2019.11.15

勝つためのタイヤ、S-Works Turbo RapidAir Vol2チームメカニック&開発者インタビュー

レースで実戦投入されたS-Works Turbo RapidAir。世界選手権が開催されたヨークシャーでの関係者インタビューを全2回にわたってお届けします。

■機材のスペシャリスト、揃い踏み

2019年のロード世界選手権が開催されたイギリス・ヨークシャー。エリート女子ロードレース当日の9月28日、ドゥクーニンク・クイックステップの関係者にインタビューを行った。
第2回はチームメカニックのニコラス・クーセマン氏のインタビューを紹介する。スペシャライズドのS-Works Turbo RapidAir開発担当オリバー・キーゼル氏も同席し、機材、そして翌日のエリート男子ロードレースの展望や今年のレースについて話を聞くことができた。

勝つためのタイヤ、S-Works Turbo RapidAirタイヤ Vol1 エリア・ヴィヴィアーニ選手インタビュー>


ニコラス・クーセマン氏(右)とオリバー・キーゼル氏(左)。世界選手権フィニッシュ地点の街、ハロゲイトのカフェでインタビューに応じてくれた。Photo:©Keisuke Kitaguchi

■開発者が語るS-Works Turbo RapidAir

―まずはオリバーさん、あなたが開発を担当したS-Works Turbo RapidAirについて教えて下さい。ドゥクーニンク・クイックステップと共同で開発したと聞いています。

―チューブラータイヤが登場して100年。そして登場したS-Works Turbo RapidAir(以下、「RapidAirタイヤ」)は自転車の歴史を変えるものだ。

ドゥクーニンク・クイックステップの選手はこのチューブレスタイヤを使うことにより、レースの中でアドバンテージを得ることができる。チューブラータイヤよりもホイールへの取り付けに時間がかからず、レースのサポート、管理の点でもメリットがあり、メカニックにとっても良いプロダクトだ。 ドゥクーニンク・クイックステップとスペシャライズドは2年間、調査をしながら開発を進め、新しい技術について議論を重ねてきたんだ。選手やチームスタッフと密に連携していたのはもちろん、一般のカスタマーにもフィードバックをもらっている。そうして改良を続けてリリースしたRapidAirタイヤは素晴らしい製品に仕上がっていると思う。プロ選手だけでなく、一般のライダーにも喜んでもらえる自信があるよ。

チューブレスタイヤ RapidAirタイヤについて詳しく>


スペシャライズドが満を持してリリースするRapidAirタイヤ。プロチームのメカニックや選手の意見を余すことなく取り入れて完成した史上最高のチューブレスタイヤだ。

特に日本のカスタマーは、新しい技術に対してオープンだと思う。一般のライダーにとってチューブラータイヤはパンク時の対応を考えるとクリンチャータイヤ(タイヤとチューブが分離するタイプ)に比べてポピュラーではないかもしれないけど、新しいチューブレスのRapidAirタイヤは耐パンク性も高く、きっと気に入ってもらえると思うよ。一緒に開発した専用のシーラントとあわせて使ってもらえたらいいな。 ちなみにスペシャライズドはロードバイクに使う高圧シーラントを一番最初に開発したメーカーなんだ。RapidAirタイヤもだけど、シーラントも自信作だよ!

■メカニックから見た機材と選手、そしてレース

―RapidAirタイヤと専用シーラントはスペシャライズドの自信作なのですね! ニコラスさん、メカニックにとってRapidAirタイヤのようなチューブレスタイヤのメリットは何ですか?

―まず第一に言えることは、チューブラータイヤよりも速いということだね。何よりも転がり抵抗が少ない。そして、路面に対してよくグリップするし、耐パンク性も向上しているから、安全面でもメリットがあると思う。 選手にとってのメリットは僕らにとってもメリットだ。
メカニックの作業量も減ったよ。チューブラータイヤだとホイールにリムセメントを塗らないといけないから、レースの準備で50セットのホイールを用意するのに数日から1週間はかかる。でもチューブレスタイヤの場合は1日で作業が終わるんだ!時間が節約できるのは本当にありがたいよ。


