「我々は速い自転車を手に入れるために練習しているのではない。自身が速くなるために練習をしているのだ。」ロードバイクを頻繁に買い換える人へ、某選手が発した言葉。
中級者的には、シーズン開幕前はついバイクの買い替えを考えてしまう時期。けれどもそうカンタンに買い換えるわけにはいかないし、たしかに自分が自転車に乗るのは、より速い自転車を購入するためではない。だがその一方で、今シーズンはより良い成績を残すために走りを変えてみたい、気分を一新して挑んでみたい、という気持ちもよくわかる。今までと同じ練習量では、バイクでも変えないかぎり過去の成績を超えられないのではないか……。
そこで、スペシャライズドの提供する「ボディージオメトリー・フィット」はいかがだろうか。わずか21,600円(税込)から、バイクを買い替えるのと同等、いや、場合によってはそれ以上の変化が起こるのだ。
ボディージオメトリー・フィットは、スペシャライズドとフィッティングの世界的権威であるアンディー・プルーイット博士が共同で編み出した、人間工学に基づいたフィッティングシステム。ボディージオメトリーのなんたるかは次回以降でお伝えするとして、ペテル・サガンやトム・ボーネンなどのトッププロ選手も毎シーズンごとに受けているという当システム。実際に走りに悩む筆者が中級者を代表して(?)スペシャライズド・ジャパンに伺い、体験してきた。
ボディージオメトリー・フィットは大きく分けてヒアリング、アセスメント、フィッティングの3段階で行われた。
まずはフィッターからライダーへのインタビューで始まる。自転車歴からスポーツ歴、過去に大きなケガをしたことはないか、現在は痛みがないか、なにを解決したいか、そして今後の目標等々。ライダーへの理解を深め、フィッティングの方向性を定めるためだ。ここまで自分の自転車生活を赤裸々に語ることは日常生活ではまずないので(誰しもそうだと思う)最初は気恥ずかしいかもしれないが、真剣に聞いてくれるフィッターの姿勢から「あなたを本当により楽に速く走らせたいんですよ」感がビンビンに伝わってきて、いつしかこちらも真剣に話していた。
なんだかライダーとしての自分を100%理解してくれる味方が現れたようで、とても頼もしい。
今回の筆者の悩みは「肩がこりやすい」のと「100km以上で尻が痛くなる」のふたつ。解決できますかね?
▲筆者を担当してくれた佐藤さん。アメリカはスペシャライズド本社にてみっちりボディージオメトリー・フィットを学んだスペシャリストだ。
次にライダーの身体測定(アセスメント)に移る。足裏の傾き(!)から始まり、坐骨の幅、四頭筋の硬さ、股関節の柔軟性、背中の歪み、首の可動域等々を、ときに専用器具や触診も用いながら、文字通りつま先から頭の天辺まで徹底的にチェックする。ただ測定はしても、良い、悪いといった評価は下されない。単に「これだけ傾いている」とか「これだけ柔らかい」と判定されるだけだ。
これはボディージオメトリー・フィット全体に言えることで、身体に対しての良し悪しや、具体的な改善方法を(たとえわかっていても)提案されることはな い。なぜなら「それは医療行為になってしまい、ほかの資格が必要になるから」だそう。フィッターはその徹底的に調べたデータを淡々と記録し、次の過程 「フィッティング」で活かす。あくまですべては走りのためなのだ。う〜む、まさにプロである。
そして筆者のアセスメントの大きなトピックは「下肢伸展挙上、股関節屈折、立位体前屈に制限あり」。カンタンに言うと体が固くて前屈ができていないということ!
