最後の最後まで、彼らは挑戦し続けた。「Band of Brothers(絆で結ばれた兄弟)」の21日間を振り返ります。
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「毎年、ライバルがいるのは確実だ」
ツール・ド・フランスにおける最強スプリンターの証、「マイヨヴェール(緑色のジャージの意)」。このジャージを史上最多となる7度獲得しており、今年更にその記録を伸ばすことを期待されていたペテル・サガン(スロバキア)の言葉だ。
二兎を追う者が二兎を得る―Tarmac Disc、Venge、Shiv TT Discで駆け抜けたツール・ド・フランス2019
ボーラ・ハンスグローエの選手達は日替わりのデザインマスクを着用してスタート前プレゼンに登場。
ステージ勝利を量産するというよりは、上手に立ち回ってスプリントポイントを積み重ねていくのがサガンのスタイルだった。対応できる地形が平坦から登りまで幅広く、ライバル達が取りこぼしてしまうような山岳のスプリントポイントを独占できた。だからグリーンジャージはサガンのトレードマークのようなものだった。そう、昨年までは。
2020年のツール・ド・フランスは違った。多くの中間スプリントポイントが登りの手前に設定されていた。そのため多くのスプリンターにチャンスが生まれた。マッテオ・トレンティン(イタリア/CCCチーム)、そしてサム・ベネット(アイルランド/ドゥクーニンク・クイックステップ)がサガンのライバルに名乗りを上げた。
Man in the Green―Tarmac SL7、Shiv TTとドゥクーニンク・クイックステップのツール・ド・フランス2020
最大のライバルであり、今ツールのマイヨヴェールを射止めたベネットは昨年までのチームメイト。
中間スプリントポイントとフィニッシュを何度も争った。
今年サガンがマイヨヴェールを着用したのは5日間だ。
第3ステージで獲得し、第5ステージで一度手放したグリーンジャージを取り戻すため、ボーラ・ハンスグローエは第7ステージで総攻撃をかけた。スタート直後、ライバル達に気付かれないよう先頭に集結し、猛烈なペースを刻んだ。容赦のないスピードアップに、マイヨヴェール姿のベネットはすぐに音を上げた。
普段は飄々とした雰囲気で、サービス精神旺盛なスーパースターが、余裕を捨てて全力でチームメイトとともに戦った。
中間スプリントポイントでトレンティンに先着を許し、フィニッシュではチェーントラブルで上位争いに絡むことができなかったものの、この日サガンは再びグリーンジャージに袖を通した。
チームで勝ち取ったマイヨヴェール。やはりサガンにはグリーンジャージが良く似合う。Photo:©Cyclingimages
このツール期間中、サガンが繰り返し口にしていたのはチームメイトへの感謝の言葉である。ステージ後のインタビューで、自身のSNSで、自分を信じ、サポートしてくれる仲間が誇らしいと語った。
前哨戦ドーフィネの負傷を押して出場した総合エースのエマヌエル・ブッフマン(ドイツ)は第1週で総合争いから脱落した後、サガンのためにボトルを運ぶなど献身的に尽くした。イル・ロンバルディアの不幸な交通事故で鎖骨を骨折、回復途上でのツール参戦となったマキシミリアン・シャフマン(ドイツ)は逃げ、そして集団牽引と大車輪の活躍を見せた。
グレゴール・ミュールベルガーとルーカス・ポストルベルガー(ともにオーストリア)の2人を失いながら、マイヨヴェールを守るため鉄壁の陣を敷くドゥクーニンク・クイックステップに対して、ボーラ・ハンスグローエは諦めずに何度も戦いを挑んだ。白と緑のジャージを集団先頭に見ない日はなかった。
ブッフマンをはじめ全員が積極的に先頭を牽く。誰もがサガンのためにハードワークを続けた。
チームメイト達のアシストを受け、サガンも懸命に戦った。
チームメイトともにサガンをアシストしたのはエアロ、剛性、軽さのすべてを1台で実現したTarmac SL7。山でも平坦でも寄り添ってくれる相棒だ。
すべてを征す一台 All New Tarmac SL7について>
