オーストリア・インスブルックで開催されたロード世界選手権2018。現地観戦レポートを2回に渡ってお届けします。
今回は、男子エリートロードレース開催前日の9月29日、スペシャライズドのテクニカルサポートとマーケティングに携わるジャスティン・サリバン(Justin Sullivan)氏へインタビューを行いました。ロードレースファンとして、またホビーライダーとして、大変興味深いお話を聞くことができました。
■How to makeスペシャルバイク
―スペシャライズドでは、特定の選手、例えばペテル・サガンやトム・ボーネンのためにスペシャルカラーのバイクを作っていますよね。これらはどうやってデザインしているのですか?
―サガンのスペシャルバイク(金色、青のスペシャルカラーのTarmac、Venge、Roubaix)はサガンのマネジメントとコラボレーションして作っているよ。サガンからアイデアをもらって、スペシャライズドの社内デザイナーがデザインを仕上げていくんだ。ボーネンのバイク(白のRoubaix)は、こちらから提案したデザインをボーネンが気に入ってくれて採用になったね。
2018年サガンコレクションDrop2。デザインにはサガンの意向がしっかり盛り込まれている。
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―サガン、ボーネンのバイクはとても格好良かったです。では、ボーラ・ハンスグローエやクイックステップ・フロアーズなどワールドチームのバイクはどうやってデザインしているのですか?
―スペシャライズドの社内デザイナーがデザインしているよ。事前に各チームから指示された色を使って、いくつか案を作るんだ。新しいシーズンが始まる3〜4ヶ月前にはデザインが決まる。来年は新しいデザインのチームバイクが見られるかもしれないね!
Photo:© Sigfrid Eggers
クイックステップ・フロアーズの2018年シーズンチームバイクは、ブラックにブルーとホワイトのラインが入ったシンプルなデザイン。ロイヤルブルーのユニフォームが映えるバイクだ。
―来シーズンのチームバイクも楽しみですね!ところでグランツール、例えばツール・ド・フランスで、サポートしている選手が賞を獲得した場合にスペシャルカラーのバイクを作っていますよね。あれはどうやってデザインしているのですか?
―前半のステージで賞を取った場合は、バイクのロゴのステッカーだけで対応するんだ。
サガンが今年のツール・ド・フランスの第2ステージで勝利してマイヨ・ジョーヌを獲得した時は、翌日のバイクのロゴに黄色のステッカーを貼っていたでしょ?
Photo:© BrakeThroughMedia
今年のツール・ド・フランス第3ステージのサガンのVenge。
マイヨ・ジョーヌに合わせて黄色いステッカーをロゴに貼り付けている。
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実はグランツールの開幕2ヶ月前にはスペシャルカラーのステッカーやヘルメットの準備を始めているんだ。サポートしている選手が最終日に賞を獲得する可能性がある場合は、ステッカーではなくペイントしたスペシャルバイクを作る。マイヨ・ジョーヌや山岳賞、ポイント賞などのバイクのデザインは、事前にちゃんと用意しておく。そして、いよいよ賞を獲りそうだとなったら、最終日5日くらい前にバイクのペイントの準備を始める。ペイントをした後は、無事にその選手が賞を獲得してくれることを祈るばかりだね(笑)
そうやって今年のツール・ド・フランス山岳賞を獲得したジュリアン・アラフィリップのマイヨ・ア・ポワ・ルージュ仕様のバイクも準備したんだよ。ちゃんと最終日のシャンゼリゼに間に合うようにね!
Photo:© BrakeThroughMedia
今年のツール・ド・フランス第21ステージのアラフィリップのバイク。山岳賞ジャージにあわせて白地に赤い水玉があしらわれている。ボトルケージやバーテープまでしっかり山岳賞仕様だ。
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―ツール・ド・フランス最終日のスペシャルバイクは華やかで素敵でした!そのスペシャルカラーのバイクのペイントは、どこでしているのですか?
社外の工場だよ。イタリアにある、特定の工場を使っているんだ。チームバイクも同じ所を使っているよ。
■レースで使う機材はどうやって決まる?
―ところでレースを観戦していると、最新ではないモデルのフレームやコンポを使っている選手を見かけます。これはどういうことですか?
2017年に新しいTarmacを導入した時は、各ワールドチームに新しいフレーム5、6台を提供した。だから2017年は新旧両方のフレームが使われていたね。でも2018年はみんな新しいTarmacを使用しているよ。
一方で、今年の世界選手権でもU23などのレースでは前モデルのTarmacを使っていたよね。これはワールドチームへの機材供給を優先しているからなんだ。
コンポはシマノが提供しているから、シマノ次第かな。
Photo:© BrakeThroughMedia
圧倒的な強さで世界選手権ジュニア個人タイムトライアルとロードレース2冠を達成したレムコ・イヴェネプール(ベルギー)。フレームもコンポも最新モデルではないものを使っている。
―機材といえば、最近ディスクブレーキを使用する選手が増えてきましたね。これはスペシャライズドがチームにリクエストしてるのですか?
