新型Roubaixがデビューイヤーのパリ〜ルーベで勝利。257q、約6時間にわたる激闘となったレースの模様をレポートします。
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■超高速で進行する「クラシックの女王」
過酷なパヴェ(石畳)セクションが連続するため「北の地獄」の異名を持つパリ〜ルーベ。今年もパリ郊外のコンピエーニュを出発し、フランスとベルギーの国境近くの街ルーベを目指す。
この特別なレースで、ボーラ・ハンスグローエとドゥクーニンク・クイックステップの2チームが新型Roubaixをチーム機材として選択。合計14名が新型Roubaixとともに出走した。
新型Roubaixがその名を借りるパリ〜ルーベのスタート地点に選手達が揃う。「北の地獄」へ笑顔で向かうマーカス・ブルグハート(ドイツ/ボーラ・ハンスグローエ)©Bettiniphoto
天候は晴れだが風のあるコンディション。序盤から逃げに乗りたい選手のアタックとこれを許さない集団のキャッチアップが繰り返され、ハイペースなテンポで舗装路がメインとなるレース前半を消化。本格的なパヴェ区間のスタート直前でようやく決まった逃げも決定的なタイム差をつけることはできず、やがて集団に引き戻される。
積極的に仕掛ける選手達が先行しそうになる場面もあったが、ディフェンディングチャンピオンとしてこのレースに臨むペテル・サガン(スロバキア)擁するボーラ・ハンスグローエが即座に反応。決定的な動きが生まれないままレースは進み、いよいよ難易度の高いパヴェ区間に突入していく。
2018年パリ〜ルーベ覇者のサガン。チームメイトとともに集団前方でパヴェセクションをクリアしていく。©Bettiniphoto
パヴェ区間に入ると集団は一気にスピードアップ。パンクで遅れる選手達は容赦なく置き去りにされ、頻発する落車が集団を少しずつ削っていく。サガンは右腕であるダニエル・オス(イタリア/ボーラ・ハンスグローエ)を、ドゥクーニンク・クイックステップは頼れるベテランアシストのイーリョ・ケイセ(ベルギー)を、それぞれ落車により最高難易度である星5つのセクター「アランベール」前に失った。
オスはBMCレーシングチームに所属していた2017年はグレッグ・ヴァンアーベルマート(ベルギー/現CCCチーム)を、そして2018年はサガンをパリ〜ルーベでの勝利に導いた名アシスト。パリ〜ルーベ優勝請負人の離脱はサガンとチームにとって大きな痛手だったに違いない。
砂埃が巻き上がるパヴェセクションを進む選手達。ゼネク・スティバル(チェコ/ドゥクーニンク・クイックステップ)は一人舗装路を走っているような涼しい顔。シクロクロスで鍛えた悪路への適応力に加えて、新型RoubaixのFuture Shock2.0が石畳の振動をいなし、スムースな走りを実現している。©2019 Getty Images
■動くレース、揃う役者達
直線に伸びる長い石畳の道「アランベール」を越えると、集団の人数は更に絞られていく。レースが動いたのは残り約66km地点。ニルス・ポリッツ(ドイツ/カチューシャ・アルペシン)がアタックし、これにフィリップ・ジルベール(ベルギー/ドゥクーニンク・クイックステップ)がすかさず反応。リュディガー・ゼーリッヒ(ドイツ/ボーラ・ハンスグローエ)も追随し、先行していた1人を加えた4名の小集団が出来上がった。
現役選手で唯一世界5大クラシック三冠を達成しているジルべール、今季好調なポリッツの先行を嫌がる集団からは有力選手達が次々にブリッジをかける。前年覇者サガンも動いたことで追走集団が形成されるが、イヴ・ランパールト(ベルギー/ドゥクーニンク・クイックステップ)がしっかりとこの集団に入り込む。
ゼーリッヒはやがて先頭から脱落するが、サガン、ランパールトはセップ・ファンマルク(ベルギー/EFエデュケーションファースト)、ワウト・ファンアールト(ベルギー/チームユンボ・ヴィスマ)らとともに最高難易度の「モンサン=ペヴェル」直前で最前線のジルベール、ポリッツに合流。後方の集団ではフロリアン・セネシャル(フランス)、ゼネク・スティバル(チェコ)らドゥクーニンク・クイックステップの選手達が危険な動きを完全に封じ込める。
こうして、ついに役者が揃った。各チームの優勝候補達6人で構成された強力な先行グループは、集団との差を拡げていく。
レース後半で形成された6人の精鋭集団。うち3人―ジルベール、サガン、ランパールトが新型Roubaixを駆る。 © 2019 Getty Images
■サバイバルレースの果てに
先頭6人の勝負がいよいよ始まる。ジルベールが積極的に動き、この日再三のトラブルに見舞われ、力を使い果たしていたファンアールトがまず脱落した。