サガンとベネットの最後の戦いとなったのはアルプスを越えた第19ステージ。第10ステージでベネットに明け渡したマイヨヴェールを奪還する最後のチャンスだった。
必要なのはステージ勝利。終盤のアップダウン区間で自らアタックを仕掛けたサガンは集団を絞り込み、得意とするワンデークラシックのような展開に持ち込んだ。誤算だったのは、ここにベネットがチームメイトとともに食らいついてきたことだった。一瞬の隙をついて独走に持ち込んだセーアン・クラーウアナスン(デンマーク/チーム サンウェブ)が先頭でフィニッシュラインを越えた後、サガンとベネットはスプリントで対決する。
第19ステージはあらゆる手を尽くして戦ったが、届かなかった。
最後のスプリントで先着し、マイヨヴェールをほぼ手中に収めたベネットを祝う一方で、最終日も勝つために全力をぶつけるとコメント。
宣言通り、最終日となる第21ステージもサガンとボーラ・ハンスグローエは勝利のために走った。
バイクはベネットと同じTarmac SL7だがアッセンブルが微妙に異なる 。集団スプリントの結果は3位。
全てが終わった後、サガンは言った。
今年のサガンの物語は、ジロ・デ・イタリアに続く。「ツール・ド・フランスは無事に閉幕し、僕はこうやってパリにいる。何の問題もないさ」
話題になったサガンのジロ参戦を記念したティザー動画。ご覧になった方も多いのではないだろうか。
サガンがコミカルにイタリアの様々な文化を紹介している。
今ツールでボーラ・ハンスグローエが掲げた目標は3つ。ブッフマンの総合上位入賞、サガンのマイヨヴェール獲得、そしてステージ優勝だ。
うち2つは叶わなかった。だが、残りの1つはレナード・ケムナによって達成された。ツール・ド・フランスにおけるドイツチーム初のドイツ人選手の勝利。第13ステージでは一騎打ちの登りスプリントで敗れ悔し涙を流した24歳が、第16ステージで20qを独走し勝利を掴んだ。
アタック、ダウンヒル、登坂を経て掴んだ勝利。Tarmac SL7がオールラウンドな走りを支えた。
表彰台では晴れやかな表情を見せたケムナ。まだ24歳の若者らしいピースサインが微笑ましい。
TTスペシャリストでもあるケムナはShiv TTの扱いにも長ける。軽量でハンドリングに優れたバイクで登坂もこなす。
彼は2016年U23ヨーロッパ選手権個人タイムトライアル、そして2017年世界選手権チームタイムトライアルで優勝を果たしている。
このツールで、とにかくケムナは逃げた。逃げに乗らなかった日は先頭を牽いた。誰よりもハードに仕事をするケムナを、第16ステージではダニエル・オス(イタリア)が助けた。ケムナを守り、勝負所まで送り届けたオスが、この日の勝利の立役者だった。そうして2人で掴んだ勝利は、チームに大きな安堵をもたらした。
陽気なキャラクターで知られるオスだが、仕事ぶりは堅実そのもの。ケムナを温存するため先頭で働く。
ケムナの勝利に沸くチーム。その夜の祝杯の前、ケムナは改めてオスの仕事ぶりに感謝を伝えている。
ボーラ・ハンスグローエの攻撃的な走りは今年のツールを大いに盛り上げた。ライバル達はフラストレーションを感じたかもしれない。そしてステージ1勝というリザルトを物足りなく感じるファンもいるかもしれない。
「Try to try(挑戦しようと試みる)」―だけどサガンがいつも言っているように、挑戦しようとすることに価値があるのだ。
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※Tarmac SL7の品薄状態が続いており、ご迷惑をお掛けしております。モデルやサイズによっては正規販売店に在庫があるものもございます。各店舗へお問い合わせください。
【筆者紹介】
文章:池田 綾(アヤフィリップ)
サイクリングライター。今年は序盤から苦しい戦いを強いられたボーラ・ハンスグローエ。挑戦者として貪欲に走るサガンとアグレッシブに攻めるチームが新鮮でした。特にケムナはスーパー敢闘賞候補に選ばれるのも納得の熱い仕事ぶり。Twitter(@lennardkaemna)の投稿がとてもかわいらしいので、是非チェックしてみて下さい。