スペシャライズドからチームにディスクブレーキの使用を求めることはないよ。
我々はディスクブレーキという選択肢を提供しているんだ。最近は多くの選手がディスクを使用する傾向にある。ディスクブレーキを使用するには選手自身のトレーニングが必要だけど、スペシャライズドがサポートする選手みんながディスクブレーキを使えたらいいと思っているよ。
もちろんリムブレーキだって選択肢の一つだ。パリ-ルーベのような特別なレースでは、少数だけどリムブレーキ仕様のRoubaixも作っているよ。
Photo:© BettiniPhoto
パリ-ルーベのために作られたリムブレーキ仕様のRoubaix。
サガンはスペシャルカラーであるゴールドのバイクで今年の石畳を制した。
―明日のレースでの機材について聞かせてください。サポートしている選手はどのバイクを使いますか?また、ディスクブレーキとリムブレーキのどちらを使いますか?
明日は全員Tarmacで走る予定だよ。サガンはVengeが好きだけど、明日はTarmacを使う。ちなみに新しいVengeはすごく軽くなってS-Works Tarmacに近くなっているけどね!あとサガンはスペシャルカラーのバイクがお気に入りなんだけど、今回のコースは坂がすごく多いので、通常カラーのTarmac Ultralightに乗るみたいだね。
ディスクブレーキとリムブレーキの使用は選手によるね。アラフィリップのようなクライマー系の選手は、より軽いリムブレーキを使うよ。
ギアの選択は各チームが決めるけど、聞いている話だとリアは11-28t、選手によっては32tを使うらしい。コース試走の結果を受けてギアを決定するみたいだ。
ちなみに僕が個人的に乗るバイクも、リアは軽い30tを使っているよ(笑)
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Photo:©Keisuke Kitaguchi
インタビュー翌日、サガンはS-Works Tarmac Ultralightディスクブレーキモデルを駆っていた。
ヘルメットはS-Works Evade II、白いスペシャライズドロゴの市販されていないモデル。
シューズはS-Works 7のSagan Collection。
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―私達もリアは軽い30tを使っています。レーサーにもホビーライダーにも軽いギアはナイスなチョイスですよね(笑) 明日のレースでのメカニックサポートについて伺いたいのですが、世界選手権ではチームではなく国ごとでサポート体制を取りますよね。実際はどんな感じなんですか?
普段のレースではメカニックはチームごとにチームバス、サポートカーに配置されるけど、世界選手権は各国の連盟でサポート体制を取るみたいだよ。スペシャライズドですべて把握しているわけではないけど、デンマークチームはクイックステップ・フロアーズ、ベルギーチームはロット・スーダルがメインでサポートする。
あと、アラフィリップやユンゲルスのバイクはクイックステップ・フロアーズのメカニックがサポートするみたいだね。各チームのメカニックは色々な国に分かれて行くんだ。
サポートカーも国ごとに用意される。車の上に色々なチームのバイクが乗っているから面白いよ。トラブルがあった場合のバイクの管理は難しいけどね。
Photo:©Keisuke Kitaguchi
スロバキアのサポートカー。一番手前にあるサガンのスペアバイクは、スペシャルカラーであるゴールドのS-Works Tarmacディスクブレーキモデル。
Photo:©Keisuke Kitaguchi
クイックステップ・フロアーズのチームバス前で。レース後、メカニックは洗車に追われていた。
写真はカスパー・アスグリーン(デンマーク)のバイク。
■選手だからといって特別なアイテムはない!?
―最後の質問です。ズバリ、選手によっては個人でオーダーした特別なパーツを使っていたりするのですか?
この質問の答えは、ファンのみんなにとってはつまらないものになるね(笑)
UCIには「選手が使用する製品は一般の人も購入できるものにしなければならない」というルールがあるんだ。だから答えはノー。
みんな、選手と全く同じものを買えるんだよ。サガンのバイクだって、ボーラのチームバイクだって、憧れの選手やチームと同じものが買えるのはいいことだよね!
※UCIの許諾を得て、特別モデルをレースに使用する場合もございます。
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忙しい仕事の合間を縫って、笑顔でインタビューに応じてくれたジャスティン。チームバイクやスペシャルバイクの準備にはかなり時間をかけていることや、各選手の機材事情など、普段メディアではレポートされないような話を沢山してくれました。
レースの合間にインタビューに応じてくれたジャスティン・サリバン(Justin Sullivan)氏。
彼のインスタには選手たちの素顔がアップされています。
次回は、男女エリートのロードレース当日の現地の様子とスペシャライズドライダー、バイクのレポートをお届けします!
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【PHOTO&TEXT】:北口圭介(キタグチケイセ)
S-Works Tarmacを筆頭にロード4台を所有するギア好き。しかも全てがチームバイクというロードレース観戦マニア。ジャスティンさんとの機材トーク、時間があればもっと話していたかった!
【TEXT】:池田綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦とグルメポタを愛する週末ライダー。愛車はイヴェネプールと同じセッティングのS-Works Tarmac。
初の現地観戦で憧れの選手に多数会えて感激!帰国した今は世界選手権ロスの真っ只中。
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