スロベニア/ ユンボ・ヴィスマ)らとの真っ向勝負は、今年のロードレースシーンにおけるハイライトになるだろう。

なお昨年ジロを制したジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)は、今年はツール・ド・フランスへ出場予定。代わりにボーラ・ハンスグローエがジロ連覇のために送り込むのは、昨年のツールで総合5位のアレクサンドル・ウラソフだ。今季ボーラに加入、3年ぶりにスペシャライズドバイクに乗る元クイックステップ所属のボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)が一緒に出場予定なのも、見逃せないポイントである。

エヴェネプールはジロに乗り込む前にリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(4月23日)を走り、連覇を狙う。そしてイギリス・グラスゴーで開催されるロード世界選手権(8月6日)での世界王者タイトル防衛も視野に入れているはずだ。

ちなみに今年のロード世界選手権はマウンテンバイクやトラックなど自転車の複数種目を同時開催する史上初の大会となる(以降は4年に1度この様式で開催予定)。そのため例年よりも1ヶ月以上早く、ツール・ド・フランス閉幕の2週間後というスケジュール。エヴェネプールがツールデビューを来年以降に決めたのは、世界選手権に向けた準備期間を十分に取るためではないかという声もある。

3.    レムコに続け、注目の若手

若年化が進むロードレース界。エヴェネプールのようにU23カテゴリをスキップしてエリートカテゴリに加入、すぐに活躍する選手も多い。グランツール総合優勝者がヤングライダー賞対象の25歳以下ということも増えてきた。

では次にブレイクする若手は誰だろうか。1人挙げるとしたら、キアン・アイデブルックス(ベルギー)だ。
「ネクストエヴェネプ―ル」との呼び声高い19歳は昨年からボーラ・ハンスグローエに加入、U23版ツール・ド・フランスと言われるツール・ド・ラヴニールで区間2勝と総合優勝。なお過去のラヴニール総合優勝者にはタデイ・ポガチャル(スロベニア/ UAEチームエミレーツ)エガン・ベルナル(コロンビア/ イネオス・グレナディアーズ)などツール・ド・フランス覇者の名前が並ぶ。

プロ初年度は経験を積むことを第一に据えて控えめなレーススケジュールを過ごしたが、今年はトップカテゴリのレースにも多数出場予定だ。脚質はエヴェネプールと同じくタイムトライアルに秀でたオールラウンダー。気さくな性格とお日さまのような明るい笑顔で、見る者をあたたかい気持ちにしてくれる。とても魅力的な選手なので、是非名前を覚えておいてほしい。

4.    女子「ウルフパック」チーム誕生

アイデブルックスはボーラ・ハンスグローエのU19育成チームであるオート・エダーからU23をスキップして加入したが、全ての選手が飛び級でプロデビューできるわけではない。そこでボーラ・ハンスグローエは昨年U23チームであるロット・ケルンハウスとチロルKTMサイクリングチームと正式に提携し、U19・U23・エリートの3層体制を確立した。

育成チームの選手はUCIワールドチームと一緒に特定のUCIレースに参加することが可能だ。元バイアスロン選手のフロリアン・リポヴィッツ(ドイツ)が昨年チロルKTMサイクリングチームからボーラ・ハンスグローエにスタジエール(研修生)として参加するなど以前から良好な関係を築いていたが(リポヴィッツは2023年からボーラに正式加入)これで将来有望な若手選手たちにトップレベルのレースを走る機会を提供しながらより柔軟に育成ができるというわけだ。

女子でも今季からU19・U23・エリートの3層体制を持つチームが誕生する。元々U19とU23チームを運営していたAGインシュアランスNXTGに新たにエリートチームが加わる。しかもチーム名称はAGインシュアランス・スーダル・クイックステップ。男子UCIワールドチームであるスーダル・クイックステップのゼネラルマネジャー、パトリック・ルフェーブル氏が運営に参加する、女子ウルフパックチームが誕生するのだ。もちろんバイクはスペシャライズド。ジャージのデザインも男子と共通である。

エリートチームにはU23チームから昇格した選手に加えて、チーム SDワークスからアシュリー・モールマン(南アフリカ)が引退を撤回し加入。2023年はセカンドディヴィジョンのUCIウィメンズコンチネンタルチームとして活動するが、2024年以降のUCIウィメンズワールドチームへの昇格を目指している。

5.    最強女子チームはフランスでの勝ち星を目指す

昨年33年ぶりのステージレースとして女子版ツール・ド・フランスが復活するなど、盛り上がりを見せる女子ロードレース。
2022年もUCIチームランキング1位を獲得、最強チームとして君臨するチーム SDワークスは来季の照準をフランスに合わせる。未だチームが手にしていないタイトルーつまりパリ〜ルーベ ファム(4月8日)、そして女子版ツールであるツール・ド・フランス ファム アヴェク ズイフト(7月23日〜30日)だ。

パリ〜ルーベ ファムは今年で開催3回目。男子と同じ石畳(パヴェ)区間を走る過酷な「クラシックの女王」だ。
エースは昨年2位に終わったロッタ・コペッキー(ベルギー)。ストラーデビアンケ、そしてロンド・ファン・フラーンデレンを制したクラシックハンターが、「北の地獄」での栄光を目指す。

ツール・ファムのエースはもちろんデミ・フォレリング(オランダ)
昨年大会では総合2位と山岳賞を獲得した。フォレリングの強みは登坂力とスプリント力を高いレベルで両立しているところで、起伏のあるワンデークラシック風のステージや個人タイムトライアルが盛り込まれた今年のツール・ファムのコースは彼女向きだ。
ただし勝負相手は昨年全グランツールと世界選手権ロードレースで完全勝利を収めた絶対女王アネミエク・ファンフルーテン(オランダ)であり、チーム戦略を慎重に検討する必要がある。昨年のようにステージ勝利も狙うのか?それともフォレリングの総合優勝に集中するのか?

