勝つためのタイヤ、S-Works Turbo RapidAirタイヤ Vol1 エリア・ヴィヴィアーニ選手インタビュー
今季のレースで実戦投入されたS-Works Turbo RapidAirタイヤ。世界選手権が開催されたヨークシャーでの関係者インタビューを全2回でお届けします。
■最強スプリンターとスペシャライズド史上最高のタイヤ
イギリス・ヨークシャーで開催されたロード世界選手権。エリート女子ロードレースが開催された9月28日、スペシャライズドがサポートするドゥクーニンク・クイックステップの関係者に、今シーズンのレースと機材について取材をすることができた。
まずはチームのスプリントエースとして勝利を量産したエリア・ヴィヴィアーニのインタビューを紹介する。今年から世界選手権に追加された新種目タイムトライアル・ミックスリレーにイタリア代表として出場したばかりのヴィヴィアーニ。プロトンでの選手同士の交流やお気に入りの機材、そして日本ロードレースシーンに対する提言まで、丁寧に、そして誠実に語ってくれた。
今季もスペシャライズドバイクとともにチームに数多くの勝利をもたらしたヴィヴィアーニ。Photo:©cyclingimages
インタビューの前にドゥクーニンク・クイックステップと共同で開発を進めてきたチューブレスタイヤ、S-Works Turbo RapidAir (以下「RapidAirタイヤ」)について少し触れておこう。
タイヤは路面と接地しており、速度、乗り心地、バイクコントロールに大きな影響を与える。そして時にレースの勝敗を左右するパンクに見舞われることもある。
そこでスペシャライズドとドゥクーニンク・クイックステップはより速く、快適で、ハンドリングに優れ、パンクをしても自動的に気密性を保つタイヤの開発に着手した。
ロードレースシーンにおけるタイヤの主流はチューブをタイヤ内に一体型で内蔵した「チューブラー」と呼ばれるタイプだが、近年チューブを廃しタイヤのみで空気圧を維持する「チューブレス」が勢力を拡大しつつある。(ちなみにホビーライダーはタイヤとチューブが分離する「クリンチャー」を使うことが多い。)
速さに繋がる軽さを鑑み、RapidAirタイヤもチューブレスタイヤとして開発された。タイヤ自体の耐パンク性能を高めつつ、万が一の際には自動的にパンクの穴を塞ぐRapidAir シーラントも同時開発された。
そして数年間の開発期間と数多くのテストを経て、オールラウンドに使え、最速・最軽量かつ最も耐パンク性に優れたRapidAirタイヤが誕生したのである。
スペシャライズド史上最強のタイヤ、RapidAirタイヤ。数多くのプロチームの選手やメカニックが開発に関わっており、彼らの声を余すことなく反映して制作されている。
■ヴィヴィアーニ、RapidAirタイヤを語る
―RapidAirタイヤの開発に関わっていたと聞いています。このタイヤにはどんなメリットがありますか。
―2018年の冬からRapidAirタイヤのテストを始めたんだ。どうしたら速くて耐パンク性に優れた製品を作れるかを考えていった。最初のテストは1月のツアー・ダウンアンダーだったかな。真夏のオーストラリアの高温のアスファルトや春先のクラシックの石畳…そうした過酷な環境でテストをしていった。そうしたら、RapidAirタイヤはチューブラーよりも速いことがわかったんだ。
僕自身も多くのレースでRapidAirタイヤを使うようになっていって、今ではスプリントをするレースではほぼRapidAirタイヤだね。何故かって?速いからだ。本当に速く感じる。これが一番のポイントだね。僕はスピードを重視するスプリンターだから、余計にチューブレスのRapidAirタイヤが好きだよ。スペシャライズドでは最高のチューブレスタイヤだね。
スピードマンであるスプリンターのヴィヴィアーニは、速さを重視して機材を選ぶ。
―速さ以外のメリットは何でしょうか。
RapidAirタイヤのようなチューブレスの方がパンクに強い。更にタイヤと一緒に開発したRapidAir シーラントが瞬時にパンクの穴を塞いでくれる。これがチューブレスの大きな強みだ。シーラントの分、チューブラーと比較すると重量はほんの少しだけ重い気がするけどね。
パンクの時チューブラーだとホイールかバイクを交換する必要があるけど、それが不要になる。本当に良いソリューションだ。
―そういえば、今年のツール・ド・フランス第7ステージでは終盤にパンクしていましたね。あの時もRapidAir タイヤを使っていたんですか?
