虹のかかる場所へ、速く強く ロード世界選手権2023プレビュー
世界で一番強い選手を決めるのは、世界で一番過酷な場所。間もなく開幕するロード世界選手権のコースと注目選手をチェックしていきましょう。
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世界選手権。年に1度、開催年によって異なるコースで、国別対抗戦によって、その年の世界王者を決める大会である。
優勝者には青、赤、黒、黄、緑のストライプで世界5大陸を表現したマイヨ・アルカンシェル(虹色のジャージの意)が授与され、翌年の世界選手権までの期間、同競技での着用が許される。
世界チャンピオンの証であるレインボージャージは全ての選手の憧れ。普段は別々のチームに所属する選手たちが各国の誇りをこめた代表ジャージを身に纏い、力を合わせて勝利を目指す。
昨年の世界選手権の舞台はオーストラリア・ウロンゴン。開催地は毎年変わる。©CAuldPhoto
2023年の開催地はイギリス、スコットランド最大の都市グラスゴー。通常、世界選手権は種目ごとに異なるスケジュールで実施されるが、今年はシクロクロスを除く13種目の自転車競技の選手たちがグラスゴーに集い、8月3日(木)から13日(日)までの11日間で世界タイトルを争う。今年が初回となるこの特別な形式での開催は、今後4年に1度、夏季五輪の前年に設定される予定だ。
ロードレースは男子エリートが8月6日(日)、女子エリートが8月13日(日)に行われる。コースの概要と、スペシャライズドがサポートする注目選手を確認していこう。
男子エリートのコースは、城塞都市エジンバラをスタートしグラスゴーにフィニッシュする271.1km。獲得標高は3,570m、一見するとクライマーが好むような長い登りはない。
2023年世界選手権ロードレース男子エリートコース(https://www.cyclingworldchamps.com/schedule/road-men-elite-road-race/)
コースは大きく2つに分けられる。エジンバラからグラスゴーまでのアップダウンを走る前半の120kmと、グラスゴー市街に巡らされた14.3kmの周回コースを10周する後半。前半の山場はクロウ・ロードの登り(距離5.9km、平均勾配4.8%、最大勾配9.7%)だが、フィニッシュから遠く、有力勢が抜け出すような展開は期待できない。各国のエースが脚を試す時間になりそうだ。
勝負はグラスゴー市街の周回に入ってから。主要な登りは全部で7つ。ひとつひとつの登りは短い。しかし平坦な道はほぼなく、起伏の連続が選手たちに襲い掛かる。ポイントになるのは周回の最後に登場する急坂モントローズ・ストリート(距離163m、平均勾配13.4%、最大勾配15.2%)だろう。頂上からフィニッシュまで1.4kmと近く、7つのコーナーを備えた下りが待ち受ける。
そう、周回コースの難所は登りだけではない。グラスゴー・サーキットはまるでシクロクロスのコースのようにテクニカルなのだ。1周あたり40を超える鋭角コーナーが登場し、直線路はほとんどなく、道幅も狭い。多くの登りがコーナーの直後から始まるため、位置取りが非常に大切だ。天気も重大な要素で、雨が降れば荒れた路面は文字通り「地獄」と化す。
つまり簡単なレースにはならない。あらゆる登りとコーナーがアタックを呼び、引き伸ばされた集団は加速と減速を繰り返し、やがて数える程の人数に絞られる。生き残った選手たちが持てる力を尽くし、最後の1人を決める。そんな日になる。では、勝者にふさわしいのは一体誰なのか。
過酷なアップダウンをものともしない脚力を備え、300km近い長距離に屈しないスタミナを持ち、アタックの応酬に打ち勝つインターバル耐性を持つ選手。例えば、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュなどの起伏に富んだワンデーレースで活躍するクラシックハンター。小集団でフィニッシュを争う場合に備えて、スプリント力も欲しい。
真っ先に名前が浮かぶのは、昨年の世界王者レムコ・エヴェネプール(ベルギー)だ。
今季最大の目標だったジロ・デ・イタリアは残念ながら新型コロナウイルス感染症により途中棄権となったが、レーススケジュールを修正し、昨年初出場で総合優勝を果たしたブエルタ・ア・エスパーニャ(8月26日(土)開幕)への参戦を決めた。シーズン後半戦へのモチベーションは高く、世界選手権2連覇は現実的な目標と言える。
エヴェネプールといえば卓越したタイムトライアル能力を活かした高い独走力が最大の武器だが(何せ昨年の世界選手権も25kmを独走して勝った)先日のクラシカ・サンセバスティアンではキレのあるスプリントで勝利を飾っており、勝つための手札を複数持っていることをライバルたちに示した。
昨年は登坂力、そして今年はスプリント。苦手科目を次々と克服し「完全」を目指すエヴェネプール。© 2023 Getty Images
世界選手権における各国の出走選手数は基準日のUCI国別ランキングで決まり、ベルギーは最大人数の9人が出場する。自転車競技が盛んな国だけあり、あらゆる展開に対応できるタレントが揃う。
エヴェネプールの他に登坂・スプリント・独走力を備える「真のオールラウンダー」にしてシクロクロッサーのワウト・ファンアールト、ツール・ド・フランスで区間4勝とポイント賞を獲得したヤスペル・フィリプセンなどビッグネームが並ぶベルギーチームは優勝候補筆頭。誰もが勝てる布陣だけに誰がエースなのか、チーム間の協力・連携体制にも注目が集まる。
This line up is a dream team 🤩
— Velon CC (@VelonCC) 2023年8月1日
Belgium's men's squad for the world championship road race is mind-boggling 🤯
📸 Cor Vos
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🏴 #GlasgowScotland2023 pic.twitter.com/5GLB2HoBe1
ベルギー男子代表9名は「ドリームチーム」の様相。
