2019年グランツール初戦、ジロ・デ・イタリアが閉幕。ボーラ・ハンスグローエが走った総走行距離3,546.6kmの激闘を振り返ります。
■102回目の「イタリア一周レース」
ロードレースにおける最高峰、グランツール。全21ステージ、総走行距離は3,000qを超え、平坦・山岳・タイムトライアルと自転車競技におけるあらゆる要素が詰め込まれた世界最大級のステージレースージロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、そしてブエルタ・ア・エスパーニャ。
ジロ・デ・イタリアは毎年5月、「イタリア一周」の名の通りイタリアを舞台として開催される。近年はイタリアを飛び出し遠隔地を走ることも多いが、2019年はほぼイタリア国内で完結するコース設定となった。
開幕前夜のボローニャでのチームプレゼンテーションには選手と監督陣が登壇した。©Cyclingimage
ボーラ・ハンスグローエはこのレースに大きな目標を持って臨んだ。すなわち、スプリントでの勝利と総合上位入賞。リエージュ〜バストーニュ〜リエージュでも指揮を執ったイェンス・ゼムケ助監督と選手達のビッグチャレンジを、スペシャライズドバイクとともに振り返っていこう。
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに挑むボーラ・ハンスグローエ(2)レース直前 イェンス・ゼムケ監督インタビュー>
■シクラメン色のジャージを巡るスプリントバトル
キング・オブ・スプリントの証、ポイント賞特別ジャージのマリアチクラミーノ(シクラメン色のジャージの意)。このジャージを最終日に着用する栄誉を目指し、名うてのスプリンター達がジロのスタートラインに並ぶ。
ボーラ・ハンスグローエのエーススプリンターはパスカル・アッカーマン(ドイツ)。グランツール初挑戦の25才のジャーマンスプリンターがスプリント初戦の第2ステージで早くも勝利を掴んだ。
第2ステージで勝利したアッカーマン。初グランツールの初スプリントステージで見事な勝利を飾った。©Bettiniphoto
ペテル・サガン(スロバキア)、サム・ベネット(アイルランド)という強力なスプリンターを抱えるチームの「第3の男」は第2ステージで早くもマリアチクラミーノをまとった。
翌第3ステージではエリア・ヴィヴィアーニ(イタリア/ドゥクーニンク・クイックステップ)、フェルナンド・ガビリア(コロンビア/UAEチーム・エミレーツ)、アルノー・デマール(フランス/グルパマFDJ)らライバルの後塵を拝したが、雨の第5ステージでは危なげなく2勝目を上げ、1勝目がまぐれではないことを示した。
大雨の第5ステージで勝利。早くもグランツール2勝目を勝ち取った。©Cyclingimage
第8ステージはカレブ・ユアン(オーストラリア/ロット・スーダル)に勝ちを譲るも、第2ステージ以降マリアチクラミーノはアッカーマンが独占していた。しかし第10ステージ、集団スプリントに向けて加速する直線路でまさかの落車。2週目から始まる本格的な山岳ステージを前に全身に酷い擦過傷を負ってしまった。怪我のせいか、翌第11ステージは3位に沈み、マリアチクラミーノもデマールに奪われてしまう。
第10ステージのフィニッシュ直前で落車してしまったアッカーマン。チームメイトに付き添われ、傷だらけでフィニッシュラインを越える。©Bettiniphoto
今年のジロは後半戦に丘陵・山岳ステージが集中しており、スプリンター達は次のスプリントステージである第18ステージまで我慢の走りとなる。主要なライバルが次々とレースを去る中、ポイント賞はアッカーマンとデマールの一騎打ちの様相を呈していた。過酷な山岳ステージをタイムアウトせずに完走することを目的に形成される「グルペット」に身を潜め、怪我の回復を待ちながらアッカーマンはひたすらに待った。そして辿り着いた最後のスプリントステージ、逃げ切りを許しステージ勝利はならなかったが、マリアチクラミーノを奪い返すことに成功した。
第19ステージ、グルペットで走るアッカーマン。第18ステージで奪取したマリアチクラミーノと、マリアチクラミーノ仕様のVengeに乗っている。グルペットでの登りは無理のないスピードで、その分下りと平坦はメイン集団を上回るスピードで飛ばし、タイムアウトにならないよう走る。©Cyclingimage
