ツール・ド・フランス、それは世界で一番美しく過酷なレース。自転車好きなら見逃せない夏の祭典の見どころをチェックしていきましょう。
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「フランス一周」の名を冠した世界最大のロードレース。海と山、そして街を繋ぐ壮大な旅。ツール・ド・フランスが始まる。男子は7月1日(土)から7月23日(日)まで、全21ステージ。女子は男子の最終日7月23日(日)から7月30日(日)までの全8ステージ。今年もスペシャライズドがサポートするチームが多数出場する。注目選手と、彼らの走りを後押しする機材を順番に確認していこう。
まずは男子のコースだ。今年のグランデパール(開幕地)はスペイン、バスク自治州の中心都市ビルバオ。
バスクらしい起伏の激しい道が選手たちを手荒く歓迎する。3日目にフランスに入国したら一路ピレネー山脈へ。大会5日目から超級山岳が登場し、続く第6ステージは山頂フィニッシュ。そう、今年のツールは序盤からとびきりハードなのだ。
ツール・ド・フランス2023コース。スペイン・ビルバオから山岳地帯をたどりながらフランス・パリを目指す。
特に第1ステージは「史上最難関の初日」と言われ、アップダウンの連続で獲得標高差は3,300mに達する。最後の登りピケ峠はとりわけ厳しく、ラスト1kmの平均勾配が13%とフレーシュ・ワロンヌ名物「ユイの壁」に匹敵する厳しさだ。
この日の勝利とマイヨジョーヌ(黄色いジャージの意で、大会通じて総合タイム首位の選手に与えられる特別賞ジャージ)を狙うのが、ユイの壁を3度制している激坂巧者のジュリアン・アラフィリップ(フランス/スーダル・クイックステップ)。2019年はステージ2勝と14日間のマイヨジョーヌ着用でアラフィリップ旋風を巻き起こし、2020年、2021年もマイヨジョーヌに袖を通した。ファンに愛される「ルル(「狼ちゃん」の意でアラフィリップのチームでの愛称)」が2年ぶりにツールに戻ってくる。
世界チャンピオンタイトルを2度獲得しているアラフィリップ。
ジャージの襟と袖に世界王者のシンボルであるアルカンシェル(虹)の意匠が施されている。 © 2023 Getty Images
アラフィリップは今も2022年リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでの落車負傷からの復帰の途上にある。今季は2勝に留まっているが、前哨戦クリテリウム・ドゥ・ドーフィネでは並み居る強豪を得意のスプリントで破って印象的な勝利を挙げた。本来の力を発揮できれば、再びツールの主役になれるだろう。
難関ステージ続きの第1週を締めくくるのは35年ぶりの登場となるピュイ・ド・ドーム(距離13.3km/平均勾配7.7%)。プリドールとアンクティルの激闘をはじめ、数々の伝説を見守ってきた世界遺産の溶岩ドームがツールに新たな歴史を刻む。
今年のツールにはこうしたシンボリックな山岳が多く登場する。第13ステージにそびえる超級グラン・コロンビエ峠(距離17.4km/平均勾配7.1%)もそのひとつ。 2週目の山場はグラン・コロンビエ山頂にフィニッシュする第13ステージからの山岳3連戦。ジュラ山脈を舞台に総合優勝を目指す各チームのエースたちが火花を散らす。
山ではジャイ・ヒンドレー(オーストラリア/ボーラ・ハンスグローエ)の走りに注目したい。2022年ジロ・デ・イタリアでは重要山岳で素晴らしい走りを披露し、チーム史上初のグランツール総合優勝を引き寄せた。登りを得意とするクライマーで、派手さはないが、勝機を逃さない鋭さを持つ。ツールは初挑戦だが、山岳偏重の今年のコースはヒンドレーにとってまたとない好機だ。
押しの強い選手ではないが、勝負所には必ず顔を出す。冷静さと負けない脚を備えるヒンドレー。
過酷な地形に挑むスペシャライズドライダーを支えるのはS-Works Turboタイヤ。スペシャライズドが初めて製作した自社製品であり、以来こだわりと技術、情熱を注いで開発を続けてきたプロダクトだ。何故タイヤなのか?わずか2cm四方の道路との接地面が担う役割がいかに大きいかを知っているからである。軽く、乗り心地とグリップ性能に優れたタイヤが、21日間あらゆる路面、そして天候と戦う選手たちの足元を守り、力を引き出す。
2022年ツール初日の個人タイムトライアルを勝ったイヴ・ランパールト(ベルギー/スーダル・クイックステップ)。
タイヤを信じて雨に濡れたコーナーをクリアし、最速タイムを叩き出した。©CAuld Photo
第3週は今大会唯一の個人タイムトライアルで幕開け。起伏のある道を経て、最後は2級ドマンシー峠を駆け上がる山岳タイムトライアルだ。タイムトライアルバイクで走破するか、それともロードバイクを活用するか、悩ましいコースである。ちなみに今大会の個人タイムトライアルの総走行距離は史上最短(22.4km)であり、タイムトライアルでライバルからタイムを奪うのが難しいヒンドレーのようなクライマーにとっては好都合だ。
今年のクイーン(最難関)ステージは超級ロズ峠(距離28.1km/平均勾配6.0%)が待ち構える第17ステージ。2020年ツールで初めて登場したロズ峠は標高2,304m、最大勾配24%の怪物である。今年のフィニッシュは山頂を超えた先にある山岳飛行場クールシュヴェルで、そこに向かう道の最大勾配は18%。クライマックスにふさわしい大舞台となる。
🔎 Etape 17 / Stage 17 #TDF2023
— Tour de France™ (@LeTour) October 27, 2022
⛰ Col de la Loze
📈 28,4 km, 6%
The monster is back!
