RETUL FIT(リトゥールフィット)体験レポート フィッターと一緒に考える、自分だけの乗り心地
ライダーの身体の特徴や乗る目的に合わせ、一人ひとりに最適な乗り心地を提案するRETUL FIT。フィッティングの必要性を感じ初体験したライターがレポートします。
ライター。広告会社、出版社を経て2010年より独立。平日はライター、週末はチアダンスの先生のパラレルキャリア。2014年のホノルルセンチュリーライドを機にロードバイクを始める。2017年、ハワイ島マウナ・ケアのヒルクライムに挑戦するも、ゴール地点(観光案内所)まで残り800mで力尽きる。カメのような遅さだけど、登りが好き。
田中さんの記事はこちらから>
競争は苦手だからと言い訳し、レース参加はことごとく避け、国内旅行を自転車とともに楽しむご機嫌なバイクライフを過ごしてきました。
Retül Fit(リトゥールフィット)の存在は知っていましたが、「フィッティングとは、レースに出る本気のライダーたちのもの」という思い込みがあり、やらずにここまで来てしまいました。
気持ちが変わったのは、グラベルバイクDivergeを乗り始めてからです。
グラベルバイクを購入したのは、ロングライド向けのロードバイク以外に、近場の河川敷や裏山を探検できたら面白いかなと思ったから。乗ってみると、数時間のライドにもかかわらず、これまで感じたことのない疲労感に驚きました。木の根元につまづいて転倒したり、砂利道を果敢に攻めて振動を楽しんだりと、身体を疲れさせる要素はたくさんあったものの、いままで痛くなったことのない前太ももや腕、肩にコリを感じます。一生懸命漕いでいるのに、うまく前に進んでいかないもどかしさ…。
そこでふと、
「私は、このバイクに正しく乗れていないのではないか」
という思いが浮かんできました。
慣れの問題なのか、練習不足による体力低下なのか。もしかしたらサドルの高さやハンドルバーの位置に問題があり、力をバイクにうまく伝えられていないのかもしれない。フィッティングを受けてみたら、モヤモヤの理由がわかるかもしれない、と考えるようになったのです。
そもそも、せっかく高いお金を払って購入したバイクなのに、身体に合わないまま乗っているとしたらとてももったいない。こうして、ついにRetül Fitを受けるべく、フィッター・小田島梨絵さんの待つ、スペシャライズド 新宿に行ってまいりました。
元スペシャライズド・ジャパン・レーシングチーム所属のマウンテンバイク選手。2008年北京オリンピックと2012年ロンドンオリンピックに出場し、日本人最高位の20位になる。現在はスペシャライズド・ジャパンのマーケティング部所属。Specialized University インストラクターとしてスペシャライズド製品やサービスの魅力を伝える。
Retül Fitは自分のバイクを持ち込んで行うこともできますが、「Müve SL」は、乗車したままハンドル位置を上下前後に、ペダリングを続けたままサドル位置を1ミリ単位で変更できます。乗り降りの手間なく、短時間での正確なポジション調整ができる最新機器が揃っているのです。
乗車姿勢を保ったまま微調整を自由自在に行える「Müve SL(ムーヴ エスエル)」
まずは、普段乗っているDivergeのサドルやハンドル位置などを詳細に把握するため、専門の測定機器Zin(ジン)で数値を出していきます。それを「Müve SL」に反映させることで、完璧に再現することができるといいます。
測定に使うのは、外科手術などの医療現場で使われている専門機器の技術を応用したもの。人の骨格や臓器の位置を正確に把握するために使う技術を、「自転車にも応用できる」と、Retülの創始者が取り入れたという。
ウェアに着替えて準備ができたら、いよいよフィッティングスタート。すぐに乗車するのではなく、インタビューから始まります。
Retül Fitの最大の特徴は、「ライダー一人ひとりの身体の特徴に“バイクを合わせていく”ところ」と小田島さんは話します。そのためRetül Fitでは、フィッターが、普段どんな風にバイクに乗っているのか、これからどんなライドをしたいのかを丁寧にヒアリングしていきます。ほかのスポーツ経験やこれまでの怪我の有無、ライド中に不調を感じやすい箇所など一人ひとりのバックグラウンドも聞きながら、その人に合った乗り方を一緒に考えていくのです。
「乗っていて気になる痛みはある? 何でも言って!」「ライド中のことじゃなくてもいいよ」と、ぐいぐい引き出してくれる小田島さん。バイクのフィッティングといえば、身長や足、腕の長さに対して「あなたの身長なら、このサイズ」「サドルの高さはここが適正」という決められた正解があるのかと思っていた
私の目的はシンプルに「怪我なく、身体の痛みがなく走りたい」「出した力を無駄なくバイクに伝えたい」ということ。
ライド中は、ハンドルを強く握りしめるからか、右肩甲骨の付け根に痛みが発生し(ほぼ毎回)、サドルの側面に足の内側付け根(デリケートゾーンのちょっと外側)が当たり、なかなかの痛みに悶絶する(ほぼ毎回)、と悩みを打ち明けます。
サドルに当たる問題は、「ロードバイク乗りはそんなもの」と勝手に思って我慢していたのですが、小田島さんは「そんなことはない!解決しますから!」と即答。ああ。痛みに耐えていた7年って何だったのだろう…。
インタビューが終わると、次はフィジカルアセスメントに進みます。身体の特徴、柔軟性、筋肉のつき方などを細かく見てもらい、身体を無理なく動かせる最適なライディングポジションを探っていきます。
チアダンス歴が長いこともあり、身体の可動域は広い。しかし、「柔軟性があるからこそ、ポジションのズレを何とか乗り越えているのかも」と指摘される。「多少の痛みには耐えるもの、という我慢強さも影響していそう。快適なライドはどういうものか、調整していきましょう!」(小田島さん)
バイクを身体にフィットさせていく前に、小田島さんから提案されたのが、ハンドル幅を広げることと、側面がスリムな形のサドルにすることでした。
「肩幅に対して今のバイクのハンドル幅(380o)が狭く、背中が不自然に丸まってしまうのではないか」と言う小田島さん。400oのハンドルを握って上下に動かしてみると、たしかに背中や肩、腕に窮屈さを感じずに動かせます。
さらに、サドルを変えてみると、サドル側面と足の付け根の内側との接触面積が激減したため、これまでの圧迫感も解消。これは、かなり快適に漕げるようになるのでは…と期待が高まります。
新しくしたサドルはROMIN EVO EXPERT WOMEN/MIMIC EXPERT(155mm)。ラボのテストにより「デリケートな部分の動脈血流を確保することが実証済み」という、まさに私が求めていたフォルム!
