「よくわからない」と言われがちなロードレース、今年は観戦してみませんか?見どころやポイントを全3回に分けて解説します。
実は年間通じて世界中で数多く開催されているロードレース。上位カテゴリだけでも300以上のレースがあり 、大きなレースはスポーツテレビ局やYouTubeで観戦することができる。
「ロードレース観戦基本のキ」第2回では、レースの種類や特徴についてお伝えする。あわせて観戦を始めるにあたっておすすめのレースも紹介していきたい。
ロードレース観戦基本のキ @ロードレースって、一体何をしているの?
ワンデーレースはいわば一発勝負。スタートした選手の中から、その日一番強い選手が勝つ。
ワンデーレースの中でも長い歴史と高い格式を持つレースを「クラシックレース」と称する。世界最古のワンデーレースと言われているリエージュ〜バストーニュ〜リエージュが初めて開催されたのは1892年。特に格式が高い5つのレースは「モニュメント(記念碑の意)」 と呼ばれ、これらのレースでの勝利は選手にとって大きな栄誉だ。また、世界選手権やオリンピックのロードレースもワンデーレースに分類される。
ワンデーレースが多く開催される春先のベルギー、オランダは気温が低く、更に雨や雪がよく降る。もちろん天候に関わらずレースは開催されるため、選手達は雨や寒さをしのぐための装備を身に付けて臨む。滑る路面で落車のリスクは増し、寒さが体温を容赦なく奪う。極限状態での戦いに注目してほしい。
3〜4月のヨーロッパは冬のような寒さになることも。冷たい雨がレースをさらに過酷にする。Photo:©Bettiniphoto
コースにしばしば組み込まれるのが急勾配の坂、いわゆる激坂だ。フレーシュ・ワロンヌに登場するミュール・ド・ユイ、通称「ユイの壁」は最大勾配26%に達する。プロ選手でも蛇行する程の強烈な斜度で、レースの勝負所だ。
フレーシュ・ワロンヌ名物「ミュール・ド・ユイ」。ミュール(Muur)は壁という意味。
その名の通り壁のようにそびえ立つ激坂をよじ登る。Photo:© 2019 Getty Images
激坂と並ぶクラシックレースの名物が「パヴェ」と呼ばれる石畳。握りこぶし大の石が敷き詰められた農道だ。日本で見られる石畳とは比べ物にならないくらい石が大きく、切り立っており、凹凸が激しい。当然ながら自転車で走るのは非常に難しく、高度なテクニックを要する。
この石畳区間が多く組み込まれていることで有名なレースがパリ〜ルーべ。このレースではS-Works Roubaixなど、トラクションコントロールと振動吸収に優れたモデルが活躍する。パンクやメカトラブル、落車が頻発するサバイバルレースは選手にとっては地獄だが、観客にとっては見ごたえ抜群だ。
舗装路とは全く異なる走行能力が求められる石畳。グローブをしていても手の皮が剥ける程の振動が選手達を襲う。Photo:© 2019 Pool
ステージレースでは特別賞に応じたスペシャルジャージが用意されることがある。
世界で一番有名なレースであるツール・ド・フランスで暫定首位の選手に与えられるのが「マイヨ・ジョーヌ(黄色いジャージの意・右から2番目)」。このジャージに袖を通すことは選手にとって大きな意味を持つ。© 2019 Getty Images
開催日ごとの勝利「ステージ優勝」と全体を通じての勝利「総合優勝」の両方が同時に存在していることが、ロードレースのわかりにくさの要因のひとつでもある。レースによってはスプリントが最も強い選手に与えられる「スプリント賞」などの特別賞が設定されていることもあり、それぞれの賞を狙う選手やチームが入り乱れることになる。
すると何が起こるか。ステージによって、その日の成績のために積極的に動く選手と、他の狙いのために積極的に走らない選手とがはっきりと分かれることになる。「あの選手はレースに出ているのにやる気がないのか」と不思議に思われるかもしれないが、選手にとっての狙いはその日の勝利だけでないということを知っておいていただけるとよいと思う。
ステージ毎にコース設定は異なる。平坦、アップダウン(丘陵)、山岳などの様々なプロフィールにあわせて、選手達はバイクをはじめとする装備を変えながら戦っていく。
1つのステージを勝つだけでも栄誉なことなので、この勝利を専門で狙う選手が存在する。ひとかたまりの集団のままフィニッシュ地点に到達すると、瞬発力に優れたスプリンターと呼ばれる選手達がフィニッシュラインを争う展開となることが多い。平坦基調のステージでは集団スプリントとなり、その最高速度は時速80qを超えることも。
