ブルガリアからフランスまでのおよそ4000kmを走破するトランスコンチネンタルレースで完走した忠鉢さんにお話しをお聞きしました。#TCRNo7cap105
超長距離レーストランスコンチネンタルレースでTOP10を目指す忠鉢信一さんにインタビュー Vol1>
超長距離レーストランスコンチネンタルレースでTOP10を目指す忠鉢信一さんにインタビュー Vol2>
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ー改めてTCRお疲れ様でした。トータル14日10時間33分の60位。そして日本人として初完走、おめでとうございます。
ありがとうございます。目標だったトップ10どころか、12日目のゴールもかないませんでしたが、今年はこれまでのレースの中でもっとも難しいコースだったと言われていて、初参加の僕が上位を狙うのは厳しかったのかもしれません。目標通りのタイムでゴールすれば例年ならば10位台だったのが、今年に当てはめると20位台。レースが求める選手の力も、集まってくる選手の力も、両方とも上がっているようです。
今年の総合優勝は初参加の24歳のドイツ人女性、フィオナ・コルビンガーでした。彼女は今回の優勝候補だったビヨン・レンナートと同じドイツ・ドレスデンの長距離ライディングコミュニティーに属していて、レベルの高い走り方を身近で知っていたというアドバンテージがありました。有力選手がほかのウルトラエンデュランスレースを選んで不参加だったり、参加した優勝候補もリタイアしたり、という状況ではありましたが、序盤から上位につけ、中盤からは独走でした。走り方次第で上位にいけるウルトラエンデュランスレースの面白いところでもあります。ヨーロッパでは女性が優勝したということもあって主要メディアでもニュースになっていて、TCRの注目度がますます上がったようです。彼女がスイスを走っているとき、数十人が車などで伴走して応援したと聞いています。
今回のTCRの途中で、韓国から参加された元ニセコクラシック優勝者と並走しました。「先にゴールした方がアジアナンバー1だな」と言われてちょっとその気になったんですが、彼にはかないませんでした。アジアからの参加はまだまだ少ないのですが、日本からは私のほかに東京にお住まいのロシア人の方も参加していました。昨年のジャパニーズ・オデッセイで2位だったそうですが、その方より一日早くゴールできたことには自分でも驚いています。
日本人の大会初ゴールは主催者にも喜んでいただきました。レースの公式ポッドキャストでもとりあげていただき、TCRファンの方からフェースブックにお祝いのコメントもいただきました。
ーTCRの運営組織は少人数と以前お聞きしましたが、レース開催にあたり、多くのボランティアが協力していました。実際にレースに参加されてみた、その雰囲気を教えてください。
途中の4つのチェックポイントはボランティアの方によって運営されていて、レースと選手に敬意を払った温かい対応に本当に感謝しています。
レース前日のライダーズミーティングで主催者から、義務ではないけれどもチェックポイントでボランティアの方々と会話してあげてください、という話がありました。どういうことなのかなと思っていたんですが、チェックポイントのボランティアの方々が、レースのファンだったり、レースのOB・OGだったりするんです。だから選手に敬意を払うとともに、レースでどんなことが起きているのか、とても興味を持ってくれていました。チェックポイントで僕たちの苦しかった体験や、楽しかった体験などを聞いていただくと、レースなので急いでいることは急いでいるんですが、話すことで安心するというか、レースとの一体感が生まれてきて、またがんばろうという気持ちが沸いてきました。
ゴールも同じで、アットホームな雰囲気でした。僕がゴールしたときには、数人とスタッフと先にゴールしていたほかのライダーが合わせて10人くらいが拍手で迎えてくれました。拍手の一つひとつにこのレースへの理解と尊敬がつまっているように感じられて、このレースに参加して、ゴールまでがんばってきて、本当によかったと感じられる瞬間でした。
ーTCRでの装備について教えてください。
