2020シーズン新カレンダーが発表され、レース再開の兆しが見えてきました。選手達はレース休止期間をどのように過ごしているのでしょうか。
新型コロナウイルスの感染拡大を受け、ロードレースは3月14日に最終日をキャンセルして閉幕したパリ〜ニースを最後に休止期間に入っている。厳しい外出制限が敷かれた地域もあり、プロ選手達は難しい局面を過ごしてきた。スペシャライズドがサポートするUCIワールドツアーチーム、ドゥクーニンク・クイックステップも例外ではない。
ロックダウン期間中に注目を集めたのがインドアサイクリングだ。多くのチームがローラー台とZwiftなどのオンラインアプリを使用したバーチャルライドをトレーニングやファンとの交流に活用している。
我が家にインドアサイクリングがやってきた その1
我が家にインドアサイクリングがやってきた その2
ロードレースファン流 インドアサイクリングの楽しみ方
毎週水曜に開催されるウルフパック・ウェンズデー・ライド。Zwiftユーザーならば誰でも参加可能。 ドゥクーニンク・クイックステップの選手達が2人ずつ交代でライドをリードしてくれる。 ※リンクは6月3日開催イベントのため既に終了しています。
イベント限定でチームキットを着用することができる。気分はウルフパック。
更にリアルレースの代替レースとして、プロ選手限定の大規模なバーチャルレースもいくつか開催された。
ロンド・ファン・フラーンデレンが開催されるはずだった4月5日、レース主催者により用意されたのは「クラシックの王様」のクライマックスを仮想空間に移植した「デ・ロンド・ロックダウンエディション」。ドゥクーニンク・クイックステップからはゼネク・スティバル(チェコ)、イヴ・ランパールト(ベルギー)、そしてレムコ・エヴェネプール(ベルギー)が出場した。
約1時間、後半32kmを再現したレースではロンド初参戦のエヴェネプールが序盤に果敢なアタックを見せたが、残念ながらその後失速。グレッグ・ファンアーヴェルマート(ベルギー/ CCCチーム)が終盤独走を見せ、そのまま勝利を飾っている。
歴史ある「ロンド」初のバーチャルエディション、「デ・ロンド」。主催者により専用ビジュアルも作られた。
選手達は自宅からバーチャルレースに参加し、その様子は全世界に配信された。スポンサーやファンに配慮した装飾に注目。
スティバルの息子も出演している。(写真右に映っている)
Photo:https://twitter.com/deceuninck_qst/status/
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ランパールトは午前中はロードバイクに乗りトレーニング、午後はトラクターに乗り両親の農場を手伝う生活を送っていたそう。
4月22日からはツール・ド・スイスの主催者による「ザ・デジタル・スイス5」が開催された。ツール・ド・スイスの名所を組み込んだ5日間のレースには17のUCIワールドツアーチームに加えてプロチーム2チーム、更にスイスナショナルチームの20チームが参加。グランツールやクラシックレースの上位に入賞するビッグネームが名前を連ねた。ドゥクーニンク・クイックステップからも昨年のツール・ド・フランスで14日間マイヨジョーヌを着用し続けたジュリアン・アラフィリップ(フランス)を筆頭に13名が参加している。
ピーター・セリー(ベルギー)にとって、ザ・デジタル・スイス5は「これまでで最もハードなレースのひとつ」だったそう。
1日目に出場し、エヴェネプールに続く8位でフィニッシュ。Photo:©catharsis-productions.com
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バーチャルレースは機材や参加環境が差に繋がりやすく、高地アンドラに住むアラフィリップは大苦戦。5月中旬まで屋外トレーニングができなかったようだが、チームのSNSには陽気な姿が度々投稿されており、ロックダウン期間中もファンを喜ばせていた。
ザ・デジタル・スイス5出場中、テレビのリモコンを落としてしまった!
