ブルガリアからフランスまでのおよそ4000kmを走破するトランスコンチネンタルレース。日本人で初めて出場する忠鉢信一さん。その素顔に迫る第二話。#TCRNo7
超長距離レーストランスコンチネンタルレースでTOP10を目指す忠鉢信一さんにインタビュー Vol1はこちらから>
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―超長距離レース参加中の宿泊、睡眠、そして水分補給や食事はどのようにされているのでしょうか?またお洗濯はどのようにされているのですか?
レースではないPBPやLELも同じですが、超長距離レースの最大のポイントはリカバリーです。つまり睡眠、食事、水分補給が大切です。
僕の場合は、リカバリーを考えて、夜は必ずホテルに泊まる予定です。野宿を基本にする方もいらっしゃるようですが、僕は野宿のスキルがないし、シャワーとベッドのリカバリーへの影響はとても大きいと思っています。
レースの「エチケット」として、レース中に泊まるホテルの予約はチェックインの前日以降となっているので、移動中にスマフォや電話で予約をします。宿泊地は事前に自分のルートを決める時に決まってくるので、レース中は予定通りに動くだけです。臨機応変に当日の昼に宿泊地を決めたというリポートも見つけましたが、僕のやり方ではないかなと思いました。
睡眠は一日の走行距離やスピードと関係してきます。当然ですが、睡眠時間を確保しながら長距離を走るには、速く走らなければなりません。睡眠を削って速度を落とす戦略を採る人もいるとは思いますが、僕の場合は睡眠時間を確保する方針です。
超長距離レースでの最大のポイントはリカバリー。
PBPは眠らずに走り切る人が少なくないし、LELも先頭でゴールした人は数時間の仮眠1回で1400kmを走りきったそうです。でも4000kmではそうはいきません。僕は公道を走る以上、眠らずに走り続けることを前提にした競争には賛成できないし、眠いのを我慢するのは本当に危ないので自分ではしないことにしています。
日中は水も食料も自転車の上で補給します。僕のフレームバッグには2ℓのウォーターバッグと500㎖の予備のウォーターバッグが入っています。大きい方はガイガーリグというメーカーの製品で、空気圧を使って強く吸わなくても飲める仕組みになっています。小さい方には浄水器がついていて、非常時には川の水などを利用できるようにしています。水以外のスペースにはスペアパーツと食料が入ります。
僕の場合、体の大きさから1時間に吸収できる水分量を推計すると、およそ800㎖です。予備も含めて2500㎖を持っていれば3時間は走り続けられる計算になります。補給食は、20分おきに3時間、食料を口に入れ続けるには、どれくらい、なにが必要かという考え方で選んでいきます。
大事なことは食べ続けられるようにするにはどうするか、ということです。僕の場合、スポーツ専用のバーやジェルを使うと胃腸が疲弊して水も食料も口に入らなくなります。できるだけたくさんの種類の食べ物を少しずつ食べると胃腸の負担は軽くなるようです。日常から日中は少しずつ頻繁に食べるよう習慣を変えてから、ロングライド中の胃腸のトラブルが起きにくくなりました。
出発前に補給食の準備を行う。
洗濯は毎晩して、予備のウェアは持って行きませんが、ビブショーツだけは転倒して破れると困るので2つ持っていきます。
洗濯物は翌朝には乾いていなければなりません。乾かないと、不快なだけでなく、時にはサドルずれなどの原因にもなります。洗剤はシャンプーやボディーソープを使います。人の汗や皮脂にくっついて、すばやくすすげるようにできているのでぴったりで、たいていのホテルに備え付けで置いてあります。
早く乾かすために、競泳用の吸水性の優れたタオルを密着させて絞ります。走行中の汗の吸収と空気中への放散に優れたウェアは、洗濯物としても早く乾きます。
2017年LELエジンバラでの折り返し地点。現地の気候に対応するウエアが必要だ。
―長距離レースの場合、下見はほぼできないと思いますが、ルートの選択はどのようにしているのでしょうか?