薄々気がついてはいたけれど、ここまでチェックされたうえで指摘されるとぐうの音も出ない。真面目にストレッチします。
さて、データが出揃ったところで、いよいよメインのフィッティングに移る。ライダーは固定ローラーにセットした自分のバイクに跨り、それなりの強度で漕ぐ。その際の腰や膝、足などの角度をフィッターが目視と専用器具でチェックし、クリート、サドル、ハンドルの位置を調整するのだ。
ここで言うボディフィット・ジオメトリーの理念は「人をバイクに合わせる」のではなく「バイクを人に合わせる」こと。だからヒアリングとアセスメントで得たデータも参考に、ライダーには手を加えず、あくまでバイク(とクリート)のポジションをドンドンいじっていく。そして先程も述べたとおり、「絶対にこの位置にするべきです」とは言わない。変えていきながらライダーに「これはどうですか?」と何度も感想を求め、それをもとにまた変更を加え、決断はライダーが下す。「実際に乗るのはライダーですし、百人いれば百人、まったく違う身体的特徴を持っています。」と佐藤氏は語る。
「だから自分の経験では判断しません。セオリーはありますが毎回ゼロからフィッティングしていきます。時間はかかっても、それが結局正解に近づけるんです。」
各部位を1mm単位で追い込んでいくため、ときに出口を見失うこともある。そんなときは素直に別のフィッターに意見を求めたりもする(筆者のときもご協力を頂きました)。フィッター個人より、あくまでライダーが中心。自分がプロ選手かとカンチガイしてしまうほど厚い待遇だ。
また、筆者はアセスメントで右足が短いと判明していたので、クリートにシムをかませて右足の長さを調整した。このこと自体は他のフィッティングにもありそうな話だが、じつはこれも腿が短いのか膝下が短いのかによって、調整する箇所が変わってくるという。ベースにしている人間工学の確かさにも感心させられつつ、たっぷり汗を流してフィッティング完了。
過去に漕がされすぎて逆上したプロ選手がいたとのことだが、たしかに決してラクとは言えないです……。
約3時間かけて筆者のバイクポジションは以下のように変化した。
【クリート】やや後ろへ移動。外側へ開きQファクターを拡大。
【ハンドル】ステムが100mmから120mmに延長。角度は18度もアップ。
【サドル】3mmアップ。(さらに30mm後退させたかったが、シートポストの制限により断念。)
すなわち大幅にアップライトなポジションとなった。見た目にこだわってハンドルを下げていた筆者の強がりが、すべて取っ払われたカタチに(もちろん走りのためなので納得)。
結果、乗り心地は劇的に変わった。これだけアップライトになったのだから当然といえば当然だが、個人的には間違いなくフレーム買い換え以上の変化があった。アップライトになったことで肩への負担が減ったような気がするし、尻への負担も軽減されたように思う。
もちろん、まだポジションを変えて100kmも走っていないので「本当のところ」はわからない。そのため1〜2ヶ月ほど新しいポジションで走りこんでみてから、再度微調整する「フォローフィット」が用意されている(無料)。アフターケアも万全すぎるほど万全。筆者のフォローフィットはこれからなので、その様子も当ブログでアップしていきたい。
パワーサドルを試させてもらったところ。今回は残念ながら坐骨幅が合わず見送り。
受けてみたいけれど他社製バイクでもいいのか? スペシャライズド製品を購入させられたりしないか? と心配されている方がいたら、どちらも大丈夫。事実、筆者は他社製バイクで受けたし、スペシャライズド製品を勧められることも一切なかった(むしろ自分から頼んでパワーサドルを試させてもらったほど)。
また、ボディージオメトリー・フィットはMTBにも対応している。というか、ロードバイクよりも乗り方に「基準」がないので、むしろより受けてほしいそうだ。
ベストなポジションは1年、1ヶ月、極論すればその日の調子でも変化するという。だから何年間も同じポジションというのは原理的にあり得ないし、初心者なら最初から快適に乗れる基準が生まれる。
速くなる近道は、機材を変えることではなく自身が変わることなのだーーー。
ボディージオメトリー・フィットはすべてのライダーを原点に立ち返らせてくれる、最高のフィッティングシステムなのだった。
【筆者紹介】成田ケンイチ
フィットがあまりにおもしろかったので、つい長文になってしまいました。そして今回のフィットで、自分が筋肉で強引に踏むタイプだということも判明。回さなきゃ! 小学館自転車部所属。
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