慌てて自転車を降りて拾う姿が全世界に配信された。
On garde le moral!!! Bon dimanche à tous et joyeuses Pâques 🐇🍫#StayHome @deceuninck_qst pic.twitter.com/9DsBumLZsO
— Julian Alaphilippe Officiel (@alafpolak1) April 12, 2020
レースには出ずとも、いつでもどこでもアラフィリップはアラフィリップ。
イースターの時期はウサギの着ぐるみ姿でダンスを披露。
バーチャルレースの開催は続く。5月23日開催の勝ち抜きトーナメント方式バトル「チャレンジ・オブ・スターズ」ではファビオ・ヤコブセン(オランダ)がスプリント部門で優勝を飾った。チームにとっては嬉しいバーチャルレース初勝利である。
Congrats to @FabioJakobsen on winning the @stars_challenge 👏
— Deceuninck-QuickStep (@deceuninck_qst) May 23, 2020
Best sprinter of the competition after a flawless display and three consecutive victories 🏆 pic.twitter.com/h11eJzA4gp
チームにバーチャルレース初勝利をもたらしたオランダナショナルチャンピオンのヤコブセン。
スプリンターらしくインドアサイクリングでもVengeを愛用。
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バーチャルレースの盛り上がりに合わせて、ドゥクーニンク・クイックステップからインドアサイクリングと同時に楽しめるSpotifyプレイリストが公開されている。選手達がセレクトした曲に加えて、ボーナストラックとして今年後半に公開予定だという「The Wolfpack Anthem」の予告編が含まれている。
サイクリングと音楽は切り離せない関係だ。音楽はレースやインドアトレーニングに臨む選手達のモチベーションと集中力を高めてくれる。「ウルフパック」のプレイリストを是非チェックしてみよう。
Three exciting Wolfpack Playlists to listen to right now!
— Deceuninck-QuickStep (@deceuninck_qst) May 1, 2020
Get In The Zone - https://t.co/ZkCBWuiItP
Full Gas - https://t.co/z5eD3vhOon
Cooling Down - https://t.co/Bnb6neNZjV
Which is your favourite? pic.twitter.com/mtDEDRwxXo
公開されているプレイリストは「Get In The Zone」「Full Gas」「Cooling Down」の3つ。
「The Wolfpack Anthem」予告編はどのプレイリストにも入っている。
屋外トレーニングが可能な地域に住む選手達は、インドアサイクリングと並行して屋外トレーニングに励んでいる。ドゥクーニンク・クイックステップのお膝元であるベルギーはプロ選手の屋外トレーニングを認めており、エヴェネプールはレース休止期間中のモチベーション維持と医療慈善団体をサポートすることを目的に、300qライドなどのチャレンジシリーズを企画した。
その中の1つが「カペルミュール・チャレンジ」だ。ロンド・ファン・フラーンデレンなどのクラシックレースで登場する象徴的な石畳の急坂、ミュール・ヘラールツベルヘンを50回登るチャレンジを敢行。8時間以上かけて距離216.9km、獲得標高5,145mを走破している。
エヴェネプールのカペルミュール・チャレンジレポート動画。
ちなみにカペルミュールは「教会の坂」の意でミュール・ヘラールツベルヘンの通称。
エヴェネプールはデ・ロンド・ロックダウンエディション、ザ・デジタル・スイス5などのバーチャルレースに出場しつつ、これらのチャレンジを成し遂げている。インドアサイクリングと屋外トレーニングの両方に精力的に取り組んでおり、Zwiftもよく走っているようだ(筆者も何度かZwift上で遭遇したことがある)。
今年ブエルタ・ア・サンフアンとヴォルタ・アン・アルガルヴェと2つのステージレースを走り、その両方で総合優勝を飾っているエヴェネプールはプロ2年目ながらチームリーダーの一人だ。当初はリエージュ〜バストーニュ〜リエージュなどアルデンヌクラシックを走ってから自身初のグランツールとなるジロ・デ・イタリアに挑戦し、東京五輪の個人タイムトライアルへ臨む予定だった。
最大勾配20%の激坂ミュール・ヘラールツベルヘンを笑顔で登っていく。
機材はエアロモデルでありながら本格的な登坂もこなすVengeをチョイス。タイムトライアルが得意なエヴェネプールはVengeがお気に入りのようだ。Photo:©catharsis-productions.com
今シーズン出場した2つのステージレースの両方で総合優勝、更に個人タイムトライアルステージを制しているエヴェネプール。