ベルギーは強いが、彼らが楽に勝てるかと言うと、決してそんなことはない。現シクロクロス世界王者にして今年ミラノ〜サンレモを制したマチュー・ファンデルプール擁するオランダ、荒れに荒れた2019年世界選手権を勝ち切ったマッズ・ピーダスンとツールで値千金の区間1勝をもぎ取ったカスパー・アスグリーンが出場するデンマーク、クラシックからグランツールまであらゆるレースを勝ちまくるタデイ・ポガチャル率いるスロベニアなど、強力な優勝候補国は他にもある。
2020年・2021年と世界選手権を連覇したジュリアン・アラフィリップが所属するフランスもそのひとつだ。これらの国は8人が出走する。ベルギーに対して厳しいプレッシャーをかけていくだろう。
2年間を虹色のジャージで過ごしたアラフィリップは子どもたちのヒーロー。© cyclingimages
普段はエヴェネプールのチームメイトとしてスーダル・クイックステップで走るアラフィリップ。彼もまた多くのビッグタイトルを手にしてきたクラシックレーサーであり、大舞台で光る勝負勘を持つ選手でもある。2年ぶりに出場したツールでは区間勝利こそなかったものの、連日逃げに乗って(なんと総距離800km超を逃げた)母国を大いに沸かせた。7月の勢いを保ったままグラスゴーに乗り込んでくることは間違いない。
コーナリングが勝負を分けるグラスゴー・サーキットは、バイクコントロールに長けたアラフィリップ向き。もしも彼が勝てば、2年ぶり3回目の世界タイトル獲得となる。
続いて女子エリートのコースを確認していこう。距離154.1km、獲得標高は2,229m。スタートはロッホ・ローモンドで、フィニッシュは男子エリートと同じグラスゴー。男子同様クロウ・ロードの登りが前半の目玉だが、レース本番はグラスゴー市街の周回に入ってからだ。女子はこの周回を6周する。
2023年世界選手権ロードレース女子エリートコース(https://www.cyclingworldchamps.com/schedule/road-women-elite-incl-women-u23-road-race/)
いくつもの展開が考えられる。周回に入った直後に決定的な逃げが決まるか、終盤で抜け出した数人の本命選手によるスプリント勝負か、はたまた力のある選手による長距離独走か。テクニカルでパンチの効いたグラスゴー・サーキットをいかに攻略するかが鍵になる。
注目選手はなんといってもこの2人だろう。先日閉幕したばかりのツール・ド・フランス ファム アヴェク ズイフトで総合ワンツーを達成し、マイヨジョーヌとマイヨヴェール(ポイント賞)を勝ち取ったデミ・フォレリング(オランダ、8人出走)とロッタ・コペッキー(ベルギー、7人出走)だ。
今年のツール・ファムの主役となったコペッキー(写真左)とフォレリング(写真右) © tornanti_cc
レースはオランダを中心に進むはずだ。フォレリングに加えて前年の世界女王アネミエク・ファンフルーテン、フォレリング・コペッキーと同じチームSDワークスに所属する最強スプリンターのロレーナ・ウィーベスらがメンバーに名前を連ね、隙がない。
強豪揃いのオランダナショナル選手権を制し、ツール・ファムを制覇したフォレリングが次に狙うのは虹色のジャージ。今年のアルデンヌクラシック3戦3勝を成し遂げた彼女ならば、アルカンシェルは夢ではない。
ともにツールを戦ったフォレリングとコペッキーだが、世界選手権では敵同士になる。これまでスプリントに強いクラシックレーサーのイメージが強かったコペッキーは、ツール・ファムの超級山岳ステージで驚異のクライミング能力を発揮した。2人は3月のストラーデビアンケでは最高にスリリングなチームメイト同士の対決を演じている。彼女たちの再びの競演は、世界選手権の最終日を彩るクライマックスになるだろう。
世界を沸かせたストラーデビアンケでのデッドヒートはフォレリングの勝利。もしかしたら世界選手権でも同じ光景が見られるかもしれない。
世界選手権を走るスペシャライズドライダーを応援するあなたのために、役立つ情報をいくつかお伝えしておこう。
世界選手権は国別対抗戦ゆえ、選手たちはチームジャージとは異なる各国の代表ジャージを着用する。エヴェネプールとコペッキーが着用するベルギー代表ジャージは水色基調。アラフィリップのフランス代表ジャージは濃紺、フォレリング、ウィーベスらのオランダはオレンジがポイントカラーだ。ヘルメットやバイクなどの機材はスペシャライズドのプロダクトを使用するので、「S」のロゴを目印にするとよい。
UCI世界選手権大会の男子エリートと女子エリートは、J Sports でライブ配信されます。配信スケジュールなどの詳細はこちら。
Defending world champion @EvenepoelRemco in da house #belgiancycling #GlasgowScotland2023 📷 Photo News pic.twitter.com/GYpatbSR5B
— Belgian Cycling Team (@BELCyclingTeam) 2023年8月2日
ベルギー代表ジャージを着用するエヴェネプール。
フランス代表ジャージ姿のアラフィリップ(2022年世界選手権)© CAuldPhoto
新型コロナウイルス感染症により昨年の世界選手権は未出走だったフォレリング。今年はオレンジのジャージで完走を目指す。
そして彼らが使用する機材は我々も購入できることをお忘れなく。グラスゴー・サーキットのような過酷な起伏での加速をサポートしながらノーストレスの履き心地を実現したS-Works Torchなど、トップ選手たちと同じ製品を使って日々のライドを楽しんでほしい。
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※コース、出場選手等の情報は2023年8月2日時点のものです。
【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。ロードレース男子エリートは現地で観戦します。
池田 綾さんの記事はこちらから>
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