3つ目の最高難易度パヴェ「カルフール=ド・ラルブル」でもジルベールがアタックするが、これにはサガンがすかさず反応し、不発に終わる。
組織的な動きを見せたジルベールとランパールトのドゥクーニンク・クイックステップコンビに対し、ゼーリッヒの脱落後は1人で動いていたサガン。これが終盤の失速に繋がってしまったようだ。©Bettiniphoto
次に抜け出しを図ったのはポリッツ。追走するジルベールに対して、前年覇者サガンがまさかの失速。後のインタビューで「終盤の勝負どころで力を使い過ぎてしまった」と語ったサガンと、実はチームメイトのバイクで走り続けていたファンマルクは2人を追えない。ランパールトは万が一に備えてこのサガン・ファンマルクグループに残り、ジルベールに全てを託すこととなった。
最終局面で抜け出したジルベールとポリッツの2人は最後のパヴェ「ルーベ」を経て、フィニッシュ地点のベロドロームに到達。最後はバンクでのマッチアップとなったが、事前にダイヤルを回してダンピングをロックし、冷静にスプリントに備えていたジルベールが危なげなく勝利。
36歳の大ベテランが、4つめのモニュメントタイトルを手にした。
最後はジルベールとポリッツの一騎打ち。大歓声の中、ベロドロームでのスプリントに挑む。©2019 Getty Images
■北の地獄を支配した「ウルフパック(狼の群れ)」と最強の狼
終わってみれば、「ウルフパック」らしいレースだった。
序盤の逃げにティム・デクレルク(ベルギー)とランパールトが乗り、チームにとって有利な展開を作り出す。
ジルベールが集団前で積極的に攻め、有力選手達をセネシャル、スティバル、カスパー・アスグリーン(デンマーク)が抑え込む。
最終局面まで攻守に渡りジルベールを支えたランパールトは3位に入賞し、表彰台へ上がった。セカンド・エースとしての役割を見事に果たしたと言えるだろう。
「ウルフパック」とは変化する戦局に柔軟に対応し、その時一番強いカードで勝負をするドゥクーニンク・クイックステップの戦い方を表現したスローガン。混沌としたサバイバルレースで、その戦略が見事に機能した。
1位ジルベール、2位ポリッツ、3位ランパールトの表彰台。全力を尽くした3人が気持ちのいい笑顔を見せる。©Cyclingimages
チームメイトの献身もさることながら、ジルベールがこの日一番強い選手だったことは誰も否定できないだろう。何度も何度も自らアタックを仕掛け積極的にレースを動かしたタフさと、局面を見極めて力を温存しながら駆け引きを行うベテランらしい老獪さ。前週に開催された「クラシックの王様」ことロンド・ファン・フラーンデレンを体調不良でリタイヤしたとは思えない、キレのある動きと勝負強さが光った。
元世界王者にして最強のクラシックスペシャリストが、ついにモニュメント全制覇に王手をかけた。プロ歴17年、毎シーズン必ず1勝以上をマークし続けるジルベールは、このパリ〜ルーベ勝利でドゥクーニンク・クイックステップに通算700勝目をもたらしている。
ポディウムで喜びのジャンプを見せるジルベール。ミラノ〜サンレモを勝利し嬉し泣きをしていたジュリアン・アラフィリップ(フランス/ドゥクーニンク・クイックステップ)とは好対照で、常に落ち着いた笑顔。ちなみにポリッツとランパールトが持っているトロフィーは、なんと石畳の石でできている。© 2019 Getty Images
整った顔立ちに優しい笑顔を浮かべていることが多いジルベールだが、内面には非常に激しい闘志を秘めている。アルデンヌクラシックの名手として数多くのタイトルを手にしながら、2017年北のクラシックへ挑戦するために常勝軍団クイックステップに移籍。この時34歳。そろそろ引退の二文字がちらつくキャリアの曲がり角、年俸ダウンの覚悟と引き換えにジルベールは新天地での挑戦を選んだ。「新しいことに挑戦することこそが大事なんだ」と語ったジルベールは、この年のロンド・ファン・フラーンデレン勝利を射止める。
クイックステップへの移籍初年だった2017年、ロンド・ファン・フラーンデレンをベルギーチャンピオンジャージで勝利。55qという歴史的な長距離独走の後、笑顔でバイクを掲げてフィニッシュラインを通過した。©2019 Getty Images
こんなエピソードがある。路面に雪が残っていたため全員が屋内トレーニングを選択する中で、ジルベールはたった一人屋外トレーニングに出掛けたそう。2018年ツール・ド・フランスでは落車で膝を骨折しながらステージを完走するなど、強靭な精神の持ち主なのだ。