ヴォルタ・アン・アルガルヴェ最終ステージでは2019ヨーロッパチャンピオン仕様のShiv TTで最速タイムを叩き出した。
なお2020年欧州選手権は延期が決定しており、2021年に今年の開催予定地であったトレント(イタリア)で開催予定 。© 2020 Getty Images
世界的なパンデミックの影響でレースカレンダーは大きな変更を余儀なくされた。5月5日にUCIから発表された新しいワールドツアーレースカレンダーは以下の通り。8月から11月初旬の約3ヶ月間にグランツールとモニュメント(ワンデーレースの中でも歴史があり、特に格式の高い世界5大クラシックレース)を筆頭に数多くのレースが詰め込まれており、もし予定通り全てのレースが開催されれば超過密スケジュールとなる。
日程 | レース名 | レース種別 | 開催国 |
8月1日 | ストラーデビアンケ | ワンデーレース | イタリア |
8月5日〜9日 | ツール・ド・ポローニュ | ステージレース | ポーランド |
8月8日 | ミラノ〜サンレモ | ワンデーレース(モニュメント) | イタリア |
8月12日〜16日 | クリテリウム・デュ・ドーフィネ | ステージレース | フランス |
8月25日 | ブルターニュクラシック・ウェストフランス | ワンデーレース | フランス |
8月29日〜9月20日 | ツール・ド・フランス | グランツール | フランス |
9月7日〜14日 | ティレーノ〜アドリアティコ | ステージレース | イタリア |
9月11日 | グランプリ・シクリスト・ド・ケベック | ワンデーレース | カナダ |
9月13日 | グランプリ・シクリスト・ド・モントリオール | ワンデーレース | カナダ |
9月20日〜27日 | ロード世界選手権 | - | スイス |
9月29日〜10月3日 | ビンクバンク・ツアー | ステージレース | - |
9月30日 | フレーシュ・ワロンヌ | ワンデーレース | ベルギー |
10月3日〜25日 | ジロ・デ・イタリア | グランツール | イタリア |
10月4日 | リエージュ〜バストーニュ〜リエージュ | ワンデーレース(モニュメント) | ベルギー |
10月10日 | アムステル・ゴールド・レース | ワンデーレース | オランダ |
10月11日 | ヘント〜ウェヴェルヘム | ワンデーレース | ベルギー |
10月15日〜20日 | グリー・ツアー・オブ・グワンシー | ステージレース | 中国 |
10月18日 | ロンド・ファン・フラーンデレン | ワンデーレース(モニュメント) | ベルギー |
10月20日〜11月8日 | ブエルタ・ア・エスパーニャ | グランツール | スペイン |
10月21日 | AGドリダーフス・ブルージュ〜デパンヌ | ワンデーレース | ベルギー |
10月25日 | パリ〜ルーベ | ワンデーレース(モニュメント) | フランス |
10月31日 | イル・ロンバルディア | ワンデーレース(モニュメント) | イタリア |
出典:https://www.uci.org/road/news/2020/the-uci-unveils-the-revised-2020-calendars-for-the-uci-worldtour-and-uci-women-s-worldtour
レース実施にあたっては開催地域における大規模スポーツイベントの実施許可が下りていることが前提となるが、現時点でこの条件を満たしている地域は少ない。ほとんどのレースが開催に向けて日程とコースを調整中というステータスだ。8月16日開催予定だったプルデンシャル・ライドロンドン・サリークラシックが新カレンダー発表後に中止になるなど 、変更の可能性は多分にある。
誰がどのレースに出場するかも現時点では白紙の状態だ。おそらくチームはいくつかのグループに分かれ、国や地域間の移動を最小限に抑えながらレースを戦っていくことになるだろう。
新カレンダーではビッグレースが重複しており、どのレースを狙っていくかチームと選手の頭を悩ませそうだ。ツール・ド・フランス最終日にはロード世界選手権個人タイムトライアルが開催される予定で、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュはジロ期間中の開催となる。極めつけは10月25日で、この日はジロ・デ・イタリア最終日とパリ〜ルーベ、そしてトゥールマレー峠頂上フィニッシュとなるブエルタ・ア・エスパーニャの難関山岳ステージが重なっている。
ロックダウン期間中も高いモチベーションを保っているエヴェネプールのレーススケジュールも未定だが、彼個人の希望としてはリエージュ〜バストーニュ〜リエージュとツール・ド・フランスは回避し、もともと出場予定だったジロ・デ・イタリアと世界選手権に挑戦したいそうだ。当初8月に開催予定だったが9月に延期となったベルギーナショナル選手権にも意欲を見せており、レース再開が待ちきれない様子。もちろん、2021年に延期となった東京五輪も狙っていくだろう。
I’m still dreaming about the Giro, I guess….