スペシャライズドがサポートするスプリンターがこぞって愛用するのがS-Works Venge。エアロダイナミクスに優れ、コンマ1秒を争う彼らを力強く後押しする。
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フィニッシュラインを争うスプリンター達。パスカル・アッカーマン(左・ドイツ/ ボーラ・ハンスグローエ)は世界最強スプリンターの1人。Photo:©Bettiniphoto
序盤から集団を抜け出して、独走で勝利を狙う選手もいる。ロードレースは空気抵抗との戦いであり、空気抵抗を受ける先頭を交代できるメンバーが多い程有利になるので、少数で逃げる選手は追いかけてくる多数の選手で構成される集団に捕まってしまうことがほとんどだが、そのまま逃げ切って勝利を飾ることもある。
独走力に優れた選手の鮮やかな逃げ切り勝利。レミ・カヴァニャ(フランス/ ドゥクーニンク・クイックステップ)が得意とする勝ち方だ。
「逃げ屋」と呼ばれる逃げ切り勝利専門の選手も存在する。
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長い登坂で他の選手を引き離す走りを見せるジェームス・ノックス(イギリス/ ドゥクーニンク・クイックステップ)。Photo:© 2020 Getty Images
エアロを追求した深い前傾姿勢で走るレムコ・エヴェネプール(ベルギー/ ドゥクーニンク・クイックステップ)。
彼は個人タイムトライアルのヨーロッパチャンピオン。スペシャルペイントのS-Works Shiv TTに注目。Photo:© 2020 Getty Images
ワンデーレースとステージレース、様々なレースが年間通じて開催されているが、観るべきレースはどれだろうか。
結論から申し上げると、面白そうなレースをご覧いただくのが一番だ。お気に入りの選手がいればその選手が出るレースを観ると盛り上がるだろうし、開催地で選ぶのも良い。時期別の主要レースを確認していこう。
あまり観戦に馴染みのない方には、ワンデーレースをおすすめしたい。その日一日で勝者が決まるワンデーレースでは全員が自チームの勝利のために走るため、わかりやすく、見応えがある。序盤から激しい展開になることが多いので、「何も起こっていないように見える時間」も比較的短く、退屈することなく観戦できる。
ステージレースでは総合優勝を狙うエースたちの熱い戦いが見られる山岳ステージがおすすめだ。美しくも厳しい大自然の中を駆けていく様も楽しめる。
スポーツテレビ局J Sports(ジェイスポーツ)で放送するレースは日本語解説・実況が付くのでより気軽に観ることができる。出場選手・チームやコースの詳細もホームページやSNSでチェックできるので、是非観戦を始めよう。
Cycle*2020 パリ〜ニースS7
— J SPORTS☀️サイクルロードレース【公式】 (@jspocycle) March 14, 2020
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ロードレースのシーズンは1月下旬に開催される ツアー・ダウンアンダー(ステージレース/ オーストラリア) で本格的にスタートする。真夏のオセアニアや南米、そして中東でのレースを経て、舞台はロードレースの本場ヨーロッパへ。2月末の激坂と石畳が組み込まれた オンループ・ヘッドニュースブラッド(ワンデーレース/ ベルギー) でクラシックシーズンが開幕する。
3月に入っても パリ〜ニース(ステージレース/ フランス) など凍える気温や悪天候と戦うタフなレースが続く。2020年は新型コロナウィルス感染拡大の影響で延期となったが、世界5大クラシック「モニュメント」のひとつ ミラノ〜サンレモ(ワンデーレース/ イタリア) が春の訪れを告げるレースだ。
春の嵐、止まらないアラフィリップの快進撃-Tarmac、そしてVenge、スペシャライズドと走った軌跡を振り返る>
2月〜3月に開催されるベルギー・フランドル地方でのワンデーレースで何度も登場する急坂ミュール・ファン・ヘラールツベルヘン。最大勾配20%に達する石畳の激坂だ。
頂上に教会があるため、別名は「ミュール・カペルミュール(教会)」。
4月に入るとクラシックシーズンはいよいよクライマックスを迎える。「モニュメント」最高峰であるクラシックの王様・ ロンド・ファン・フラーンデレン(ワンデーレース/ ベルギー) 、そしてクラシックの女王・ パリ〜ルーベ(ワンデーレース/フランス) が2週連続で開催されるのだ。
