SBCUコウジ先生と読み解く、マウンテンバイク、その楽しみかた Vol.1 タイヤについて
SBCU先生、渡辺孝二が個人的な視点から解説する、マウンテンバイクの魅力。第1回目はタイヤについて。MTBといえば、ぶっといタイヤだ!
その案内役となるのは、SBCU先生である渡辺孝二だ。MTBに乗りはじめて早や30年以上、MTBに乗り、愛し、楽しみ続けて年令も50を数えた。いわゆるイイ大人である。しかしそのイイ大人となっても、MTBという『遊び』の魅力からは、離れられない。その渡辺孝二から、いろんなことを引き出す聞き手役は、これまたMTBから離れられない50才目前のイイ大人、ライターの中村浩一郎。渡辺孝二とはMTB仲間として25年を超える『腐れ縁』である。
スペシャライズドの製品知識の泉、SBCU先生が語る製品の魅力 >
MTBの酸いも甘いも噛み分け、業界の裏も表も知る2人のMTB好きが、MTBの『今』を、そしてその楽しみ方を伝えるこの企画。
まず第1回は、MTBならではの特徴、太いタイヤとホイールサイズ、タイヤの『今』を見てみよう。
コイチロ(中村浩一郎):あのさ、今どきのMTBの世界は、いわば常識はずれでしょう。
コウジ(渡辺孝二):そうね。常識はずれ、じゃなくて「自転車技術世界の最先端」と言って欲しいけどね(笑)。ドロッパーシートポストなんて、その最たるもの。サドルの高さはレバーひとつで一瞬で変えられるのがいまどき当たり前、なんて、MTBを知らない人は信じてくれない。
コイチロ:ドロッパーシートポストをつけると重くなる、なんて言われるけど、あると圧倒的に楽しくなるよね。サドルを下げることで走れる所、できることが圧倒的に増える魔法のニョイボウ(笑)。
コウジ:それもね、バイク全体の重量が軽くなっているから、というのも大きいよ。600gぐらいあるドロッパーシートポストを付けても、全体的には軽いままでいられる。10年前には難しかったものが、今の時代ならイケるんだ。MTBって、サスペンションとかディスクブレーキとか、「バカじゃないの!?」というアイディアが現実になり、そして当たり前になる、を繰り返してきた。MTB以外じゃ考えられないけどね。
コイチロ:それにホイールサイズが選べる、ってのもよく考えればおかしな話でしょう。リムにブレーキを当てないディスクブレーキだから、ホイールの大きさも当たり前に変えられる。だから29erだとか27.5だとかプラスだとか。
コウジ:もうディスクブレーキが必要、必要ないとかいう次元じゃないしね。
コイチロ:『ホイールサイズは何が好き?』なんて質問、普通「ホイールサイズはひとつに決まってるじゃない、なに言ってんの?」って感じかもしれないけど、多分5年後にはみんなが普通になってるはず(笑)。で、今のコウジくんは今、ホイールの径とサイズ、って何が好き?
コウジ:自分で使うなら、今は29インチホイール、サイズは2.3がいいな。っていうのは以前まではホイール径を上げ、タイヤが大きくなると重くなっていたけれども、まず、タイヤが軽くなりホイールも軽いものが増えてきているから。
例えばFast Trak、Renegade、あとはGround Control。ツーって感じで、なんていうか「つまづかずに」走れるんだ。自分が頭を描いたラインを、そのまま走っていける。
コイチロ:ボク、いまだに29インチってほとんど乗ったことないからわかんないんだけど、そんなイメージ?
コウジ:これまではホイール径が大きくなると重さの増加が気になっていたけど、今はタイヤもホイールも軽いものが増えてきたからね。それに、サイズっていう数字だけの話じゃないんだ。例えば2.3サイズっていうと、単に太さだけで考えるでしょう。でも実際はもう、3年前の太さ2.3と今の2.3って、ぜんぜん違う。重量も軽いし、それをつけるリム幅も広くなってて、中に入るエアボリューム(空気量)もぜんぜん違う。もう数字と理論だけじゃ想像できない実際の進化が、現実世界に起きてるんだ。
例えばね、ボクこの間、タイのタイヤの工場に行ったんだよ。まあ作り方は原始的だよ、自動化は進んでいるけれど、重要な部分には人の手が必要になるのは、昔も今も変わらない。ただ、素材とかが、大きく変化してる。その素材がね、ライド自体を大きく変えてるんだ。
コイチロ:どんなふうに?