初のグランツールでのポイント賞に王手をかけたアッカーマンに、第19ステージでマリアチクラミーノ仕様のVengeが用意された。個人タイムトライアルとなる最終第21ステージはShiv TTで出走したためお披露目は第19・第20ステージのみと短かったが、アッカーマンにとっては嬉しいプレゼントになったに違いない。
アッカーマンに贈られたマリアチクラミーノ仕様のVenge。スペシャルなデザインに注目。
■スーパードメスティークのプロ初勝利
今年のジロにおけるボーラ・ハンスグローエのステージ勝利は全部で3勝。うち2勝はアッカーマンのスプリント勝利によるものだが、残り1勝はおそらく誰も、本人さえも予測していなかった勝利だった。
勝ったのはチェーザレ・ベネデッティ(イタリア)。チームのために尽くす、ベテランアシスト選手だ。
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに挑むボーラ・ハンスグローエ(1)チェーザレ・ベネデッティ選手インタビュー>
嬉しいプロ初勝利を手に入れたベネデッティ。普段は集団先頭で仕事をすることが多いが、この日は自分のために走った。©Bettiniphoto
ベネデッティはボーラ・ハンスグローエの前身であるチーム・ネットアップ時代からの生え抜きと言える選手である。レースでは自分自身の勝利ではなく、チームの勝利のために走る。実際、このジロでは集団の先頭を牽引するベネデッティの姿を何度見たかわからない。アッカーマン、そして総合エースであるマイカのために献身的な走りを見せていた彼が、第12ステージでは逃げに乗った。
この日は初めて1級山岳が登場する本格的な山岳ステージ。有力選手25名で形成された逃げ集団はメイン集団とのタイム差を拡げ続け、ついに逃げ切りに青信号が灯る。
1級山岳に向けて逃げ集団は活性化。登坂を得意とする選手が急勾配をクリアする一方、ベネデッティ遅れてしまう。しかし彼は焦ることなく、淡々と登坂をこなしていく。先頭でステージ争いをする選手達はおそらく牽制し合いスピードが落ちるだろう。そして1級山岳を登り切れば下りを経てスプリント勝負となる。果たしてベネデッティの予想は的中した。先頭に追い付いたベネデッティはロングスプリントで先着し、見事にステージ勝利を射止めた。
最後まで生き残った逃げメンバーによるロングスプリント。フィニッシュまで踏み切ったベネデッティが見事に勝利。Tarmac Discを愛するベネデッティはこの日ももちろんTarmac Disc。
ベネデッティはこの勝利がプロ初勝利。チームに貢献し続けた働き者のドメスティークに、グランツール、しかも地元開催であるジロでのステージ勝利という最高の瞬間が巡ってきた。表彰式にはチームメイト達が集合し、ベネデッティが表彰台を降りて彼らと喜びを分かち合うという微笑ましいシーンも見られ、彼がいかにチームから信頼され愛されているのかがわかる。
チームメイトとスプマンテファイト。チーム全員がベネデッティの勝利を祝う。©Cyclingimage
その走りと明るいキャラクターでチームメイトを助けるベネデッティは、ファンに対しても優しい。ジロの期間中は毎日Instagramを更新するなどまめに情報発信。最終日には「もらったメッセージには全て目を通すよ」と宣言。実際に筆者の送ったメッセージも読んでくれていた。
ロードレースを愛する働き者の彼に最高の瞬間が訪れたこと、月並みだが自転車の神様は存在するのだなと思う。
■マイカ、復活の狼煙
アッカーマンのスプリント勝利に並ぶチームの目標、それはラファウ・マイカ(ポーランド)の総合上位入賞。
ツールではステージ勝利、山岳賞の経験もある名手が、昨シーズンは一勝もできなかった。辛い時間を過ごすマイカは、今年はツールではなくジロに焦点を当て、地道に調整を続けてきた。
クイーンステージである第16ステージ、雨の一級山岳モルティローロを駆け上がるマイカ。©Cyclingimage
決して目立つ走りではなかったが、ライバル達に大差を付けられることなくステージをクリアしていく。悪天候や全部で3回設定された決して得意ではない個人タイムトライアルでも崩れることなく、山岳では力を示した。他チームの総合勢がバットデーやメカトラなどのトラブルで遅れる中、マイカは静かに自分のリズムを刻み続けた。
山岳で持ち前の強さを取り戻しつつあるマイカ。Tarmac Discは登坂でもダウンヒルでもコントロール性に優れ、乗り手を助けてくれる。©Bettiniphoto