―あの時も使っていたよ。スローパンクだったんだ。タイヤの気圧が6気圧くらいに下がってしまった。でも、まだスプリントはできる空気圧だった。
もしチューブラーだったら、もうスプリントはできない。チューブレスのRapidAirタイヤだったからスプリント争いに参加できたんだ。結果は6位だったんだけどね。パンクでレースを諦めなくていいというのが一番のメリットだね。
タイヤに予め入れておくことでパンク穴を塞いでくれるシーラント。RapidAirシーラントはRapidAirタイヤにあわせて開発されており、一緒に使うことで最速のセットアップを実現する。
―今シーズンのレースではRapidAirタイヤを使ってきたのですか。
―ツール・ド・フランス以降のレースは全てRapidAirタイヤで走っている。
プルデンシャル・ライドロンドン・サリー・クラシック、ヨーロッパ選手権、ユーロアイズ・サイクラシックス…僕が勝ったレースは、全部RapidAirタイヤを使っていたんだよ。
今シーズン数多くの勝利を重ねてきたヴィヴィアーニ。勝利を下支えしてきたのはRapidAirタイヤだ。
―本当に素晴らしいタイヤなのですね!ホイールは何を使っているのですか。
―Roval CLX50とRapidAirタイヤが最高のコンビネーションだと思う。CLX32を山岳ステージで使うことはあるけど、僕はスプリンターだからあまり出番はないかな。
ヴィヴィアーニはオールマイティなRoval CLX50がお気に入り。
■バイクとディスクブレーキ
―バイクについて話を聞かせて下さい。Vengeを使っていることが多いですよね。
―そう、Vengeを使うことが多いね。Tarmac Discは山岳ステージでしか使わないかな。仮に100日間レースをするとしたら、Tarmac Discを使うのは30日で、残り70日はずっとVengeという感じだよ。
両方好きなバイクだけど、スプリンターにとっては、Vengeがパーフェクトなバイクだ。とても速いし、軽くて硬さもちょうどいい。ハンドルバーとステムのコンビネーションもいいんだよね。
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ヴィヴィアーニ愛用のVenge。数々の勝利に貢献してきた最強のエアロバイクだ。
―ディスクブレーキについてはどうですか。今シーズンは全てのレースでディスクブレーキを使っていますよね。
―いいと思っているよ。実はディスクブレーキが出た当時はあまり好きではなかった。でも今は問題なく使っているし、ディスクブレーキのフィーリングが好きだ。特に雨の日でもブレーキが確実に効くのがいい。ノーマルコンディションの時でもリムの抵抗がないから、思った通りにブレーキを効かせることができる。
僕はメカニックじゃないので詳しくはないけど、何かあった時のホイール交換もスピーディで何の問題もない。メカニックのみんなはトレーニングをしているからね。フィニッシュ前20qを切っているとバイクごと交換してしまうことが多いけど。
ドゥクーニンク・クイックステップは今季全てのレースをディスクブレーキオンリーで戦っている。Photo:©cyclingimages
■レース、そして気になる選手同士の関係
―ディスクブレーキモデルのVengeで今シーズンもあなたは数多くの勝利を上げましたよね。振り返って、一番成功したと思うレースは何ですか。
―ヨーロッパ選手権は最も印象に残っているレースの一つだ。普通のスプリントとは全然違ったんだ。
それから、ツール・ド・フランスはやっぱり特別だね。ツールで勝利すると、どれだけ大きいレースか実感する。だからツールでは勝ちたいと思うよ。
ヨーロッパ選手権ではパスカル・アッカーマン(ドイツ /ボーラ・ハンスグローエ)、そして普段はチームメイトとして走るイヴ・ランパールト(ベルギー)との三つ巴の勝負に。
イタリアチームの組織的なアシストで最後まで脚を残していたヴィヴィアーニが強さを見せた。ちなみに3人ともスペシャライズドがサポートするライダーだ。Photo:© 2019 Getty Images
ツール・ド・フランスはやはり特別なレース。2度目の出場となる今年、念願のステージ初勝利を手にした。Photo:© 2019 Getty Images
―どちらのレースも素晴らしい勝利でしたね!私達も観ていて手に汗握りました。次は一番好きなレースを教えて下さい。やはりツールですか?
