ツールが終わり、世界選手権が終わり、ロードレースシーズンはもう終幕?いえいえ、とびきり熱いブエルタが始まります。コースと注目選手の確認はお済みですか?
TOP画像:©Erick Marcheschi
グランツール最終戦、ブエルタ・ア・エスパーニャ。ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランスと同じく、全21ステージを最も短いタイムで走破した選手が総合優勝となる。レースをリードする総合首位のライダーが着用するジャージの色は赤。マイヨ・ロホ(赤いジャージの意)をめぐる戦いが8月26日(土)から9月17日(日)まで、2日間の休息日を挟んでスペインを舞台に繰り広げられる。
ブエルタ・ア・エスパーニャ2023コース。
コースはバルセロナをスタートし、フランスとアンドラに立ち入りながらマドリードにフィニッシュする3,153.8km。ステージ構成は平坦ステージが6(うち2つは登りフィニッシュ)、丘陵ステージが6、山岳ステージが7、チームタイムトライアルと個人タイムトライアルステージが1つずつ。
山岳偏重なコース設定で知られるブエルタらしく、今年も凶悪な急登が多く登場する。2023年の目玉は7月のツールとツール・ファムで登場したばかりの超級山岳トゥールマレー。そしてロードレース界にその名を轟かせる「魔の山」アングリルだ。
レースはバルセロナのオリンピック港をスタートする14.6kmのチームタイムトライアルから始まる。第2ステージはボルタ・ア・カタルーニャ最終日名物モンジュイックの丘へ。多くのプロサイクリストが住居を構えるアンドラに入国する第3ステージが今大会最初の山岳ステージで、2つの1級山岳が早くも総合争いを演出する。
ブエルタ・ア・エスパーニャ第3ステージ(https://www.lavuelta.es/en/stage-3)
第4、第5ステージはよく似た丘陵ステージで、ずばり逃げ向き。第6ステージはハバランブレ天文台にフィニッシュする山岳ステージで、総合優勝を目指す選手にとっては2度目の脚試しとなる。第7ステージは今大会最初の平坦ステージ(!)で、ようやくピュアスプリンターの出番だ。最大勾配22%の激坂ショレト・デ・カティを経ての下りフィニッシュで勝敗を争う第8ステージを経て、比較的穏やかな丘陵を走る第9ステージを終えたら、ここまでスペインを南下してきたプロトンは北へ移動し、1回目の休息日を迎える。
第2週は総合争いが加速していく。第10ステージは個人タイムトライアル。25.8kmの平坦基調コースはタイムトライアルスペシャリストに有利で、思わぬ総合タイム差をもたらす可能性もある。第11ステージは最後に1級ラ・ラグナ・ネグラ(距離6.5km、平均勾配6.8%)が登場するブエルタ特有の「登りフィニッシュの平坦ステージ」だ。第12ステージは一見スプリンター向きの平坦ステージだが、横風分断の可能性があり油断は禁物。
舞台はいよいよピレネー山脈へ。第13ステージは今大会の最難関ステージだ。超級オービスク、1級スパンデール、そして最後に待ち受ける超級トゥールマレー。残酷な山々が強者と弱者を容赦なく選別する日になるだろう。翌第14ステージも超級山岳を2つ越えてから1級山岳にフィニッシュする山岳ステージで過酷そのもの。逃げ切りに適した丘陵レイアウトの第15ステージを終えたら、2回目の休息日だ。
ブエルタ・ア・エスパーニャ第13ステージ(https://www.lavuelta.es/en/stage-13)
運命の第3週。第16ステージは終盤10%超の勾配が続く2級山岳ベヘスにフィニッシュする平坦ステージ。第17ステージは世界屈指の難関山岳アングリルが登場する今大会のクライマックス。距離12.4km、平均勾配9.8%という数字に騙されてはいけない、これは前半の比較的勾配が緩やかな区間と終盤の下りを含んだものなのだ。最後の最後に現れる下りまでの後半6kmは20%前後の勾配が続く正真正銘の激坂で、総合争いを大きく揺さぶること間違いなし。第18ステージも獲得標高4,600m超の山岳ステージで、選手たちは1級山岳ラ・クルス・デ・リナレスを2度駆け上がることになる。
