アイアンマン世界選手権への挑戦 第3回 世界でのポジションを確認する
やるべきことはすべてやったと思う。たぶん大丈夫だ。トレーニングへこだわりは、人一倍。90%は完成した。残りの10%は「気持ち」を持って、出し切れるかどうかだけ。
目標設定
アイアンマン世界選手権は、全アイアンマンの「世界ランキング」と言っても良いだろう。世界のどの位置にいるのか、それを確認するために行くのだ。約2000人のエイジ選手が出場している世界選手権は、目標の一つとして、10時間を切る「サブ10」がある。天候により30~40分変わることがあるが、マラソンのサブ3のように、憧れのタイムでもある。そして、もう一つは、順位となる。ここ5年は急激に選手層が厚くなり、レベルが極めて高くなったことで、500位に入ることも険しくなっている。ちなみに昨年は、サブ10達成者が400位以内に入ってきている。コンディションには、左右はされるのだが、概ね、これが基本数値となる。小松選手はどのように考えているのだろうか。「一つ不安材料があります。それは、現在の日本の気候が、涼し過ぎる点。トレーニングには絶好なのですが、ハワイの暑さに短期間で順応できるのか、バイク、ランでつぶれてしまうのではないか、という恐怖心が強くあり、不安でいっぱいでした。そのため、目標を掲げる気がしなかったのですが、やはり当初の目標、500位以内を目指し頑張ります。」 さすがの小松選手も、直前では、いろいろ考えてしまうようだが、しっかりと気持ちの切り替えが出来ていた。
大人の部活
アイアンマン世界選手権への出場権獲得には、期間がある。毎年10月の世界選手権へ出場するため、前年の9月から8月の一年のうちに好成績を収めなければならない。8月末のアイアンマンジャパンで獲得できたのだが、選手にとっては、良いタイミングとは言えない。10月の世界選手権までの時間が短いのだ。予選突破のために「全力」で臨む、その6週間後に、世界選手権に出場するため、極めて難しい「調整」を余儀なくされることになるのだ。疲れが残る中、どれだけ調整できるか、まさに「プロ並み」の組立が必要になる。そんな中での、この9月だった。「仕事ではないが、単なる遊びでもない。」そんな真面目な趣味は、まさに「大人の部活」と言ったところだ。「アイアンマンジャパン終了後、二週間ほど休養したので、かなり体が丸くなってしまいました。シルバーウイークはそこそこトレーニングを積みましたが、まだ、ジャパン前のキリキリとした体の状態には戻っていません。想定内でしたが、今週末で、何とかジャパン前に近い状態に戻したいです。限られた時間の中でやるだけですから、仕方ないですね。」 やれることはやったと、「心」で言っていたのだろう。
一緒に戦う相棒たち
バイク本体は、第1回で紹介したが、スペシャルなSHIVだった。同社は、ホイール、サドル、シューズなどもリリースしている。ホイールは、スタンダードなリムハイトとなる60mmタイプを使用している。「ロヴァールCLX 60を使用しています。以前は他社の58mmハイトのホイールを使用していましたが、試したところ、比較して時速で1kmはスピードアップしたことに驚きました。」サドルは、トライアスロン用のシテロで、現在、他社のバイクにも使用が目立つサドルだ。「DHポジションの時に、お尻がしっかりとサドルに乗ってペダリング時も上体のブレが全くありません。」シューズは、あえてロード系のものを使用しているが、大切なことは、フィット性であり、カタチにこだわらない選び方も一つの考え方だろう。「S-Works Road シューズなのですが、トライベントと比較して、ホールド感が良く、パワー伝達が良いです。」 最後にバイクやその他の機材を選ぶポイントについて聞いてみた。「私の場合、乗り心地に尽きます。どんなに速くても乗り心地に勝るものはないと思います。スペシャライズドは毎年、新製品を出しますので、その度に試していますが、ファーストインプレッションを大事にして、気に入った機材は長年使っています。」
第6の種目
トライアスロンでは、第4の種目と呼ばれる、「トランジッション」がある。実は、まだあるのだ。第5の種目として、パンク修理など「メインテナンス」、そして、「補給」が第6の種目なのだ。トライアスロンは、「アドベンチャー」、三種目以外もこなしてこそ、「アイアンマン」と言えるのだ。その補給は、人それぞれ、摂取するモノやタイミングが違う。一般的なセオリーはあるが、各自、トレーニング時、予選などで、シュミレーション済みのモノを使用する。「ぶっつけ本番」はあり得ない。もちろん、補給食だけではない。レースコースから始まり、トレーニング、バイク、その他の機材、ウエア、シューズなど、可能な限り、事前のシミュレーションが、レースを決めるのだ。そんなアイアンマンの補給食をチェックしてみた。「いろいろ試してきましたが、固形物はあまり摂らず、ジェル中心に摂取した方がレース結果が良かったので、縁起担ぎも含めそうしています。バイクでは、スタート時にベスパを摂り、その後、水に溶かしたショッツを14個分摂取します。水分は、水が中心です。ランでは、やはりスタート時にベスパ、エイドでジェルというパターンですね。ランの水分は水とコーラを摂っています。」
2週間前(9/23~29)のトレーニング内容日 |
曜 |
SWIM |
BIKE |
RUN |
|||
内容 |
km |
内容 |
km |
内容 |
km |
||
23 |
水 |
多摩丘陵トレラン 5'37'' |
22 |
||||
24 |
木 |
|
|
|
|||
25 |
金 |
|
|
||||
26 |
土 |
600+100X6(1'35'') |
3 |
山伏峠 平均30.2km |
130 |
|
|
27 |
日 |
|
多摩川ペース 4'38'' |
22 |
|||
28 |
月 |
100X17 |
1.7 |
宮ケ瀬 平均30.0km |
68 |
|
|
29 |
火 |
|
|
|
|
||
週計 |
|
|
4.7 |
|
198 |
|
44 |
合計 |
23.4 |
878 |
163.8 |
今週、そして今月の練習結果が出た。予選前に比べると85~90%の練習量となるが、先述の通り、このタイミングでは、十分な結果だろう。「まだ、ワクワクともドキドキとも、実感が沸きませんね。レースのため会社を一週間休むので、それまでに仕事を完了させなければいけません。チームメンバーにも迷惑かけてしまって心が痛いです。ハワイ行の飛行機に乗るまでは、ワクワクできませんね。(笑)」 練習は十分だが、プロではない。練習だけしていれば良いという訳ではないのだ。仕事もしっかりとこなす。当たり前のことだが、楽ではない。
決戦の日まで、あと1週間!
【筆者紹介】:Triathlon GERONIMO 大塚修孝トライアスロンジャーナリスト。トライアスロンの関わり25年。1996年から、アイアンマンを追い続けている。
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