自らの勝利を追い求める一方で、誰よりもチームの勝利のために尽くし、全力でアシストをする。時に自己犠牲を強いる「ウルフパック」の戦い方を、率先して実践してきたのがジルベール。あらゆるレースに高いレベルで対応する彼の走りが、今後もチームに多くの勝利をもたらすだろう。
What’s next? pic.twitter.com/SP0QJYpJe2
— PHILIPPE GILBERT (@PhilippeGilbert) 2019年4月15日
パリ〜ルーベを制したことをお茶目な動画で表現するジルベール。次の挑戦は何だろうか。
■「北の地獄」を完全に席巻するただ一つのバイク
ジルベールは新型Roubaixで勝利した最初の選手でもある。そして、新型Roubaixで走った選手が5人、上位10位に入賞した。新型Roubaixは「クラシックの女王」に最も愛されるバイクになったと言えるだろう。
優勝:フィリップ・ジルベール(ベルギー/ドゥクーニンク・クイックステップ)
3位:イヴ・ランパールト(ベルギー/ドゥクーニンク・クイックステップ)
5位:ペテル・サガン(スロバキア/ボーラ・ハンスグローエ)
6位:フロリアン・セネシャル(フランス/ドゥクーニンク・クイックステップ)
8位:ゼネク・スティバル(チェコ/ドゥクーニンク・クイックステップ)
「勝つことができて本当に幸せだよ。そして、新型Roubaixは完璧だった。」とジルベールは語る。
「新型Roubaixは本当に素晴らしいバイクだ。僕達のチームはパリ〜ルーベのために、バイクメーカーであるスペシャライズドと協力してこの優れたロードバイクを開発した。そして今日、その努力が勝利という形で報われた。」
ジルベールはこうも言っている。―「信頼できるバイクは、あらゆる成功の起点になるんだ。」
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優勝候補筆頭と言われていたサガンの失速に驚いた方も多かったのではないだろうか。力の限りを尽くしたが、連覇はならなかった。それでも5位に入るところが、サガンのサガンたる強さだ。©Bettiniphoto
ちなみに新型Roubaixで出走しフィニッシュ地点に辿り着いた選手達は、257qにも及ぶレース中一度もパンクに見舞われることなくゴールしている。他チームの優勝候補達がパンクで遅れ、追走に脚を使い、補給もままならず後退していったことを考えると、非常に大きなアドバンテージを得ることができたと言える。
パヴェ区間と舗装路が交互に現れるコースであり、Future Shock2.0のダンピングを調整することで選手のフィーリングに合ったサスペンションの調整ができたことが良かったのかもしれない。また、Future Shock2.0で採用された油圧ダンピングは振動による車軸と選手の微細な距離を埋め、結果タイヤと地面の接地時間を向上させることでタイヤのトラクションを増し、スムースなバイクコントロールを実現している。危険回避やパヴェ区間でのライン取り、アタック時の加速などで大いに選手を助けたのではないだろうか。
また、エアロ性能ではTarmac SL6を上回っている。最後のベロドロームでのスプリントではジルベールの鋭い加速を後押ししており、柔と剛いずれの特性も併せ持ったバイクだ。
まさに「Smoother is faster.」。トラブルが命取りになるパリ〜ルーベにおいて、安定した走りと攻める走りを両立してくれる新型Roubaixはこの上なく頼れる相棒となったことだろう。
新型のセッティングは2チーム共通。ホイールはRoval CLX 50、タイヤはTurbo Tireの28oまたは30o。バーテープはSUPACUZをチョイスしている。©Cyclingimages
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■今回の記事で紹介した選手-プロ選手チップス
記事の中で紹介した選手達の特徴を、小ネタも入れてカード形式でお届けします。
レース観戦中など、この選手どんな選手だっけ?と思い出してもらえれば幸いです!
【筆者紹介】:池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。有力選手には上げていましたが、アルデンヌが主戦場のジルべールがパリ〜ルーベを勝つとは!手に汗握りながら観戦しました。単独エースを張ってもいい実績と経験のジルベール、率先して若手を助け、誰よりもチームの勝利に貢献してきました。ウルフパックの精神的支柱の勝利、チームメイトの嬉しそうな様子に感動。本当にいいレースでした!
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