6名から7名に増える出場枠をどの選手に振り分けるかも重要だ。昨年はあえて選考外とした若手たちを起用する可能性も無視できない。初代U23世界女王のニアム・フィッシャーブラック(ニュージーランド)はじめ才能豊かな選手たちが揃っており、今年もミーシャ・ブレーデウォルツ(オランダ)フェムケ・マルクス(オランダ)らが加入する。彼女たちの出身パークホテル・ファルケンブルクはフォレリングも所属していた名門チームであり、早速の活躍に期待がかかる。

6.    世界最高のスプリンターがやって来る

ウルフパックにしろSDワークスにしろ、ランキング上位常連チームには1つ共通点がある。
何か?勝てるスプリンターを揃えることだ。そして今年、世界最高のスプリンターがTarmac SL7に乗ることになる。

彼女の名前はロレーナ・ウィーベス(オランダ)
昨年はツール・ファムでのステージ2勝を含む23勝を叩き出した。もちろん個人勝利数ランキングは1位。集団スプリントにも関わらず後続の選手と秒差を付ける程のスピードスターが、今季から3年契約でSDワークスに加入する。

ピュアスプリンターのウィーベスのためにチームはバルバラ・グアリスキ(イタリア)を新たに獲得。エレーナ・チェッキーニ(イタリア)クリスティーヌ・マジュラス(ルクセンブルク)ロンネケ・ウネケン(オランダ)を加えた4人でスプリントトレインを構築する。
これまでスプリントを担当することが多かったコペッキーとのすみ分けが気になるところだが、コペッキー自身は「何の問題もない」と歓迎ムード。スプリントに備えるウィーベスを集団に残してコペッキーが先行アタックを仕掛けるなど、戦い方の幅が広がるからだという。2人のコンビネーションにも注目だ。

ウィーベスは昨年ヨーロッパ選手権を勝っており、ヨーロッパチャンピオンジャージを着用して走る。なお男子のヨーロッパ選手権はファビオ・ヤコブセン(オランダ /スーダル・クイックステップ)が勝っているので、男女ヨーロッパチャンプがともにスペシャライズドサポートチームに所属するということになる。なおヨーロッパ選手権でヤコブセンをアシストしたのはダニー・ファンポッペル(オランダ/ ボーラ・ハンスグローエ)で、スプリントはスペシャライズドライダーの得意技と言えるかもしれない。

スーダル・クイックステップには今季からティム・メルリール(ベルギー)が加入する。ジロ・デ・イタリアとツール・ド・フランスでステージを勝っている実力派スプリンターの彼はシクロクロッサーでもあり、悪路にも強い。集団スプリントに加えて、ウルフパックの主戦場であるワンデークラシックでも勝利のエンジンになってくれるはずだ。

ちなみにメルリールは昨年のベルギー選手権ロードレース覇者。個人タイムトライアルはエヴェネプールが勝っているので、スーダル・クイックステップは今年2枚のベルギーチャンピオンジャージを抱えることになる。ベルギー籍チームにとって、ちょっと嬉しいトピックである。

7.    ペテル・サガンはチームとファンのために

最後にお伝えするのはスーパースター、ペテル・サガン(スロバキア)について。
キャリア初期にビッグレースを総なめにし、世界選手権を3連覇。昨年からフランスのUCIプロチームトタルエネルジーに所属する32歳のモチベーションに変化はあるのか?

2022年は新型コロナウイルス感染症の後遺症に苦しみ、シーズン後半まで満足いく走りができなかったという。それでもツール・ド・スイスでは区間勝利を射止め、自身の通算勝利数120勝目をマーク。苦しい時期に自分を信じて支えてくれたチームのためにも2023年は勝ちたい、と意気込みを見せる。

ファンとの繋がりを大事にするところは変わらない。ロードレースにおけるファンの重要性を誰よりも理解しているサガンは、折に触れて長く自分を応援してくれるファンと信頼関係を築き、一緒に過ごすことの大切さを説く。

サガンが2022年を振り返り2023年の目標を語るインタビュー動画

昨年9月には来日、ファンと交流するライドイベント「Own Your Road 〜サガンと走る特別なライド〜」にも参加したサガン。座右の銘が「Why so serious? (どうしてそんなにマジになるんだ?)」の彼のこと、勝利への執念とファンへの愛を抱えながら2023年を軽やかに駆け抜けてくれるはず。
今年のトタルエネルジーは全てのワールドツアーレースへ自動招待が決まっている。その中には、もちろんツール・ド・フランスも含まれている。

【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。名前の通りジュリアン・アラフィリップの大ファン。

池田 綾さんの記事はこちらから>

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