―うーん…ミラノ〜サンレモだな。イタリア人スプリンターとしては是非勝ちたいよ。来年も、そして再来年も是非挑戦したいね。
世界5大クラシックの1つ、母国開催のミラノ〜サンレモはスプリンターズクラシック。今年はチームメイトのジュリアン・アラフィリップ(フランス)が勝利。
ヴィヴィアーニにとっては思い入れのあるレースだ。Photo:© 2019 Getty Images
―やはりイタリアのレースは特別なんですね!
そういえば、世界選手権やヨーロッパ選手権は国別対抗戦ですが、普段は別々のチームで走っていますよね。チームの垣根を越えてイタリア人選手同士でコミュニケーションを取り合うことはありますか。
―プロトンの中にイタリア人選手の友達は沢山いるし、皆とはすごく良い関係だよ。
僕はイタリアチームのリクイガス・キャノンデールにいて、その時にできた関係がずっと続いているんだ。ダニエル・オス(ボーラ・ハンスグローエ)やダニエーレ・ベンナーティ(モビスター)…ファビオ・サバティーニ(ドゥクーニンク・クイックステップ)もそうだね。すごく良い関係だよ。
ヴィヴィアーニが良き友人と語ったオスも取材会場に来ていた。ちなみにお気に入りのバイクはヴィヴィアーニとは逆にTarmac Disc。乗り心地が快適なところが良いのだそう。Photo:© KeisukeKitaguchi
―同郷の選手同士、チームは違っても関係は深いのですね。ドゥクーニンク・クイックステップのチームメイトともいい関係を築いていますよね。
―うん、本当に良いチームなんだ。沢山のレースで勝っているし、良いスタッフが揃っている。
チームにはイタリア人も多いけど、英語でコミュニケーションをしているよ。
―チームの共通言語は英語なのですね。様々な国籍の選手やスタッフが所属していますもんね。
―そう、英語だ。ちなみに僕はイタリア語と英語以外に、スペイン語も少し話せる。イタリア語とスペイン語は近いから、わかりやすいんだ。あとフランス語も何を言っているか理解はできる。でも、喋るのは難しいね。
―ちなみに、チームで一番の仲良しは誰ですか。
―サバティーニ。僕のリードアウト役として大事な相棒だし、何より良い友人だよ。一番仲が良いね。
―ズバリお伺いします。一番のライバルは誰ですか。
―ペテル・サガン(スロバキア/ボーラ・ハンスグローエ)だ。僕達はすごく良い友達なんだけど、戦うとなれば一番勝つのが難しい相手だね(笑)
ライバルは?という問いに即答でサガンを挙げたヴィヴィアーニ。リクイガス・キャノンデール時代のチームメイト、良き友にして最大のライバルだ。今シーズンも何度もマッチスプリントを繰り広げた。(サガンは写真中央)Photo:©Bettiniphoto
■世界選手権新種目・ミックスリレーに物申す!?
―今年から世界選手権の種目に追加されたチームタイムトライアル・ミックスリレーにイタリア代表として出場していましたね。レースはどうでしたか?