フレームとコンポーネントはS-Works Roubaix Etap。サドルはPower w/mimic expertです。ホイールはRoval CLX32ホイールにS-Works Turboタイヤを装着しました。
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今回の4100キロ以上という距離も、14日以上のタイムも、これまでにない長さでした。パリ・ブレスト・パリやロンドン・エジンバラ・ロンドンを含め過去に1000キロ以上のブルベを走っていますが、両手、両足、おしりのコンタクトポイントに、まったく問題が起こらなかったのは今回が初めてです。全部で100キロほどのグラベルを走り、舗装路の状態が悪い区間もたくさんあったので、Future Shock2.0などの衝撃吸収のトータルシステムに助けられたのは間違いないと思います。走り終えてからFuture Shock2.0のカバーが破れていたことに気づきましたが、それだけ激しく働いてくれたんですね。
速いだけの自転車ではこのレースの優勝は無理です。実際、断トツの優勝候補だったビヨン・レンナートは、サドル擦れが悪化してリタイアしました。レース後に「何が問題だったんですか」と直接聞いたんですが、使い慣れたサドルで、ポジションも変えていなかったそうです。おそらく雨で濡れたことでパッドがずれるようになり、先頭を圧倒的なペースで走っていたので、逆に対応が遅れたんでしょう。もう一人の優勝候補もメカトラでリタイアしたと聞いています。
僕も、チューブレスタイヤとスラムのドライブトレインに慣れておらず、準備も対応も不十分になってしまいました。トラブル対応がうまくいかず、それが大きなタイムロスにつながりました。あらゆる面でライダーと自転車と「一体化」していないと、このレースの上位には行けないと思います。
ー忠鉢さんが最優先にしていた空力性能では、Roubaixのエアロ性能の高さを感じることができましたか?
もちろんです。果てしなく続く強い向かい風の中で、ほかの選手に比べて明らかに速く走れました。ヨーロッパは基本的に西風が吹いていて、レースはヨーロッパを東から西へ走り続けたのでずっと向かい風です。フランスに入ってからの終盤はとくに風が強くて雨も降って荒れた天候でした。下りでペダルを踏んでも時速20キロを出せるかどうかというひどい向かい風だったんです。そういう条件の中で何人かの選手を抜いていきました。逆に抜かれるということはありませんでした。
準備段階から感じていたんですが、横から突風を受けるような状況でのホイールの安定感には助けられました。とんでもない突風でも怖いと思うような動きにはなりませんでした。空力性能でも貢献してもらえたことも間違いないと思います。登りでも前へ転がってくれているような感覚がありました。グラベルでも舗装路でも快適だったのはどうしてなのか僕の知識では説明できませんが、とにかくストレスなく速く走れるというルーベの良さを引き出し合うホイールだと思います。
ヘルメットのEvadeUwith ANGiの空力性能も、エアロポジションのときに感じられました。長い下りだと頭を下げるだけで加速されました。向かい風のときも、頭を下げることによって同じパワーで時速数キロの違いが出せました。日中の気温が40度近くになる日もありましたが、暑さでヘルメットが気になるということはありませんでした。
ーこだわりの装備について教えて下さい。
シューズはGiro Empire SLXです。くつひもで編み上げるタイプのシューズを購入したのは偶然なのですが、足の状態が変化するウルトラエンデュランスレースには最適だと思います。私は足先に近い位置から足の甲の中央部にかけてはゆるめておいて、結び目に近い部分だけを締めるようにして使っています。
距離と時間が進むにつれて、足先に近い部分が痛くなってくることがあります。そのときには、くつひもを完全に緩めて対応します。逆にフィット感をあげたくなったときは、足先寄りの方も締めて調節しました。
