砂の街で有名なベルギー・コクサイデ。神聖なシクロクロスのコースをご紹介します。
砂嫌いで有名なアナキン・スカイウォーカー(映画スターウォーズ・エピソード2より)
コクサイデは砂の街。肌触りは優しいのですが、これがなかなか厄介なのです。コメディーショーで飛び交うヤジのごとくガサツで、笑ってしまうほどひどいのです。前輪を掴んではあなたを地面に叩きつけようとすることで、あるいは少なくともバイクを降りて肩に担がせ、恥をかかせることで、あなたの技量を何度も試します。この小さな海沿いの街には、いくつもの砂丘があります。とろみのあるスープの表面で泡が立つように、この砂丘は起伏のある地形に沿い、海岸線から1kmほど離れた滅多に使われることのない空軍基地まで広がっています。
コクサイデは、砂場で行われるシクロクロスレース。若きダース・ベーダーであれば、大嫌いだったはずです。(※若きアナキンは生まれ育った砂漠の砂をざらざらして嫌いと評している。)
風に引き止められるようにして、ベルギー人アナウンサーのしゃがれ声が砂丘に広がります。その言葉は、あちこちを彷徨い、国旗や厚手のコートをはためかせ、ついには熱烈な観衆の耳に届きます。ニット帽を被り、頬を赤らめたファンがコースバリアの近くに集まり、待ちわびています。縁がボロボロになった黄色のフェンスは、タイヤに飢えた深い砂場セクションの横で揺れています。さあ、ラクダ色の砂の中を疾走する人間バギーの集団がやってきました。彼らは、適当に走っているように見え、実は勢いを落とさないようコントロールしながら進んでいます。砂が、雑に洗われる食器から飛び散る洗剤の泡のように跳ね上がり、ホイールの横へ掻き分けられます。ライダーが、砂にタイヤを取られながらピットに入ってきました。
今日の空は、これぞベルギーといったところ。あらゆる灰色の中に、太陽がひょっこりと顔を覗かせています。しかし、このような日に思い浮かびがちな陰鬱さはありません。愛がすべてに打ち勝つと言われますが、ベルギーでは、愛ではなくシクロクロスなのです。まるで足の裏からトゲを抜き出すかのように、健康な体から溢れんばかりの元気と喜びを引き出します。ライダーがペダルを強く踏み込む中で、彼らの超人的な力に、声援や妙に礼儀正しい拍手が送られます。ここでは、選手たちはとても尊敬され、愛され、崇められています。それがベルギー人となれば、なおさらです。
もちろん、砂が全てではありません。緑に茂った芝生の中を突き進むストレートや、ゴール近くの舗装区間もありますが、コクサイデで有名なのは砂。これが、この地のシクロクロスフィールドを神聖なものにするのです。中には、何列にも重なった熱烈なファンが両側で見守る長いストレートもあります。ここは観客にとって抜群の観戦スポットですが、選手たちにとっては激戦が繰り広げられる場です。コースが砂丘の中を登っては下る中、彼らはハンドルバーをしっかりと握り、体に鞭を打ち続けます。コースバリアぎりぎりを通る選手もいれば、コース幅を目一杯に使ってラインを変え、轍をさらに掘り進める選手もいます。
過酷な周回を重ねるたび、肺は凍てつくベルギーの空気を大きく吸い込みます。脚は燃えるように痛み、エネルギーはみるみるうちに減っていきます。このコースの大半で、そこら中に仕掛けられた罠を乗り切る脚の強さが最も求められる一方、バイクを担いで駆け上がるセクション--砂丘脇にある観客お気に入りのスポット--では、また違った戦略が必要です。短い歩幅でスタッカートのようなリズムを刻み、砂丘を駆け上がる彼らのシューズの先には、まるでスパイクが付いているかのよう。左、右、左、右と繰り出される足。バイクを肩に担いで砂丘の頂上までカニのように走ると、バイクに再び跨り、勢いよく走り出します。先に行われた女子レース同様、ある選手がぶっちぎりで優勝。彼は終始、独走していました。
レース後のインタビューで、彼は砂のレースを楽しんだとコメント。彼がアナキン・スカイウォーカーでないのは確かであり、どちらかと言えばタスケン・レイダーに近いでしょう。サンドピープルは、砂の攻略法を熟知していますが、将来のダースを自分の中で育てる必要があります。砂を征するために、フォースを使うからです。心臓から脚に直接流れるフォースを感じるには、激しく、燃え尽きるまで、脚を回し続けなければなりません。彼らはこの本能に頼り切っています。疑いなど頭の隅に追いやり、正しいラインを選び、スピードを一定に保ち、ゴールへとバイクを運ばせるのです。
彼らは、砂を愛しているようです。
(※タスケン・レイダー、またの名をサンド・ピープルという。砂漠の惑星タトゥイーンに住んでおり、砂漠での戦いに長けている。)
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