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Wear the purple スペシャライズドサポートチームのジロ・デ・イタリア2021

2021/06/14

Wear the purple スペシャライズドサポートチームのジロ・デ・イタリア2021

サガンが紫色のジャージをコレクションに加え、若き狼エヴェネプールとアルメイダが躍進したジロを振り返ります。

ジロ・デ・イタリアが5月に帰ってきた。昨年はパンデミックの影響により秋に延期しての開催。21日間で争われるステージレース「グランツール」の初戦である。

「イタリア一周」の名の通り舞台はイタリア、厳しい山岳が多く登場することで知られる。2021年はトリノをスタートして南下、折り返してミラノにフィニッシュするルートが設定された。総走行距離は3,000kmを超え、総獲得標高は47,000mに迫る。世界一過酷なスポーツと言われるロードレースの中でも屈指の難易度を誇るレースだ。

今年は全23チーム184人がスタートラインに並び、143人の選手が完走した。スペシャライズドがサポートするボーラ・ハンスグローエとドゥクーニンク・クイックステップのジロを振り返っていこう。

ボーラ・ハンスグローエ―紫に染まるサガン

「僕はたくさんのグリーンジャージ(ツール・ド・フランスのポイント賞マイヨヴェール)を持っている。だけど、このジャージが足りなかったんだ。
ついにコレクションに加えることができた」

イタリア第2の都市、ミラノ。街の中心に位置する白い大聖堂「ドゥオーモ」と5月の青い空を背景に、21日間を戦い終えた英雄たちを祝う表彰式が始まった。紫色の紙吹雪がペテル・サガン(スロバキア/ボーラ・ハンスグローエ)を包む。
初出場の昨年は鮮やかな区間勝利を挙げた。今年もステージ1勝。そして、最強スプリンターに与えられるポイント賞とシクラメン色のジャージ「マリアチクラミーノ」を手に入れた。

昨年は途中着用しながらも手に入れられなかったマリアチクラミーノ。ついにサガンのコレクションに加わった。


サガンのマリアチクラミーノを祝うスペシャルなTarmac SL7。艶やかな紫のグラデーションが美しい。

祝福に駆け付けた最愛の息子マーロンくんと表彰台に上がったサガン。最強のスプリンターは優しい父親でもある。

昨年は第10ステージで逃げに乗って独走勝利を飾った。奇しくも同じ第10ステージを、今年はスプリントで勝った。

翌日に1度目の休息日を控える139qは今大会の最短ステージ。平坦基調で通過する登りは4級山岳1つだけというマイルドなコースの難易度を、ボーラ・ハンスグローエの選手たちが引き上げた。スプリンターとしては抜群の登坂力を持つサガンのために、山岳を利用してペースアップを敢行したのだ。当のサガンさえ苦しむ程のハイペースで、ライバルたちを振り落としにかかった。昨年のツール・ド・フランスでも披露したお家芸で、スプリンターたちを次々と脱落させていく。


登りでチーム全員が先頭に上がり、サガンがギリギリ耐えられるスピードで集団を牽引。
 

チームメイトたちの全力のアシストにサガンは応えた。生き残ったライバルたちとのスプリントバトルの舞台はカーブの続くテクニカルなレイアウト。巧みなコーナリングと踏み込みに応えて、Tarmac SL7が滑らかにしなりながら加速する。サガンは猛烈なスピードでフィニッシュラインまで突き進んだ。あまりの加速ぶりに、誰も彼の横に並ぶことはできなかった。