コウジ:大きいのはゴムの反発だね。ゴムの硬い、柔らかい、というか、昔はなんか感覚的に選んでたでしょ。それが今、もう数値として解析されてるんだ。今どきのタイヤは化学というより、科学なんだね。過去のものと現在を比較して計算して、なにをどうすればどうなる、がもう大体わかってる。
それが「シミュレーション」で、その一例がFEA=有限要素解析と言われるものなんだけど。極端な例だと、同じバイクでもタイヤだけを変えたときに、どういう印象になるのかが、乗る前からわかっちゃう。それに加えて、実際に乗ったときに人が感じる感覚があるでしょう。それをいちいち数値で表せるんだ。こういう効果があって、それでどうなるか、がわかっちゃう。
今、バイクとかパーツの開発期間は、圧倒的に短くなっている。このシミュレーションでね。それに時間があればあるほど、その検証もできるし、より前に進んでいける。
コイチロ:例えば、先に安里くん(平林安里選手)が「今年のタイヤは、同じパターンでも走り方がぜんぜん違う」と言っていたけど、本当にそんなことあるの?
コウジ:あるよ、今のスペシャライズドのタイヤで言えばね、一番大きいのはゴム。これが圧倒的に違うんだ。結局ゴムが、タイヤの大部分になるでしょう。そのゴムの性能が大切なんだね。もっと言うとさ、ロード用とMTBのゴムは、当然違うんだよ。
コイチロ:違うんだ!
コウジ:そりゃ違うよ。ゴムにもいろいろ性質、グリップとか、走り方とか、トラクションとかいろいろあるからね。
よく低反発、高反発のゴム、と言われるでしょう。大体において、硬いゴムは高反発で、柔らかいのは低反発。でも、その硬さがどんな状況に適しているのかを知らなければ、いいタイヤなんてできないよね。で、それをコントロールしているのが『グリプトン・コンパウンド』。乗り方に合わせて、使い方に合わせてゴムを作る、ということ。
コイチロ:もうなんだかすごいことになってるね。
コウジ:ゴムの特性をバイクの乗り方に合わせてどのようにするかが重要なんだ。ゴム自体も天然と合成があって、どのように調合し狙った性能を導き出すかが鍵になる。振動を高周波と低周波と分けたときにバイクをより走らせるためにどうするかを分析、設計する。
例えばゴムをね、二つに大きく分けると、大きな振動を吸収するのと、細かな振動を吸収するのがある。大きな振動波であれば、それをぐいっと一回吸収して、押し出すようにする。その沈んだら、反発で進むようにするという。板バネみたいなもんかね。
反対に高周波、細かな振動を吸収するのが得意なものは、減衰するんだ。ゴムが振動を抑えて、カラダに伝えずに体のストレスを抑える。路面振動を、細かな高周波と大きな低周波、として分けて考えて、バイクをより走らせるためにどうするかを分析、設計する。こんなふうに、ゴムの特性を乗り方にどのように合わせるが、重要なんだ。ゴム自体のでも調合し狙った性能を導き出せる。それをしているのが『グリプトン・コンパウンド』なんだね。
それにさ、今の流行りの太いリム幅も大切。リム幅が広がるって、ものすごいことなんだ。例えば29インチで、2.1というサイズのタイヤでも、リム幅が広がると乗った感じも実寸も、2.3サイズになる。それにタイヤのサイド剛性も使えるようになるってこと。
コイチロ:なんでサイド剛性が出てくるの?
コウジ:例えば風船をイメージして欲しい。風船を手に持って揺らすと横に揺れるけど、コップに入れると全然揺れないんだ。サイド剛性が高くなって使える、リム幅が広くなるっていうのはそういうこと。だから空気圧を低くしても、走れるんだ。
コイチロ:なるほど、そういう風に考えるとわかりやすいね。
コウジ:特に今年、ダウンヒルのレースシーンでも、ついに29インチ、29erが速い勝利=正義になったでしょう。これからはダウンヒルでも29インチ、となってくる。こんなふうになるなんて、それこそMTB好きでも想像できなかった状況だね。
コイチロ:そうだね。MTBの世界ってどんどん常識変わっていくよねー。
さてさてさて。といったところで、まずはタイヤのホイール系からゴムの話まで、SBCU先生・渡辺孝二の知識が炸裂しました。これから数を重ねながら、さまざまなパーツの『今』を訪ねていきます。そういえばコウジくん、近々にレース『再』デビューするとか。そんな話もこれからに、じわじわと。
【筆者紹介:中村浩一郎】
マウンテンバイク好きの物書き。最近鎖骨を骨折した46才。歳のせいが治りが遅く、長く乗れていなくて切ない。ドクター先生そろそろしっかり乗ってもいいですか?
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