竹谷賢二さんのペダリングスクールで技術を上げられたおかげで、ペダリングの効率がとても上がり、ソールの堅さの効果をはっきり感じられるようになりました。シューズは大事な用具ですが、ペダリングのスキルを上げると、シューズの機能をより活かせることを実感しました。
サングラスはオークリーのフライトジャケット・フォトクロミック。調光レンズはウルトラエンデュランスには必需品です。夜でもかけっぱなしで大丈夫。「メガネクリーナーふきふき」は一日5枚以上使いました。
メインのバッグはフレームバッグがアピデュラのエクスペディションフルフレームパック、ハンドルバーには同じくアピデュラのレーシングハンドルバーパック、サドルバッグはテイルフィンのエアロパックS(プロトタイプ)を使いました。
フルフレームパックは前年、前々年を連覇したジェームス・ハイデンが使っていたのを参考にして、2リットルのウォーターブレーダーと食べ物、ツール類を入れました。最大でピザが4枚入ります(笑)。
アピデュラのバッグが「標準仕様」といえるぐらいたくさんの選手が使っていました。でも今回、上位を狙う選手でアピデュラのフルフレームパックを使っている選手は少なく、上位の選手ではレーシングフレームパックかエクスペディションフレームパックが主流でした。
私は普段のブルベでエクスペディションフレームパックを使っていたので、スタート前の集合で「しまった。あっちか」と少し後悔しました。ジェームス・ハイデンは食料と水をたくさん積み込んで停車時間を減らす戦略で優勝しましたが、今回は手持ちの食料と水を削ってでも装備を軽量化し、その上で補給のための停車時間を減らす工夫をしているようでした。登りでもスピードが求められるようなっているのと、グラベルでのパンクのリスクを減らす必要性への対応だと思います。今後の大会で獲得標高やグラベルの比率が変われば、勝つための戦略も変わってくると思います。
レーシングハンドルバーパックも人気でしたが、これを使っていない選手は、エアロバーの下に寝袋やスリーピングマットをつけていました。野宿ができると止まる場所と時間の選択がより柔軟になります。これで一日数時間をかせげたと思います。それを10日続ければ1日以上の差をつけられます。私はその点を軽視しすぎていて、反省材料になりました。
サドルバッグもアピデュラが主流でした。ただ上位ほど小さいバッグです。私が使ったテイルフィンは少し重いのと、パンクした場合に特製のリアアクスルを外すのに時間がかかり、パンク対応の時間が3倍以上になりました。バック部分とカーボンの支柱部分をバイクから取り外す機構は工夫がすばらしくワンタッチでオッケー。ツーリングにはおすすめの製品ですが、次の挑戦にテイルフィンを使うかどうかはなんとも言えないところです。
野宿は一度だけしました。名前を思い出せない小さな町で宿探しをあきらめ、教会で寝ようと思ったときに、公園に小屋があるのを見つけました。それはとてもきれいなトイレで、とても温かかったので野宿の場所に即決しました。大の方が広かったのですが、脚の長い昆虫が先客にいたので、小の方を選びました。驚くほどきれいに掃除をしてあって、不快なところはありませんでした。役に立ったのは小さめに切ったエマージェンシーシートです。それをつなぎあわせるように敷いたり、体に巻き付けたりして、睡眠中の体温の低下に備えました。もしもの野宿に備えてスーパーマーケットで買ってあったバゲット、プロシュートの3種盛り、フロマージュブラン、ネクタリン、サンペルグリーノ、オレンジジュースで、50歳で迎えた人生初の野宿をお祝いしました。
完走報告会(スペシャライズド新宿店)でエマージェンシーシートの使用について語る忠鉢さん。
Vol2に続く。
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【忠鉢 信一さんプロフィール】
横浜市出身。中学生でサッカー16歳以下日本代表に。国体少年の部で優勝。筑波大学では井原正巳、中山雅史さんとプレー。2013年のホノルルセンチュリーライドをきっかけに自転車をはじめる。2015年にパリ〜ブレスト〜パリ、2017年にロンドン〜エジンバラ〜ロンドンを完走。
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