ではいよいよ、Retülのサイジングバイク「Müve SL」に乗って、ハンドルやサドルの位置を調整していきます。
LEDマーカーを身体の各関節につけていく。3Dモーションキャプチャ技術により、リアルタイムで動きの変化が数値化される仕組みなのだそう
ポジション変更した際の動きもすべて数値化されリアルタイムでデータ反映されるため、肉眼では見えにくい動きの微細な変化もとらえることができる
普段から感じていたのは、ペダリングで6時の位置に通るたびにつま先が垂直に伸びてしまい、足首が余計に動いていること。足の裏が床に対して並行のままペダリングができた方が、力をバイクに伝えられるのでは…という感覚が漠然とありました。
でも、自分でサドルを下げてみると、今度は股関節や膝関節が曲がったままペダリングをしている、不自然な詰まり感があって漕ぎにくくなってしまう。いい位置を見つけられずにいました。
「いつもの6割くらいのパワーで回していてくださいね」と、言いながら、サドルの位置を調整する小田島さん。サドルの高さを下げ、サドルの位置も後方に下げていくと、足首の動きが明らかに変わっていきます。
ペダリング中に、つま先が下がることがなくなり、土踏まずが常に地面に向いている状態がようやく保てるようになりました。これまでは、漕いでも漕いでも、足首がくねくねと動いてしまうために、せっかくの力が逃げていってしまう感覚がありました。足の力が、まっすぐ足の裏に伝わっているという心地よさに、ここのポジションだったのか!と、モヤモヤが晴れていくようです。
サドルの当たりも気にならなくなり、股関節の動きもスムーズに感じられる
次に見るのはハンドルの高さです。
乗車姿勢をじっと見つめ「普段もそうやって乗っていますよね?なんだか肩が窮屈そう…」という小田島さん。どうやら、ひじがピンと伸びてしまっていることで肩が上がり、肩甲骨まわりに余計な力が入っているようです。
そこで、ひじを自然に曲げた状態で乗車姿勢を取り直し、「上体を少し下げられたら、足の力がペダリングにより伝わりやすくなるのでは」とハンドルの高さを下げていきます。下げたことに気づかないくらいのスムーズな微調整なのですが、上体が明らかに前傾し、ペダリングするひざの真上の位置に、身体の中心が移行していきます。
上体が前傾して足に力をうまく伝えられる位置を探っていく。ちなみに、前傾しすぎるとサドルの前方にデリケートゾーンが押し付けられて痛みが出てくるため、痛くない絶妙なポジションを、小田島さんと話し合いながら調整していく
「この姿勢の方が、効率よく足に力が入り、下半身の安定が増して上半身の力が抜けてくると思いますよ」と話す小田島さん。たしかに、肩や腕をよりリラックスさせて漕げるようになってきました。長時間のライドでは、必ず肩に痛みが出ていましたが、上半身の過度な緊張が要因だったのだろうなと思えるようになりました。
最後に、フィッティングで変えたサドル位置やハンドル位置をDivergeに反映してもらい、約3時間に及ぶフィッティングは終了です。
身体の変化をとらえ、どうしたらより心地よい乗り心地になるのか頭をフル回転させた3時間。「バイクとは、買ったものに自分が合わせるのではなく、今の身体の状態に合わせて変えていくもの」という小田島さんの言葉が、フィッティング後にはすっと頭に入ってきました。
フィッティング後は、調整後の具体的なサドルの高さや角度、ハンドルバーの位置などが詳細に記された「フィッティングレポート」が届きます。
全14ページの詳細なデータ量!
実走した後にポジションの微調整をできる「フォローフィット」というサービスもあるほか、身体の変化に応じて継続的にフィッティングを受けることももちろん可能です。
「今後はやく走れるようになってきたら、身体の感じ方が変わってきたり、『今年はグラベルのレースに出てみたい』など目指す目標が変わることもあるかもしれません。ぜひ、定期的にフィッティングを受けてみてください」と話す小田島さん。こんな心強いパートナーができることもまた、Retül Fitを受ける醍醐味かもしれません。
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