―最初に男子3人、次に女子3人がリレー形式で走るというレースだったけど、ベストを尽くしたよ。イタリアチームは女子が走っている時にパンクがあってバッドラックだったけどね。
―あれは残念でしたね。優勝したのはヨーロッパ選手権でも勝ったオランダでした。
―世界選手権で新しい種目が採用されると、最初の年はヨーロッパのチームしか出ないんだよね(笑)
来年はもっと多くのチームが出場すると思うよ。あと今年はミックスリレーが初日開催だったけど、個人タイムトライアルを狙っている選手は、個人タイムトライアルを走る前にミックスリレーに出たがらないと思う。だからミックスリレーは個人タイムトライアルの後にやった方がいいかもね。そうしたら有力タイムトライアルスペシャリストもミックスリレーに出て盛り上がるんじゃないかな。きっと来年はUCIも考えるよ。
昨年までのチームタイムトライアルに代わり導入されたミックスリレー。ヴィヴィアーニの予言通り、来年は参加チームや選手が変わるだろうか。Photo:©cyclingimages
―ミックスリレーは残念ながら4位でしたが、あなた自身は直前のツアー・オブ・スロバキアでも勝っていますし、シーズン終盤も好調ですね。
―そうだね。ツアー・オブ・スロバキアは僕も最終日の第4ステージで勝てたし、チームメイトのランパールトが総合優勝できたから、チームとしてすごく良かったよ!
ツアー・オブ・スロバキア最終日第4ステージに勝利したヴィヴィアーニ。ヨーロッパチャンピオンジャージを着用しての勝利はユーロアイズ・サイクラシックスに続き2度目。Photo:© Jan Melicher
■日本への提言
―最後の質問です。あなたのように日本人選手が強くなるためには、何が必要だと思いますか?
―主要なロードレースのほとんどはヨーロッパで行われている。だから、日本もヨーロッパにもっと多くの育成チームを作った方がいい。
能力のある選手は若いうちに…そうだね、17歳から20歳くらいの間にヨーロッパに来て、レースで実戦経験を積むのがいいと思うよ。ジロもツールもブエルタも、そしてモニュメント(世界5大クラシック)をはじめクラシックのビッグレースも全部ヨーロッパで行われているしね。
世界選手権U23ロードレースだって、出走していた選手の多くがヨーロッパのコンチネンタルチームの選手だった。大きなチームはみんなコンチネンタルチームに育成チームを持っているんだ。U23ロードレースで勝ったサムエーレ・バッティステッラ(イタリア)もディメンションデータの育成チーム(イタリア籍のコンチネンタルチーム)に所属している選手だ。
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どの質問にも真剣に、そして丁寧に応えてくれたヴィヴィアーニ選手。どちらかというと物静かで、レースで見せる激しい闘争心むき出しの姿とは違った一面を見せてくれました。
珍しいオフショットのヴィヴィアーニ。実際に会ってみると、意外と小柄な印象を受けました。Photo:©Keisuke Kitaguchi
■今回の記事で紹介した選手-プロ選手チップス
記事の中で紹介した選手達の特徴を、小ネタも入れてカード形式でお届けします。
レース観戦中など、この選手どんな選手だっけ?と思い出してもらえれば幸いです!
【筆者紹介】
池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。取材場所に現れたヴィヴィアーニ選手はとても紳士的で、予定時間を延長してまで真摯にインタビューに答えてくれました。残念ながら来季からドゥクーニンク・クイックステップを離れますが、新天地での活躍を祈っています。
北口 圭介
インタビュアー兼写真担当。ヴィヴィアーニ選手は自分のレースの内容や機材について非常に詳しく覚えていて、事前質問を送っていないにもかかわらずインタビューにすらすら答えてくれました。「これがトップスプリンターである所以か」と感じました。ちなみに、帰国後に彼イチオシのRapidAirタイヤをさっそく購入しました!
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