総合争いが激化する山岳では、ダヴィデ・フォルモロ(イタリア)がよく仕事をしてくれた。時に逃げに乗り、時に遅れるマイカを引き上げてくれるフォルモロに、マイカは惜しみなく感謝の意を示した。
アッカーマンのスプリントトレインを抱える分、チーム内の山岳アシストはどうしても手薄になる。フォルモロがハードワークによりそれを補ってくれていたことを、マイカは誰よりも理解していたに違いない。
マイカを山岳で牽引するフォルモロ。今年はリエージュ〜バストーニュ〜リエージュ2位、ボルタ・ア・カタルーニャステージ1勝と好調。©Cyclingimage
最後まで注意深く自らの走りをまとめ上げ、マイカは総合6位でジロを終えた。ステージ勝利こそ得られなかったが、本来の山岳での強さに加えて苦手なタイムトライアルを克服しつつあること、総合エースとして戦う実力は健在であることを示したと言っていいだろう。
ツールはブッフマン、コンラッド、シャフマンといった若手に任せる。マイカの次のターゲットはブエルタだ。ジロ以上に厳しい山岳で、きっと大きな勝利を上げてくれるのではないか。
クイーンステージ後、フォルモロのアシストに感謝するマイカ。ジロ総合6位は昨年に比べれば評価すべき素晴らしいリザルトだが、更なる高みを目指してほしい。
■ボーラ・ハンスグローエのジロ・デ・イタリア2019
総合6位、ステージ3勝、そしてマリアチクラミーノ。ボーラ・ハンスグローエのジロ・デ・イタリアは大成功と言っていいだろう。おそらくゼムケ監督が描いたシナリオを、選手達は全てやり遂げ、結果を掴んだ。
そして、誰一人欠けることなく最終ステージのヴェローナへ辿り着いた。過酷なジロを見事に戦い抜いたと言えるだろう。
第20ステージのフィニッシュラインを切るアッカーマン。実質的にマリアチクラミーノ獲得を確定させた瞬間だ。ちなみにドイツ人選手のマリアチクラミーノ獲得はジロ史上初だそう。©Cyclingimage
■ジロ・デ・イタリアを走ったスペシャライズドバイク
最後に、ジロ・デ・イタリアでのボーラ・ハンスグローエの躍進を支えたスペシャライズドバイクを紹介しておこう。
アッカーマンのスプリントステージでの勝利を演出したのはVengeだ。エアロ性能に優れ、スルーアクスルが力を逃さず推進力に変えてくれる。
新しいVengeについて>
Vengeをオンラインストアでチェック>
平坦ステージが集中していた前半戦はVengeが大活躍。ちょっとしたアップダウンなら難なく越える推進力を持つ。©Cyclingimage
Tarmac Discはあらゆるシーンで選手達を支えた。登坂・平坦・下りとあらゆる局面で安定した走りをもたらすオールラウンドバイクは、第12ステージではベネデッティの勝利に貢献している。
ボーラ・ハンスグローエは今シーズンをディスクブレーキオンリーで戦うことを表明しているチームの1つである。悪天候が多かった今年のジロにおいて、ディスクブレーキの制動力は大きなアドバンテージになったに違いない。
スペシャライズドのバイクはレースで勝利するバイク。2019年ジロ・デ・イタリアにおいても、それを証明したと言えるだろう。
TarmacDiscについて詳しく>
TarmacDiscをオンラインストアでチェックする>
乗って実感!やっぱり“S-Works” Tarmac Discはスゴかった!>
厳しい山岳ステージではTarmac Disc。ダウンヒルの安定感も頼もしい。©Cyclingimage
【筆者紹介】
池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。ベルギーでインタビューしたばかりのベネデッティのプロ初勝利に大興奮のジロでした。チームプレゼンでゼムケ監督の姿を見た時から、このジロはきっとうまくいくと確信。常にご機嫌で笑顔のアッカーマンと発射台ゼーリッヒのドイツコンビも微笑ましかったです。
関連記事:
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに挑むボーラ・ハンスグローエ(1)チェーザレ・ベネデッティ選手インタビュー(2019年5月10日)
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに挑むボーラ・ハンスグローエ(2)レース直前監督インタビュー(2019年5月15日)
リエージュ〜バストーニュ〜リエージュに挑むボーラ・ハンスグローエ (3)機材のスペシャリスト、メカニックインタビュー(2019年5月27日)