ブエルタ・ア・エスパーニャ第17ステージ(https://www.lavuelta.es/en/stage-17)
第19ステージはここまで過酷な山岳を越えてきたスプリンターたちへのささやかな贈り物となるカテゴリー山岳なしの平坦ステージ。総合争い最終日となる第20ステージは昨年も登場したワンデークラシック風味のトリッキーなレイアウトで、大会最長の208kmに3級山岳が計10回登場。1つ1つの登りは長くはなく勾配も緩やかだが、総獲得標高は4,000mに達する。主催者が狙うような大波乱が起こるかに注目したい。
最終日の第21ステージはマドリードを走る平坦ステージ。壮麗な集団スプリントで、今年最後のグランツールが終幕する。
ブエルタ・ア・エスパーニャはJ SPORTSで全ステージ独占生中継されます。配信スケジュールなどの詳細はこちら。
ブエルタ公式ティーザー動画。過酷な山岳を舞台に、今年も数多くのドラマが生まれそうだ。
シーズン終盤開催の宿命か、スタートリストがさみしくなりがちなブエルタだが、今年は違う。
ジロ覇者プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)とツール王者ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)のユンボ・ヴィズマコンビ、そしてスペシャライズドライダーにして昨年のブエルタで総合優勝を飾ったレムコ・エヴェネプール(ベルギー/スーダル・クイックステップ)と、直近1年のグランツール優勝者が全員スタートラインに並ぶのだ。
おそらく最大のライバルになるであろうログリッチ(写真左) ジロを含む今季出場ステージレース全勝を誇る。
イネオス・グレナディアーズはともにツール総合優勝経験を持つゲラント・トーマス(イギリス)とエガン・ベルナル(コロンビア)を送り込むし(ちなみにこの2人が一緒にグランツールを走るのはワンツーフィニッシュを果たした2019年ツール以来のこと)、UAEチームエミレーツはジョアン・アルメイダ(ポルトガル)とフアン・アユソ(スペイン)というグランツール表彰台経験を持つ若手2人をエースに据える予定。他にもエンリク・マス(スペイン/モビスター)など、ビッグネームが揃う豪華な大会になりそうだ。
スタートリストが素晴らしいほど、前年覇者エヴェネプールにとっては厳しいタイトル防衛戦になる。しかし、これは予定外の戦いであることに触れておきたい。
彼のレースカレンダーには毎年異なるグランツールが書き込まれていた。2022年はブエルタ、2023年はジロ、そして2024年はツール。特に母国ベルギーの建国記念日である7月21日に個人タイムトライアルで終幕する2024年ツールは最重要ターゲットで、勝利に向けて年単位で準備を進めてきた。しかし今年のジロを新型コロナウイルス感染症検査陽性で途中棄権することになり、エヴェネプールの完璧かつ壮大なプランは中断されてしまう。
今年のジロ第9ステージの個人タイムトライアル勝利後、新型コロナ検査陽性に。
リーダージャージを着用したままの棄権となった。
ジロ棄権直後に沸き上がったツール、そしてブエルタ出場を待望する声はチームのゼネラルマネジャーであるパトリック・ルフェーブル氏によって一旦は否定された。5月にジロを棄権した後7月に開催されるツールに出るには準備期間が短すぎるし、昨年総合優勝しているブエルタは総合優勝以外の結果は認められないだろうから厳しい、というのがその理由だ。
しかし、後にエヴェネプールは今年のブエルタ出場を決めた。ということは、総合優勝を目指すということだ。現プロトン最強のオールラウンダーであるタデイ・ポガチャル(スロベニア/ UAEチームエミレーツ)こそ不在だが、グランツール表彰台常連選手が揃う今年のブエルタで勝つことができれば、来年のツールに向けて大きな弾みとなるだろう。
8月11日にグラスゴー世界選手権で個人タイムトライアル世界王者タイトルを手に入れたエヴェネプールは、ベルギーでの短い休息を挟み14日には高地トレーニングのためアンドラ入り。26日の開幕に向けて、最終調整を続けている。