特にパリ〜ルーベはクラシックハンター憧れのレース。選手達が「他のどのレースとも違う」と口を揃える理由は、約250kmのコース中50km以上に渡って設定された「セクター」と呼ばれる石畳区間にある。前半こそ舗装路が続くものの、後半は難易度の高い石畳区間が連続して登場する。生き残った選手達を迎えるのはトラック競技場(ベロドローム)。バンクを走ってからフィニッシュという演出も粋だ。
「クラシックの女王」に最も愛されたバイク、新型Roubaix―パリ〜ルーベ2019
パリ〜ルーベは特別なレース。石畳区間を走り抜いた後に選手達が辿り着くベロドロームには熱狂的な観客が詰めかける。Photo:© 2019 Getty Images
激坂と石畳のクラシックが熱狂のうちに閉幕した後は、 アムステル・ゴールド・レース(ワンデーレース/ オランダ)、 フレーシュ・ワロンヌ(ワンデーレース/ ベルギー) と舞台を丘陵地帯が広がるアルデンヌ地方に移す。「モニュメント」の一角である リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ(ワンデーレース/ ベルギー) が終わると、いよいよグランツール初戦 ジロ・デ・イタリア(ステージレース/ イタリア) だ。
ジロ・デ・イタリア2019を駆け抜けたスペシャライズドバイクとボーラ・ハンスグローエ
「ラ・ドワイエンヌ(最古参)」と呼ばれるリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ。ベルギー・ワロン地方の丘陵地帯を駆け巡る。Photo:©Bettiniphoto
ジロ・デ・イタリアを終えた選手達は、 ツール・ド・フランス(ステージレース/ フランス) に向かう。 クリテリウム・ドゥ・ドーフィネ(ステージレース/ フランス) などの前哨戦を経て、選手達は世界で最も有名なグランツールに挑む。
全21ステージ、つまり3週間に渡る戦いは2日間の休息日を除き毎日続く。世界中から観戦に訪れた人々で賑わう街から街へ、ピレネーやアルプスといった険しい山岳地帯を超え、パリ・シャンゼリゼで最終日を迎える。夕闇に浮かぶ凱旋門をバックに行われる表彰式は荘厳の一言。
狼達はマイヨジョーヌの夢を見るか―Tarmac Disc、Venge、Shiv TT Discで駆け抜けたツール・ド・フランス2019@
二兎を追う者が二兎を得る―Tarmac Disc、Venge、Shiv TT Discで駆け抜けたツール・ド・フランス2019A
ツール・ド・フランスは「フランス一周」の意。開催年によってコースは異なるが、後半に厳しい山岳ステージが複数日設定される。
熱い登坂バトルはもちろん、高速ダウンヒルも見どころのひとつだ。Photo:© 2019 Getty Images
21日間を戦い抜いた選手達を迎えるパリ・シャンゼリゼ。ツール・ド・フランスを象徴する光景だ。Photo:© 2019 Pool
ツール後はグランツール最終戦 ブエルタ・ア・エスパーニャ(ステージレース/ スペイン) だが、今年はツールの後東京五輪へ向かう選手も多いだろう。
Tarmac Disc、Vengeでステージ5勝!ドゥクーニンク・クイックステップのブエルタ・ア・エスパーニャ2019>
季節が秋に進むと、再びワンデーレースのシーズンが戻ってくる。9月末にはロード世界選手権が開催され、選手達はチームを離れて世界王者の座を賭けた国別対抗戦に挑む。10月に行われる「モニュメント」最終戦 イル・ロンバルディア(ワンデーレース/ イタリア)がヨーロッパのレースシーズンのフィナーレだ。 その後はジャパンカップ(ワンデーレース/ 日本)やツール・ド・フランスさいたまクリテリウムなど、日本へトッププロ選手達が訪れる機会もある。
2019 UCIロード世界選手権 ヨークシャー現地観戦レポート>
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今シーズンは新型コロナウィルスの影響で多くのレースが延期になる等、スケジュールが変則的になっている。選手達がレースに戻ってくるのを楽しみにしながら、過去のレースなどを振り返ってみるのはいかがだろうか。
【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。ロードレース観戦初心者向けイベントでお伝えしている内容をブログ記事にさせていただくことになりました。今年はレースのキャンセルや延期が続きますが、選手達、そしてチームやレース関係者の無事と安全を祈りつつ、再開を楽しみに待ちたいと思います。