Le monstre est de retour ! pic.twitter.com/pqUyRenOXm
標高2,000mオーバーの山頂付近に激坂を備えるロズ峠。2020年は総合上位を争う選手たちの決戦場となった。
山での戦いを終えた選手たちはパリへ凱旋する。21日間の壮大な旅を締めくくるのは華麗なスプリントバトル。シャンゼリゼでの勝利と大会通じてスプリントポイントを最も多く獲得した選手に与えられるマイヨヴェール(緑色のジャージの意)はスプリンターの憧れだ。
このマイヨヴェールを史上最多の7回獲得しているのがペテル・サガン(スロバキア/トタルエネルジー)。今年1月に2023年がワールドツアーのロードレースを走る最終年だと発表したサガンにとって、これが最後のツールとなる。8回目のマイヨヴェールも決して不可能ではない、と語るサガンの走りを目に焼き付けよう。
キャリア12回目のツールがサガンのラストツールになる。
サガンが狙うのはスプリントか、はたまた逃げ切りか。いずれにしてもRapide Cockpitが力になる。
空力が決め手になる場面でこれ以上頼りになるコックピットはない。RovalのエンジニアリングチームがRetülのプロフィッターの知見を得て開発したRapide Cockpitは、軽量でありながらワールドツアーレースで活躍する世界トップクラスのスプリンターが望む剛性も備えている。
時にハンドル投げで勝負が決まるスプリント。空力がもたらす恩恵は大きい。© 2023 Getty Images
Rapide CockpitはRapide HandlebarsとTarmac SL7 Stemの組み合わせから4ワットの空気抵抗を削減することに成功した。この4ワットを距離250mのゴールスプリントで換算すると、シミュレーション上32cmの差に相当する。勝敗を分けるのに十分な差だ。この差を味方につけて、ファビオ・ヤコブセン(オランダ/スーダル・クイックステップ、写真左の水色のヘルメットの選手)は今季既にスプリントバトルで勝ち星を挙げている。昨年に続くツール区間勝利を期待したい。
なお、サガンは競技から引退するわけではない。来年以降はオフロードに軸足を移し、マウンテンバイクでパリ五輪を目指す予定だという。サガンとスペシャライズドの冒険はまだまだ続く。
昨年から始まった女子のためのツール・ド・フランスが、第2回にして大きな進化を遂げる。まず参加人数が6名から7名に増える(男子は8名)。そして初めて個人タイムトライアルが設定される。しかも、最終日に。
ツール・ファム2023コース。クレルモン=フェランをスタートし、ポーでの個人タイムトライアルで幕を閉じる。
昨年総合2位のデミ・フォレリング(オランダ/チーム SDワークス)は、2023年ツール・ファムに個人タイムトライアルが組み込まれるという発表を受け、個人タイムトライアル能力の改善を決意。スペシャライズドの自社風洞実験施設WinTunnelで綿密な解析を行い、ポジションを練り上げ、トレーニングに励んできた。既に取り組みの成果も出ている。ツール・ド・スイスstage2、オランダナショナル選手権ともに2位入賞。つまり彼女は、今年本気でツールを勝ちに行く。
SDワークスの選手たちはオフシーズンにスペシャライズド本社(アメリカ・モーガンヒル)を訪問。
自社風洞実験施設WinTunnelは本社敷地内にある。
今季13勝。登れて、スプリントも強い。シングルリザルトを連発しており、今まさに女子プロトン最強の座に君臨する選手である。今年初めてナショナル選手権を制したフォレリングは、オランダチャンピオンジャージでツール・ファムに臨む。
とにかく勝ちまくっているSDワークス。右から2番目のフォレリングは最強チームのエースだ。
パンチャーでありクライマーでもあるフォレリングの爆発力をサポートするのはS-Works Torch。人間工学に基づくBody Geometryとデータサイエンスを融合させて完成した、履き心地とパワー伝達を両立する一足である。力をバイクに伝える確実なホールド感がありながら、圧迫感や窮屈さとは無縁。脚に馴染む軽やかさは、トップレベルの選手だけでなくホビーライダーにとっても魅力だ。
今季フォレリングとともに勝利してきたS-Works Torch。
最終日の前日には男子ツール6日目に登場する1級アスパン峠(距離12km/平均勾配6.5%)と超級トゥルマレ峠(距離17.1km/平均勾配7.3%)のコンビネーションが登場する。フィニッシュはトゥルマレの山頂だ。数々の名勝負を見守ってきた名峰が女子プロトンの物語に新たな1ページを書き記す。
UCIウィメンズワールドチームへの昇格を目指すAGインシュアランス・スーダル・クイックステップも昨年に続きツール・ファムに出場予定。SDワークスから今季加入したクライマー、アシュリー・モールマン(南アフリカ)がエースを務める。
モールマンがツールに向けた準備の様子を動画で投稿。Rapide Cockpit 、S-Works Torchも登場している。
※出場選手の情報は2023年6月27日時点のものです。
【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。好きなヘルメットは軽くて涼しいS-Works Prevail。
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