選手だけでなく、メカニックにとってもいいことづくめのRapidAirタイヤ。
 

スペシャライズドとは2年間、タイヤの開発を少しずつ進めてきた。非常に興味深い営みだったね。 出来上がった製品は、選手達からも非常に好評だ。今では一部の選手はRapidAirタイヤだけを使っていて、もうチューブラータイヤは使っていない。確かゼネク・スティバル(チェコ)は、RapidAirタイヤだけを使っているはずだ。

シクロクロスシーズンを戦うゼネク・スティバルのスペシャルCruX>


RapidAirを愛用するスティバル。昨年に続きオフシーズンのトレーニングで2019-2020シーズンのシクロクロスにスポット参戦を予定している。Photo:© 2019 Getty Images
 

―選手もRapidAirタイヤがお気に入りなんですね。チームの中で特に機材に対して意見を言ったり、メカニックにリクエストをする選手は誰ですか?

―うーん、フィリップ・ジルベール(ベルギー)かな。彼は全てにおいて、非常に正確さにこだわるね。 2019年に移籍してしまったけど、ニキ・テルプストラ(オランダ /現トタル・ディレクトエネルジー)もリクエストが多い選手だったね。 そうそう、RapidAirタイヤがお気に入りのスティバルだけど、彼は新しいものを色々試すのが好きなんだよ。 でも総じて選手達はそんなに複雑なリクエストをすることはないし、一緒に働いていてやりやすいよ。色々とフィードバックがもらえるのは良いことだしね。


活躍を続けるベテラン選手らしく、機材の正確性にこだわりを持つジルベール。Photo:© 2019 Getty Images
 

―明日の世界選手権についてお伺いします。今年のベルギーチームのチームバスはドゥクーニンク・クイックステップのバスですよね。チームの拠点は確かベルギーだったと思うのですが、どうやってヨークシャーまで来たんですか。

―それはね、ドーバー海峡を船で渡って来たのさ(笑)


海を渡ってヨークシャーにやって来たというチームバス。写真は昨年のインスブルック世界選手権にて。Photo:©Keisuke Kitaguchi
 

―船で来られたんですか!それは凄いです。次の質問ですが、ドゥクーニンク・クイックステップの選手達は明日、どのバイクに乗りますか? 

―選手によって違うね。明日のコースは登りも長くないから、Vengeの選手もいるよ。Tarmac DiscとVengeが半々くらいかな。


Tarmac DiscとVengeが走る世界選手権。 ベルギーチームのイヴ・ランパールトはTarmac Disc、ティム・デクレルクはVengeをチョイス。Photo:©Keisuke Kitaguchi

―Tarmac Discで走る選手もいるのですね!実は僕はTarmac Discを複数台所有していて、個人的に大好きなバイクなんです。

―それは凄いね!Tarmac Discだけじゃなくて、明日の世界選手権でも走るVengeやパリ〜ルーベで勝った新型Roubaixはどう?ジュリアン・アラフィリップ(フランス)はTarmac Discを使うことが多いけど今年のミラノ〜サンレモはVengeで勝ったし、いいバイクだよ。

そうそう、フランスではアラフィリップが使っているのと同じ、スペシャルカラーのTarmac Discを買うことができるよ。君のコレクションに加えるべきだと思うな!世界選手権が終わったら、僕らはまたチームカーやチームバスと一緒に船で帰るんだけど、君も船に乗ったらいいよ。一緒に買いに行こうか(笑)


アラフィリップのスペシャルカラーはフランス限定発売だが、2019ドゥクーニンク・クイックステップデザイン限定フレームセットは日本でも入手可能。
残念ながら既に完売しているが、素晴らしい勝利の数々とチームとスペシャライズドとの11年間に渡るパートナーシップを記念した特別なデザイン。全世界199台の限定発売のプレミアムな1本だ。

―前向きに検討させてください(笑)メカニックの皆さんは、世界選手権の期間は忙しくされているのですよね。 

―各国のナショナルチームに散らばっているドゥクーニンク・クイックステップの選手のバイクをみないといけないからね、物凄く忙しいよ。通常のレースだと出走する選手の人数は5〜8人だけど、この世界選手権には15人も出場するからね!
しかも全員が世界トップクラスの選手だ。ベルギー、デンマーク、フランス、チェコ…所属する国も多岐に渡るけど、僕らメカニックは選手全員のバイクをチェックしている。レース当日よりも、各国のナショナルチームのスタッフに機材を渡すレース前日の方が忙しいね。


メカニックは各国のナショナルチームに散らばってバイクの整備を行う。世界選手権は選手にとって非常に過酷なレースだが、裏方であるメカニックも大変なのだ。Photo:©Keisuke Kitaguchi
 

―確かにドゥクーニンク・クイックステップからは数多くの選手が各国の代表メンバーに選抜されていますね。
そういえば、去年ジュニア世界選手権で勝ったレムコ・エヴェネプール(ベルギー)が今年はエリートで出場します。もし彼が勝ったら凄いことですが、チャンスはある?