サガンが勝利した第10ステージのラスト1km。曲がりくねった狭い道をトップスピードで駆け抜けるサガンとTarmac SL7に注目。


サガンの勝利を祝う相棒ダニエル・オス(イタリア)。最後のスプリントまで主導権を握り続けたチームの勝利だ。

昨年は虹がかかるフィニッシュラインに独走で飛び込んだサガン。
今年は瓶を表彰台に叩き付けてからの豪快なスプマンテファイトで自ら虹をかけてみせた。

大会序盤を勝っていたライバルたちは皆山岳で遅れていたから、この日の勝利でサガンはポイント賞首位とマリアチクラミーノも獲得した。ここまでは昨年と同じ。だが今年はマリアチクラミーノを一度も脱ぐことなく、最終日まで守り切った。レース終了後、21日間大いに自分を助けてくれたチームメイトへの感謝のしるしとして、サガンはサイン入りのマリアチクラミーノを贈ったという。

サガンのポイント賞という成功を収めながら、ボーラ・ハンスグローエにとっては苦いジロでもあった。ミラノで祝福されるべき選手はもう1人いたのだ。総合上位入賞を目指してイタリアに乗り込んだエマニュエル・ブッフマン(ドイツ)は15日目に落車による戦線離脱を強いられた。
ブッフマンは安定した走りで総合上位をキープ。特に第11ステージの未舗装路では意外な強さを見せた。この日線の細いチームリーダーを助けたのはサガンだ。華やかな走りが目立つサガンだが、チームワークを大切にする仕事人でもある。


春のクラシックレース「ストラーデビアンケ」を想起させるグラベルはMTBライダーでもあるサガンの得意分野。
勝負所までブッフマンをエスコートした。太めのタイヤを履けばTarmac SL7は十分に未舗装路をこなす。

Tarmac SL7について
もっと詳しく

短い休息を経て、サガンは6月末のツール・ド・フランスに向かう。マリアチクラミーノは手に入れた。次の目標は、2つの偉大な記録である。

1つは、エリック・ツァベルが持つグランツール・ポイント賞9冠(サガンは8冠を達成)
もう1つは、ショーン・ケリーのグランツール・ポイントジャージ着用日数151日(サガンは現在148日)

今年は新型コロナウイルス感染症のためにシーズンインが遅れたサガン。ジロのためにワンデーレースではなくステージレースを多く走り、コンディションを整えてきた。ベテランらしい流石のチューニングである。次はツールだ。うまく行けば、偉大な記録に並び、超えることができるだろう。

ジロ期間中数々のパフォーマンスでファンを楽しませてくれたサガン。こちらのバイクストップもその1つ。
足元はビンディングシューズではなくスニーカー。驚異のバイクコントロールスキルである。

ドゥクーニンク・クイックステップ―神童の帰還と消えない炎

「スタート台の上で涙が溢れてきた。長い道のりだった。ついに初めてのグランツールに臨むことができる―なんて幸せなことなんだ 」

レムコ・エヴェネプール(ベルギー)がレースに戻ってきた。ジュニア時代からあらゆるレースを勝ち、U23を飛ばしてエリート入りを果たしたロードレース界の至宝である。


266日ぶりのレースを走るエヴェネプール。Shiv TTに乗って喜びの涙とともに道の上へ。© 2021 Getty Images

21歳の誕生日を迎える前にグランツールデビューを飾るはずだった。しかし順調に進んでいた彼の時計は昨年8月に針を止める。イル・ロンバルディアの長いダウンヒルの最中に崖下に転落、重傷を負ったのだ。真夏の悪夢だった。手術、そしてリハビリ。長い戦いが始まった。年が変わり春を迎える頃、ようやく本格的なトレーニングへの復帰が叶った。

そして決まった復帰戦が、昨年欠場したジロだった。21日間のグランツールは過酷を極める。いくら実力があるとはいえ、若い選手が、しかも故障明けに初のグランツールを走るとは―無謀過ぎる、という声と、いや彼ならあるいは、という声が混じり合う中でジロが開幕する。およそ9ヶ月ぶりに姿を見せたエヴェネプールはもう頬の丸い子どもではなかった。精悍な若者がそこにいた。


トリノで行われたチームプレゼンテーションにTarmac SL7と登場したエヴェネプール(写真中央)
高地トレーニングを終え、きっちり体を絞ってジロにやって来た。© Getty Image

 