— Remco Evenepoel (@EvenepoelRemco) May 7, 2020
Signature ‘Painted Oak Rose (SIG 4754), Laminate flooringhttps://t.co/0UfQfGj1mb pic.twitter.com/PVv8Pj7K2F
ジロ出場を夢見ている、というエヴェネプール。チームスポンサーのクイックステップ社製品の床材の上でアピール。
ドゥクーニンク・クイックステップはエヴェネプール以外にもタレントが揃う常勝軍団で、あらゆるレースで活躍できるメンバーが揃っている。昨シーズンまで精神的支柱としてチームを牽引したフィリップ・ジルベール(ベルギー)、総合エースとしてグランツールとステージレースで活躍したエンリク・マス(スペイン)らがチームを去ったが、個人タイムトライアルを含めナショナルチャンピオンがワールドツアーチーム中最多の7名在籍するなど充実した戦力は健在だ。
平均年齢は26.6歳。ワールドツアー19チーム中3番目に若いチームである。2020シーズン新加入メンバーも若手が中心だが、スカウトと育成に定評があるチームなので問題はなさそうだ。
A day he will never forget!
— Deceuninck-QuickStep (@deceuninck_qst) September 17, 2019
Stagiaire Jannik Steimle wins Textielprijs Vichte from a reduced group, hours after signing a contract which will see him ride for Deceuninck - Quick-Step in the next two years: https://t.co/vHTHl3oJZ7
Photo: @GettySport pic.twitter.com/iKtaK31xGu
今季加入選手の1人、ヤニック・シュタイムレ(ドイツ)。スタジエール(トレーニー)として2019シーズンからドゥクーニンク・クイックステップで走っており、プロ契約直後のワンデーレースでいきなり勝利。
スプリントエースはエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア)からサム・ベネット(アイルランド)へ交代。相棒のシェーン・アーチボルド(ニュージーランド)とともにボーラ・ハンスグローエから移籍しており、引き続きスペシャライズドバイクで勝利量産を狙う。
エーススプリンターのベネット(写真中央)はアイルランドチャンピオン。リードアウトを務めるミケル・モルコフ(写真左)もデンマーク王者。
更に発射台のアーチボルド(写真右)も2020年ニュージーランド選手権で優勝しており、スプリントトレインはナショナルチャンピオン達がVengeを駆る豪華な布陣となる。© 2020 Getty Images
今年から名実ともにチームキャプテンとなるアラフィリップはどのレースを走るのだろうか。昨シーズン12勝、序盤から勝ちに勝ち、ツール・ド・フランスではリーダーの証であるマイヨ・ジョーヌ(黄色いジャージの意)を14日間着用、果敢なアタックで世界中を熱狂させたロードレース界の千両役者はどこに行っても熱い走りを見せてくれるに違いない。
世界屈指のパンチャーとしての才覚に加えて、オールラウンダーへの進化の片鱗を見せるアラフィリップ。
2020シーズンは5つのレースを走っているが未だ勝利なし。レース再開後の活躍を期待。© 2020 Getty Images
5月以降段階的にロックダウンが解除され、選手達は屋外でのトレーニングを再開しつつある。新型コロナウイルス感染症の脅威が去ったわけではないが、いくつかのチームがトレーニングキャンプの開催を発表するなど、確実にレース再開に向けて時計は進んでいる。予断を許さない状況が続くが、世界にロードレースが帰ってくる日を楽しみに待とう。
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【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。レース休止期間中のお楽しみはZwiftと選手やチームのSNSチェック。エヴェネプールの投稿は20歳の若者らしからぬ思慮深さと関係者やファンへの気遣いに満ちていて、いつも驚かされます。彼にはZwiftで何度かエンカウントしていますが、物凄いスピードで全くついて行くことができません!
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