2016.04.13

中級者ブログSPECIALIZED 製品レビュー Vol.7 Body Geometry についてのインタビュー【前編】

愛好者が一般ライダーからプロ選手にまで広がっている、ボディージオメトリー製品とボディージオメトリー・フィット。その秘密に中級者が迫る、インタビュー前編です。

先日ボディージオメトリー・フィットを受け、目からウロコな体験をさせてもらった筆者。
短時間でも大変興味深い話が聞けたので、ボディージオメトリーについてさらに深く知るべく、改めてスペシャライズド・ジャパンのフィットテクニシャン渡辺 孝二さんにお話を伺ってみた。

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—そもそもボディージオメトリーとはなんでしょうか?

渡辺さん(以下敬称略):ボディージオメトリーというのはその言葉通り「人間の体に基づくもの」という意味です。人間の体は、本来自転車に乗るように作られていません。ですから人間と自転車の間を生物学的に科学的にどのように結べるか、サポートできるか、というところを考えるのがボディージオメトリーですね。
その思想に紐付いて、「ボディージオメトリー」という言葉を冠した製品があり、フィットがあります。

—そのボディージオメトリーの発想はいつごろ、どのように生まれたものなのでしょうか?

渡辺:最初はサドルですね。1970年代後半に、サイクリングを楽しんでいると男性機能が低下する、いわゆるED(勃起不全)になりやすいという話がメディアで広まりました。日本でも自転車に限らず、EDがいろんなところで取り上げられる時期で。そこでロジャー・ミンコウという博士がEDに対応したボディージオメトリーサドルを生み出しました。そこが製品の原点です。

ただ当時はあまり評価されなかったですね。形が悪かったりですとか(笑)。今のものとはかなり違う。でもEDの原因はなにかってことなんです。ライダーは坐骨結節をサドルに置くことで体を支えるのですが、坐骨結節の下には尿道や性器があります。前傾姿勢になると、その部分の神経や血流がドンドンはさまれていきますよね。そのことによって−−−たとえば人間、首を絞めたからといって一瞬では死なない(笑)。

—はい(笑)

渡辺 :同じように1時間とか2時間とか血流を妨げられても、男性機能は瞬間的には死なないです。ただ、細胞は弱っていきますよね。でも人間ですから回復します。若いうちはその回復の度合が早いのでダメージは少なく済む。しかし歳を追っていくにしたがって乗る量が増えたりすると、ダメージを受ける時間が長くなり、回復に時間もかかる。それを繰り返し行うことで尿道や性器にダメージが蓄積され男性機能を失ってしまうのです。そのことに気がついて、サドルに厚みと窪みをもたせて血流を確保したのが、最初のボディージオメトリーサドルです。

ですから瞬間的に何かが起こるのだったら、まだいい。わかりやすいです。けれど実際のところはそうではなくて、時間が経過しないとわからないのです。
自転車に乗っている一般のライダーの方も首が痛いのはわかっていても、それで死んでしまうわけではないですよね(笑)。ですからフィットを受けずに乗っている方というのは多いと思います。乗っていると楽しいし、まだ大きな痛みじゃないから我慢して乗っちゃう。けれどダメージは確実にありますよね。

それはいいことじゃないですよ、というのが考え方のもとにあるんです。

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—もともとはEDを解決するためだったんですね。自分はグローブ「Grail Long Finger」を使っていて、手の平の窪みにパッドをつけるという独自の発想におどろきました。

渡辺: そうですね。先程も言ったように人間の体は歩行に適した作りになっていて、自転車のペダルを漕ぐことに適してはない。ですから生理学的なサポートは製品の方でしますと。それが足でいえばフットベットや前足部のウェッジ、シューズ全般。いまおっしゃったグローブであれば、それが窪みのパッドであると。ボディージオメトリー製品は、いわゆるエルゴノミックデザインというだけではダメです。それを実際に科学的に検証し、最終的にライダーに何かしらの恩恵を与えられるところまでいかないと認められない。
ですから、成田さんがおどろかれたパッドを窪みにつけた理由もちゃんとあります。機能として加えられているものにはすべて、それが必要な理由があるのです。

—スペシャライズド社内だけではなく第三者機関による検証も行われていますか?

渡辺: はい。ボディージオメトリーに関わっている博士が3人いて、一部では3聖人なんて呼ばれていますが(笑)、グローブはライダーであり手外科の専門医カイル・ビッケル氏。サドルは人間工学専門家のロジャー・ミンコウ博士。そしてボディージオメトリー・フィットのメソッドやシューズは、ボルダースポーツ医学センターの世界的権威アンディ・プルーイット博士。この3人が、ふだんは医学的な仕事をしているのですが、スペシャライズドの社員ではない外部アドバイザーとして製品の検証、評価を担当しています。

アンディ・プルーイット博士が務めているボルダースポーツ医学センターは、様々なスポーツ選手に対してのリハビリやサポートをしている世界的に著名な機関で、そこではかなり綿密に製品のデータをとっています。
ほかにはドイツのケルン大学でも、製品に対する検証が行われています。それはこちらが頼んで、ということではなくて、人間工学の研究の一環として、ボディージオメトリー製品に効果があるのか、ということをテストしていますね。その結果はちゃんと公開されていますので、ご興味があれば調べてみてください。

—そんなスタンスがプロ選手にも支持されているのでしょうか。欧米のプロトンの中にはボディージオメトリー製品の愛用者が多いです。

渡辺: これはスペシャライズド製品全般に言えることですけど、選手といっしょに開発をしているのです。広く言えばライダーといっしょに開発している。その中にプロ選手が含まれますし、人知れず自転車をひたすら乗りまくっているような一般の方も含まれます。

ではなぜトッププロ選手に好んで使ってもらっているかといえば、彼らに製品を試してもらって、意見を聞いて、より良いものを作るという開発プロセスがあるためです。たとえば彼らはこんなシューズがほしい、こういう風にしてくれと我々に頼みます。スペシャライズドはその要望に応えて製品を作る。で、履いてみて良かったとなれば、彼らにしてみれば自分の望んだとおりのシューズがそのまま手に入るわけなので、喜んで使ってくれます。しかもそれでレースの結果がともなってきたら、こんなにいいことはないですよね。

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プロ選手のなかでも私達がよく知っている著名な選手は寿命が長いですけど、そういった選手はごくわずかです。じつは人知れず数年で辞めていく選手がほとんどで、彼らは短い選手生命をどうやって最大限に活かすかというのを真剣に考えています。そうしたら当然、使う製品はなんでもいいということにはならない。とくにシューズはチームとの契約云々があまりなく比較的自由に選べるので、ボディージオメトリー製品が使われることが多いです。こちらからの無償提供や契約ということではない選手たちも、自身で購入してくれていますね。

—そういうことだったんですね。プロ選手が自腹でも使いたい製品というのはすごいです。

以下【後編】に続く。

【筆者紹介】:成田ケンイチ
初心者というには時間が経ちすぎ、上級者というにはあまりに遅すぎる、自称・中級者ライダー。小学館自転車部所属。

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