インターネット情報を駆使します。ログが多いルートがわかるように表示してくれるサイトもありますし、グーグルアースも便利です。
平地で自分が1時間にどれくらい進めるかはほとんどの人が把握していると思いますが、自分が1時間にどれくらい上れるのか、という数値もサイクルコンピューターで計算できます。ルートの選択で、上りを減らすのか、距離を減らすのか、という選択になったときには、斜度や上りの距離とそのあとにくる下りの距離、そして自分の登坂力を検討することになります。たとえば平均時速10キロメートルで10キロメートル上ったあと、平均時速50キロで10キロメートル下れば、その区間の平均速度は時速17キロメートルになります。下り区間の12分間はペダリングをしないで休めます。その間にどれくらいのリカバリーができるのか、というのも経験を積めばわかってきます。
―今回挑戦するトラスコンチネンタルレースはどのようなレースでしょうか?忠鉢さんがTOP10を目標にされる理由を教えてください。
このレースのルールは10しかありません。GPSの発信器を自転車に付けて、地図上を自分のドットが動いていくのを審判役の「ドットウォッチャー」が見ています。SNSを使って情報の支援を受けていないかもドットウォッチャーが見ているようです。でも、たとえば信号無視の違反を、ドットウォッチャーが見つけることはできません。そこは自分が自分の審判なんです。ルール違反や不正をするなら、このレースに参加する意味はない。そういう基本方針を準備段階から感じています。
4000kmを15日で走りきることが総合順位に入る条件ですが、それを目標にするならば、1日の走行距離は270kmで十分です。この大会に出ようと思うような人にとっては、そんなに難しい距離ではありません。夜に8時間休んでも、平均速度は時速20kmもいりません。優勝するには一日平均400キロメートル、トップ10に入るには一日平均330〜350キロメートルを走り続ける必要があると言われています。
僕の場合、自分の力と昨年までの大会の結果を照らし合わせて、トップ10は可能かつ難しいチャレンジだと思っています。
トラブルに遭い、天候が厳しくなれば、上位に入るどころか完走することも難しくなるでしょう。ただ、トラブルや厳しい天候に備え、乗り越えられるように準備さえしてあれば、「過酷」とは思わないかもしれません。そういうふうに考えてレースに臨むことが、この大会の精神あり、この大会の魅力だと思っているところです。
―他の参加者との協調は失格につながると伺いました。まさに孤独との闘いですが、レース中の辛さ、そして楽しさを教えてください。
トランスコンチネンタルレースはサポートなしの完走を基本としています。ペア部門もありますが、二人で一人という考え方です。
孤独かどうかは、走ってみないとわからないと思っています。
自分のための特別なサポートはどんなことでも禁止です。たとえば、ドロップバッグも運送会社を利用した有料の特別なサポートなので禁止です。だれでも利用できる「そこのあるもの」「そこのいた人」、たとえば自転車店での修理やパーツの購入は可能です。人間の作り出した環境も、「自然」の一部ととらえているように私には思えます。そう考えると、この欧州大陸横断レースが、単独無補給の南極大陸横断と同じ条件のように私には思えます。
一人なのに孤独でない、というのは逆説的なようですが、そのときの自分にできることや、そのときの自分が考えたことには、必ずつながっている過去の出来事や出会いがあって、一人だからこそ、一人でないと感じることもあると思っています。そういう不思議な感覚が、超長距離レースの魅力の一つなのかもしれません。
―ありがとうございました。
サポートなしでヨーロッパを横断する世界最高峰の超長距離レース「トランスコンチネンタルレース」は来月7月27日からスタートします。忠鉢さんはこのレースに新型Roubaixで臨み、トップ10入りを目指しています。残り1か月、体調に気を付けて頑張ってください!応援しております。
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●忠鉢さんが使用するバイクS-Works Roubaix eTapについて
今年のパリ-ルーべで7度目の優勝に輝いた新型Roubaix。エアロ性能、軽量性、乗り心地を完璧なバランスで実現する新しいRoubaixは、ただのコ ンフォートバイクではありません。一切の妥協を排しすべてが詰まった過去最高性能を誇るレースバイク、それが新しいRoubaixです。
5大モニュメント制覇に王手をかけたジルベールは、レース後にこうコメントを残しています。
―「信頼できるバイクは、あらゆる成功の起点になるんだ。」
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「クラシックの女王」に最も愛されたバイク、新型Roubaix―パリ〜ルーベ2019
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