―そうだなあ、レムコは明日ベルギーチームのために働くと思うよ。世界戦で勝つチャンスがあるとすれば、もう少し先になるんじゃないかな。
ベルギーチームのリーダーはフレフ・ヴァンアーベルマート(CCCチーム)とジルベールだ。ジルベールは来年ドゥクーニンク・クイックステップから移籍してしまうのが残念だけどね。


昨年のジュニア世界チャンプ、エヴェネプール。
ニコラスさんの言葉通り、ベルギーチームのエースであるジルベールを献身的にアシストした後、バイクを降りた。Photo:©Keisuke Kitaguchi

―エヴェネプール、ジルベールに限らず、ドゥクーニンク・クイックステップから出走する選手は強豪揃いです。誰が世界王者になってもおかしくないですよね。アラフィリップはどうですか。今年のツール・ド・フランスは彼が総合優勝するのでは、と日本でも非常に盛り上がっていました。
 

―僕らはジュリアンがやってくれると信じているよ。ペテル・サガン(スロバキア /ボーラ・ハンスグローエ)が手強そうだけどね。
ツールでは、総合優勝したエガン・ベルナル(コロンビア /チーム・イネオス)の方が登りで強かった。でも明日はジュリアンの日になるかもしれないね。


ツール・ド・フランスで破竹の快進撃を見せたアラフィリップ。世界選手権では残念ながら28位に終わったが、今季最も活躍した選手の一人と言っていいだろう。Photo:©Cyclingimage


他チームからも一目置かれるサガン。世界選手権では意地を見せ、5位でフィニッシュ。Photo:©Bettiniphoto

■終わりに

エンジニアとドゥクーニンク・クイックステップの二人三脚で世に送り出されたRapidAirタイヤ。開発者のオリバーさんに「チーム関係者で一番意見を言ってくれたのは誰か」と質問すると、即答でメカニックのニコラスさんだと返してくれた。スペシャライズドとドゥクーニンク・クイックステップの間で、お互い妥協せず意見をぶつけ合う関係を築いていることが伺える。だからこそ開発された製品に選手達はじめチームに愛され、勝利に貢献するのだろう。
そして、メカニックにとっても世界選手権は特別なレース。ドゥクーニンク・クイックステップからは多くの選手が出走するからもう大変だよ、と語っていたニコラスさんの顔は誇らしげだった。UCIワールドランキング1位のチームだけあり、今年も多くの勝利とドラマでレースシーンを彩ってくれた。彼らの活躍を下支えするメカニック、そして機材についても是非思いを馳せてもらいたい。

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RapidAirタイヤの紹介ビデオも是非ご覧いただきたい。冒頭にコメントを紹介した開発担当のオリバー・キーゼル氏に加えて、一緒に開発を進めてきたドゥクーニンク・クイックステップの選手達も登場する。
 

【筆者紹介】
池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。製品開発担当者とメカニック、信頼関係が滲み出るお二人へのインタビュー。RapidAirタイヤについてはお互い厳しい意見も戦わせたんだろうな…と感じました。ジルベールは機材の正確性にこだわりを持っている、スティバルは新しいもの好きなど、選手の横顔についても知ることができて興味深かったです。

 

北口 圭介
インタビュアー兼写真担当。インタビューの会話からオリバーさんとニコラスさんの信頼関係や機材への熱い思いを感じました。メカニックや開発者がいるからこそ、この素晴らしいスポーツがより進化しエキサイティングになるのだと思いました。ちなみに、オリバーさんが良いバイクだと話していたVenge(ドゥクーニンク・クイックステップカラー)を帰国後にさっそく購入しました!

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