個人タイムトライアル世界王者エヴェネプールの虹色ジャージお披露目はブエルタ第10ステージだ。 © cyclingimages
さて、エヴェネプールが総合優勝を果たした昨年のブエルタで3位表彰台に立ったのは、19歳のフアン・アユソだった。初出場のグランツールでの快挙である。最近の自転車界は若手の台頭が目覚ましく、U23の選手が世界最高峰のレースで活躍するのは珍しいことではない。かつてのエヴェネプールもその一人で、彼のようにU23をスキップしてワールドツアーチームへの加入を決める選手も増えてきた。
そんな才能豊かな若手がまた一人、このブエルタでグランツールデビューを迎える。彼の名前はキアン・アイデブルックス。20歳、ポスト・エヴェネプールと名高いベルギー期待の星だ。
朗らかな性格も魅力的なアイデブルックス。185cmと長身で、登坂もタイムトライアルも得意。
エヴェネプールがブエルタをリードしていた昨年、彼はU23版ツール・ド・フランスと言われるツール・ド・ラヴニールで総合優勝を決めた。過去の総合優勝者にはベルナルやポガチャルなどトップグランツールレーサーの名前が並ぶ。この大会での活躍は、将来のプロサイクリストとしての成功とほぼ同義である。
彼の所属するボーラ・ハンスグローエは若い選手をむやみにビッグレースに送り込むようなことはせず、じっくりと時間をかけて育てていく方針だ。だからアイデブルックスのビッグレース参戦も今年から。ブエルタは今シーズン最大のターゲットで、将来のグランツール制覇に向けての挑戦となる。エヴェネプールと同じくジロを途中棄権しブエルタ出場を決めたアレクサンドル・ウラソフ、そしてセルヒオ・イギータ(コロンビア)ら経験豊富な先輩ライダーがしっかりとアイデブルックスをリードしてくれるだろう。
エヴェネプールが優勝したクラシカ・サンセバスティアンで3位に入ったウラソフ。
前哨戦ブエルタ・ア・ブルゴスをログリッチに次ぐ総合2位で終え、調子は上々。
また、今年のジロで総合TOP10入りを果たし総合系ライダーとして成長中のレナード・ケムナ(ドイツ)もブエルタに出場予定。いくつかある逃げ向けステージでの勝利が期待される。もし実現すれば、栄誉ある全グランツールステージ勝利選手クラブの仲間入りだ。
逃げのスペシャリストであるケムナ。山岳でのアシストに加えて逃げ切り勝利に期待。
スペシャライズドはブエルタに出場するスーダル・クイックステップとボーラ・ハンスグローエの選手たちを機材面でサポートする。
エヴェネプール、アイデブルックスらスペシャライズドライダーのバイクはグラスゴー世界選手権でデビュー、早速勝利を飾り、全世界で販売を開始したばかりのTarmac SL8。「すべてを征す一台」というキャッチコピー通りの、空力性能・軽量性・ライドクオリティーを超高次元で再現した究極のレーシングバイクだ。難関山岳から集団スプリントまで、あらゆる場面に対応する。スペシャライズドライダーはこのTarmac SL8に乗ってロードステージを戦う。
スペシャライズドはプロアスリートからのフィードバックをもとに製品開発を行っている。
エヴェネプールはTarmac SL8をプロトタイプから乗り込み、フィードバックに協力してきたライダーの一人だ。
ペダルにパワーを伝えるシューズはバイクと並ぶ重要な機材。S-Works Torchはスペシャライズドが人間工学の知見と20年にわたって収集してきたデータに基づき開発した至高のシューズ。今ならお得なキャンペーンも実施中だ。いつものバイク、いつものライドで、シューズとバイクの一体感とノーストレスの履き心地をお試しあれ。
スペシャライズドライダーたちがこぞって愛用するS-Works Torch。全国のスペシャライズドストアで是非お試しを。 © cyclingimages
※コース、出場選手等の情報は2023年8月20日時点のものです。
【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
ロードレース観戦と自転車旅を愛するサイクリングライター。ブエルタはチームタイムトライアルがあるところが好きです。
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