Tarmac Disc、Vengeでステージ5勝!ドゥクーニンク・クイックステップのブエルタ・ア・エスパーニャ2019
ブエルタ・ア・エスパーニャ。ステージ5勝を上げ最多勝利チームとなったドゥクーニンク・クイックステップの走りを、勝利ステージを中心に振り返ります。
■「ウルフパック」、グランツール最終戦へ
ジュリアン・アラフィリップ(フランス)を中心にツール・ド・フランスを熱狂させたドゥクーニンク・クイックステップは、メンバーを大きく入れ替えてブエルタ・ア・エスパーニャにやって来た。
チームの中心は2人の若手だ。このブエルタでグランツールデビューを果たすファビオ・ヤコブセン(オランダ)はスプリントステージで勝利を狙う。そしてジロ・デ・イタリアで失意の途中リタイアを経験したジェームス・ノックス(イギリス)の総合上位入賞も重要な目標だ。フィリップ・ジルベール(ベルギー)ら頼もしい先輩ライダーが2人の脇を固めるメンバー編成で、ウルフパックの21日間の冒険が始まった。
Shiv TT Discで初日チームタイムトライアルステージを疾走。惜しくも2秒遅れの2位。Photo:©CyclingImages
■1勝目:ヤコブセン、グランツール初勝利
スプリンター向けの第4ステージ。前日の集団スプリントでは後方に沈んでしまったヤコブセンのために、ドゥクーニンク・クイックステップは万全の体制を敷いた。フィニッシュ手前6qでレミ・カヴァニャ(フランス)が集団から飛び出して強敵サム・ベネット(アイルランド)をエースに据えるボーラ・ハンスグローエのアシスト達の脚を削り、ゼネク・スティバル(チェコ)とマクシミリアーノ・リケーゼ(アルゼンチン)が完璧なリードアウトでヤコブセンを先頭で発射。ベネットやフェルナンド・ガビリア(コロンビア/ UAEチーム・エミレーツ)が追いすがるが、僅差でハンドルをフィニッシュラインに投げ込んだヤコブセンが勝利を掴んだ。
今年のナショナル選手権で優勝、オランダチャンピオンジャージでグランツール初勝利を掴んだヤコブセン。スプリントの相棒はもちろんVengeだ。Photo:© 2019 Getty Images
1996年生まれのヤコブセンは今回のブエルタを走るチームメンバーの中では最年少。先輩達のアシストを活かし、エリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)に次ぐドゥクーニンク・クイックステップのエーススプリンターとして1勝目をチームにもたらした。
■2勝目:ジルベール、貫禄のグランツール10勝目
序盤は平坦、後半は急勾配の坂が連続する第12ステージ。バスク地方を舞台にした激坂バトルを制したのは、アルデンヌクラシック巧者のジルベールだ。今年のパリ〜ルーベ勝利によって世界5大クラシックのうち4つのタイトルホルダーとなった37歳の大ベテランが、独走でゴールに飛び込んだ。
自身グランツール10勝目を祝って、両手で「10」を表現しながらフィニッシュしたジルベール。平坦と激坂、下りと目まぐるしく表情を変えるステージをオールラウンドバイクであるTarmac Discで制覇。Photo:© 2019 Getty Images
この日は逃げ切り勝利を狙う選手が多く、逃げグループ形成までに激しいアタック合戦が繰り広げられた。ジルベールも何度もアタックを仕掛け、頼もしい牽引役であるティム・デクレルク(ベルギー)とともに逃げグループへ入り込むことに成功。デクレルクのアシストにより終盤まで脚を温存、得意の激坂区間でのアタックでライバル達を置き去りにしたジルベールのクレバーな走りで、ドゥクーニンク・クイックステップは2勝目を手に入れた。
■3勝目:横風分断作戦炸裂、「ウルフパック」がレースを完全制圧
2回目の休息日明けの第17ステージ。強い横風が吹いていたこの日、スタート直後からドゥクーニンク・クイックステップが攻撃を仕掛けた。先頭へ人数を揃えて猛烈にペースアップ、集団を完全に分断する。
47人で形成された先頭集団にはマイヨロホを着用するプリモシュ・ログリッチ(スロベニア/ チームユンボ・ヴィスマ)の姿はなかった。ログリッチとのタイム差を挽回したい総合6位のナイロ・キンタナ(コロンビア)擁するモビスターらの協力を得て、強風が吹き荒れる中で巨大な逃げグループがメイン集団との差を拡げていく。
横風分断は「ウルフパック」のお家芸。エアロ性能に優れたVengeで風を切り裂いて疾走する。先頭は集団牽引役の「トラクター」ことデクレルク。右の小柄な選手は今回の総合エース、ノックスだ。Photo:© 2019 Getty Images
ライバルの先行を許すわけにはいかないチームユンボ・ヴィスマが牽引するメイン集団の追走を振り切るためスピードを緩めず走り続ける先頭集団の中には、小柄なノックスの姿もあった。第16ステージ終了時点で総合11位。ノックスの総合順位ジャンプアップを目指し、「ウルフパック」超特急は止まらない。ヤコブセンが振り落とされてもエロス・カペッキ(イタリア)を付き添いに残して、ペースアップを続けた。
もちろんステージ勝利も逃すわけにはいかない。先頭集団にはベネットが生き残っており、彼とのスプリント勝負では勝ち目がないドゥクーニンク・クイックステップは数の利を活かして先手を打った。フィニッシュまで2.5q地点でスティバルが強力なアタックを仕掛け先行、アシストを欠いたベネットが自らスティバルを追いかける展開を作り出す。スティバルを捉えそのままフィニッシュを目指すベネットだったが、影のように付いていたジルベールが背後からゴール直前で加速するとなす術がなかった。ジルベールがブエルタ2勝目、チームにとっては3勝目を手に入れる。