第1週は完璧だった。初日の個人タイムトライアルで7位に入ると、大会最初の山頂フィニッシュが登場する第6ステージで総合2位に浮上。エガン・ベルナル(コロンビア/イネオス・グレナディアーズ)が区間勝利と「マリアローザ(総合首位の選手に与えられるバラ色のジャージ)」を射止めた9日目の未舗装激坂カンポ・フェリーチェでは後方からの登坂を強いられたものの、15秒遅れの2位を守る。

エヴェネプールは勝ちたがっていた。息をするように勝ち続けてきたのだ。勝利以外など、考えたこともなかっただろう。

チームの機関車レミ・カヴァニャ(フランス)に連結されたエヴェネプールが中間スプリントポイントでボーナスタイムを賭けて首位ベルナルに戦いを挑む。
最後はベルナルを含むイネオスの選手3人を相手取りスプリント。

スプリントバトルで総合首位ベルナルから1秒を奪ったエヴェネプール。ベルナル曰く「おいおい、スプリントは勝たせてあげたんだよ」
1回目の休息日は首位ベルナルから14秒遅れの総合2位で迎えることに。

しかし、グランツールは甘くなかった。第1週を力でねじ伏せた神童は第2週以降の世界を知らなかった。レース日数が11日を超えるのも初めてなら、休息日も初。今大会の目玉として用意された第11ステージの未舗装路には魔物が棲んでいた。トスカーナ州の丘陵地帯に巡らされた白い砂利道にエヴェネプールは苦しみ、ついに遅れを喫する。


初めてのバッドデーと未舗装路のダメージで、エヴェネプールはで大きくタイムを失うことに。© 2021 Getty Images

そしてジロは第2週目からが本番だった。次々に登場する難関山岳がエヴェネプールの脚から力を奪っていく。総合争いからは完全に脱落。大怪我からの復帰後レースから遠ざかっていた身体は本来の力を発揮することができず、ただただ苦しい時間が続く。

それでも、ようやく取り戻したレースをエヴェネプールは手放さなかった。どんなに遅れても、みっともなくても、最後まで走ってみせる。毎日待ち構えるメディアの意地悪な質問にも怯まない。
しかしジロは無常だった。第17ステージで避けようのない落車に巻き込まれ、エヴェネプールはついにレースを去ることになる。

20分以上のタイムを失った第16ステージの後もメディアの前に立ち、最後まで走ると表明したエヴェネプール。
多くの選手が大事故から復帰した彼の走りに対し驚きと称賛の声を寄せ、「このジロは今後のキャリアの糧になる」と励ました。


第17ステージで落車に巻き込まれ全身を負傷したエヴェネプール。フィニッシュまでたどり着いたものの、翌日ジロを去った。© 2021 Getty Images

エヴェネプールと対照的に中盤以降輝きを取り戻したのがジョアン・アルメイダ(ポルトガル)だ。
昨年のジロは、アルメイダのジロだった。U23の選手としては史上最長となる15日間マリアローザを着用、最終的なリザルトは総合4位。今年は序盤に大きくタイムを失い総合争いから早々に退場したものの、第3週の山岳では上位勢を置き去りにする力走を見せ、最終的には総合6位に入賞。昨年の成績がまぐれでなかったことを証明した。

ドゥクーニンク・クイックステップはエヴェネプールとアルメイダのダブルエースでこのジロを戦った。エヴェネプールを早く切り捨てていれば、最初からアルメイダをシングルエースにしていれば、という声もある。だがチームはその時点で最善と考えられる選択肢を重ねてレースを作っている。結果だけを見て戦略を評価することは困難だ。
なお、エヴェネプールに与えられていたエースナンバーはチームの意向ではなく、レース主催者の意向であったことが後に明かされている。

【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。今年のジロはウルフパックの諦めない走りと、表彰台に登場したサガンJr.マーロンくん(顔出しは今回が初)の可愛さが印象的でした。

池田 綾さんの記事はこちらから>

 

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