その昔、ポンプは細くて長い方がいいと言われていた。それは細いタイヤに高圧(7気圧とか8気圧とか)で空気を入れるために使われていたからだ。
その昔、ポンプは細くて長い方がいいと言われていた。それは細いタイヤに高圧(7気圧とか8気圧とか)で空気を入れるために使われていたからだ。
だが昨今は、太いタイヤを好む人種が増え、さらには27.5プラスやファットバイクに代表される、極太タイヤが増えてきたことが、常識を変えた。特にMTBでは、高い空気圧を入れる必然性がない。それに今、極太だと言われていても、数年後には当たり前の普通の太さになっていることだろう。
僕はここんところ2.2幅のタイヤを、1.2〜1.5気圧ぐらいで使っている。最近の趣味は空気圧計を持ち歩いて、ツーリングなんかで行き交うライダーの空気圧を測ることなのだが(測られた皆さん、ご協力ありがとう)2.0気圧以上の人はほとんどいない。それが実際にMTBに乗る人の、現実としてのスタンダードだ。
それにほら、今発売されている完組ホイールに書かれている注意書きを見てごらん。「Max. 3.0 Bar」すなわち、最高で3気圧以上入れないでね、ということだ。有名パーツメーカーの一般的なホイール(めんどくさいな、Shimano XTホイールだ)ですら、3気圧以上入れる必要がない。細くて長いポンプはもはや我々MTBerには必要ない。
必要なのは、一発のポンピングで空気の量を入れられるポンプである。その一例がこの太くて短いファット用ポンプ「Air Tool Big Bore Pump」だ。ファット用だからといってファットじゃないタイヤには使えないのかというと、もちろんそんなことはない。むしろ使いやすい。ポンピングの回数が減る。ポンプ脇には90ccと書いてある。おそらく一回のポンピングで入る空気の容量だろう。
また口金がホース式であるのも今時の常識だ。チューブ式でないポンブは、ガンガン空気を入れているとタイヤチューブのバルブを曲げてしまうことがある。やったことがある。あのときは寒くて悲しかった。特に最近ではチューブレスレディを使い、バルブ口の扱いに繊細でなくてはいけないので、このホース式口金のないポンプを選ぶ理由が、男のロマンや頑固親父のこだわり以外、僕には全く見当たらない。
そして口金そのものは『プレスオン式』と呼ばれる方式。米式、仏式バルブどちらでも行ける。これは今まで見たことないもので、口金をバルブの上に入れて、押し込むと締まる。確かに簡単だ。分厚いグローブでも問題ない操作性、とあるが、その押し込む動作は少し硬めである。賢い方ならバルブ部を分解し(簡単だ)、すこしグリスを塗っておくことだろう。これで動きがスムーズに保てる。
重さは実測155g、全長21cm。いつも持ち歩いているハーモニカより少し大きいぐらいで、毎日持つバッグの底にいれておけるぐらいの大きさだ。ことわざにもあるように、パンクは忘れた頃にやってくる。ツーリングだけに限ったことじゃない。だからいつでも持っておける短い方がいい。
最近のスペシャライズドは、このポンプに代表される「こういうのあると便利だよね」的なアイディアを具現化するアクセサリーを、積極的にリリースしている。「皆さまのニーズにくまなくお応えします」ではなく、本当にMTBに乗ってる人が「オレこういうの欲しいもん、みんなも絶対そうだと思うよ」という自信と共に作っている、その気持ちが伝わってくる。
皆さまのためのモノ、ではない。「“オレ”と仲間の君のためのモノ」だ。そして僕はこのポンプを作った“オレ”の仲間だったというわけだ。もしあなたもこのポンプに興味を持ったなら、たぶんあなたも僕らの仲間なんじゃないかと思う。
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【筆者紹介】:中村浩一郎
マウンテンバイクのライダーでぼんやり物書き。ライドもぼんやりしているので、パンク修理の準備は欠かさない。ポンプとパンク修理パッチはいつも持ち歩いているので、パンクした人は僕に電話ください。心を込めて声援を送ります。
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