今ブエルタ2勝目の「2」でピースサインをするジルベール。 来季の移籍が決定しているが「このチームのDNAである横風とエシュロンのステージで勝てて良かった」と語った。Photo:© 2019 Getty Images
今ブエルタ最長の219.6qにも関わらず、平均時速50.628qという驚異的なスピードを記録した第17ステージ。ジルベールも「これまで経験したことがない」とコメントする程の超高速レースとなった。
ノックスは先頭から脱落することなくステージ10位でゴールし、総合8位に浮上。ドゥクーニンク・クイックステップにとっては完璧な一日だった。
ジルベールとの連携で勝利を演出したスティバルと総合順位を上げることに成功したノックス。チームワークの勝利だ。Photo:©CyclingImages
■4勝目:カヴァニャ独走、グランツール初勝利を掴む
第19ステージはこの男にチャンスが巡ってきた。連日逃げに乗り続け、勝利のチャンスを探ってきたカヴァニャがこの日の主役だった。逃げに乗り、ラスト25qを独走。今ブエルタでここまで600qの距離を逃げた「クレルモン=フェラン生まれの高速列車」が遂に初のグランツール区間勝利を飾る。
カヴァニャは今年のツアー・オブ・カリフォルニアでも独走勝利を上げている成長株の一人だ。ブエルタ閉幕後、チームと2年更新契約を結んでいる。
連日の積極的な走りが実った瞬間。向かい風の中Vengeを駆り勇敢なアタックを仕掛け、最後まで逃げ切ったカヴァニャ。Photo:©CyclingImages
喜びのシャンパンをチームメイトに振る舞うはずが暴発!焦る様子が可愛い。
一方、ノックスはメイン集団で発生した大きな落車に巻き込まれてしまう。この日はタイム差を最小限に抑えてフィニッシュしたが負傷の影響は小さくなく、翌第20ステージで失速。それでもスティバル、ジルベールの献身的なサポートを受けながら、ノックスは走り続けた。
第20ステージ、フィニッシュを目指すノックス。前日の落車で広範囲を負傷、包帯姿が痛々しい。 Photo:© 2019 Getty Images
■5勝目:マドリードスプリント決戦、ヤコブセン2勝目
ノックス、そしてリケーゼも落車でダメージを負ったものの、ドゥクーニンク・クイックステップは8人全員でブエルタ最終日を迎えた。第21ステージは恒例のマドリードの周回コース、激しい位置取り争いを制したリードアウトトレインから放たれたヤコブセンが先頭を譲らず勝利。初のグランツール、それも厳しい山岳が続くブエルタを完走できるのかという心配の声をよそに、見事な強さを見せた。
リードアウトもさることながら、スプリントの伸びとハンドルを投げるタイミングが抜群だったヤコブセン。トップスプリンターとしてライバル達と渡り合える実力を示した。Photo:© 2019 Getty Images
ノックスも無事に彼のブエルタを完走した。残念ながら目標としていた総合トップ10入りはならず、総合11位でブエルタを終えている。ジロに続いて落車に見舞われたが、諦めずに完走し、今度はしっかりと自分のレースを締めくくった。ドゥクーニンク・クイックステップの数少ない総合系ライダーとして、更なる躍進を期待したい。
エースナンバーのジルベールがノックスを献身的に支えた。これもまたウルフパック。Photo:©CyclingImages
■ドゥクーニンク・クイックステップを支えたスペシャライズドバイク
ステージ5勝は今ブエルタのチーム最多記録。スプリントや平坦基調のステージではVenge、丘陵・山岳ステージではTarmac Disc、そしてタイムトライアルステージではShiv TT Discと、常に勝利を追い求める彼らの相棒としてスペシャライズドバイクが活躍した。
ヤコブセンの2勝とカヴァニャの独走勝利を演出したVengeは、エアロ性能に優れたモデルでありながら登坂もこなす。同一ステージに平坦区間とアップダウンがミックスされたようなコースにおいて、特にVengeは威力を発揮する。
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今ブエルタの集団スプリントはヤコブセンとベネットで勝利を分け合っている。2人とも使用バイクはVenge!Photo:©CyclingImages
Tarmac Discは本格的な山岳ステージで選手達をよく助けた。第12ステージの激坂バトルを制したジルベールが駆っていたのはTarmac Discであり、勾配のきつい登りでの登坂性能に優れていることがわかる。
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Tarmac Discにかかれば激坂もスイスイ!平坦やダウンヒルもお手の物だ。Photo:©CyclingImages
ホイールはボーラ・ハンスグローエと同じくRoval CLX Discがチョイスされた。空力性能に秀でたディープリムホイールでありながら非常に軽量で、山岳ステージにも投入されている。ハンドリング性能にも優れており、安定した走りで勝利に貢献した。
ディープリムは重い、という定石を覆したRoval CLX50 Disc。ブエルタの厳しい山岳ステージでも使用されている。Photo:©CyclingImages
【筆者紹介】
池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。ドゥクーニンク・クイックステップらしいブエルタが見られて楽しかったです!
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