スペシャライズドでは「フォレストバイク」でチームメイトを集めて忘年ライドを開催。少々変わった趣向のMTBレースを実施して大いに盛り上がった。
スペシャライズドでは社員の事を、互いを高めあう仲間という意味を込めてチームメイトと呼んでいる
昨年の12月末、スペシャライズド・ジャパンは神奈川県小田原市の「フォレストバイク」で全チームメイトを集めて忘年ライドを開催。少々変わった趣向のMTBレースを実施して大いに盛り上がった。このレースを企画したのはMTBカテゴリーリーダーを務める板垣 響氏。本人に意図を聞いてみた。
山本幸平氏(写真左)と談笑するスペシャライズド・ジャパンMTBカテゴリーリーダーの板垣 響(写真右)。まだ若いが、MTBを多くの人に周知し、特別な趣味ではなく文化として根付くよう様々な仕掛けを行っている。
「スペシャライズドでは、マウンテンバイク(以下MTB)が一過性のブームではなく、永続的な『文化』となるよう、ユーザーを増やす取り組みと並行して『体験』の提案・提供も積極的に行っています。フィールドやトレイルの支援のほか、初心者でも参加しやすいレースのサポート、アンバサダーやサポートライダーと共に行うレッスンやライドイベントの開催といった具合ですね。その一環として、かねてから初心者と上級者が一緒になって楽しめるMTBレースはできないものかと模索していたんですよ。MTBレースというと、一般的にはキツくてキケンといったイメージが強いので、障害物競争的な遊び要素を多く取り入れることで、体力、技術、経験に関わらず誰でも楽しめるものにアレンジしてみました。今後、こうしたカジュアルなルールのレースを公式に開催することも念頭に置きつつ、まずは身内で実験的にやってみようじゃないかと」
板垣氏はまだ若干26歳。こうあるべきといった既成概念に囚われることなく、若者らしい自由な発想でMTBの未来を構築しようとしている最中だ。
コミカルに、真剣に。
白熱のレース展開
レースのルールは簡単にいえばリレー形式の障害物競争である。あらかじめ戦力が平等になるよう5人一組にチームに分けし、メンバー全員がコースを1周ずつして順位を競う。そしてライダーを交代する際に指定されたミッションをクリアしなければならないというのがこのレースの最大の特徴である。
スタートの合図と共に一斉にダッシュして自分の自転車に飛び乗る。モータースポーツで言うところのル・マン式スタートだ。
まず、第一ライダーはビーチフラッグのように後ろに向いた状態でスタンバイ。スタートの合図と共に自分のバイクまで走ってからスタート。バイクの並び順はランダムなので、自分のバイクを探しつつダッシュしなければならない。バイクとラン、両方の走力が求められる。
序盤は舗装路の登り、中盤から後半にかけては下り基調の林間コースを一周する。
チューブをSWAT™ Doorドア内に収納するミッションは苦戦するライダーが続出。順位が大きく変動した。
そして第二ライダーは様々なサイズのチューブが入った箱からチューブを一本取り出して「ある場所」に収納しなければスタートできない。どこに収納するかというと、StumpjumperやEnduroに採用されている「SWAT™ Door」の中。運よくコンパクトなロードバイク用チューブを引けばあっさり収納できるが、運悪くMTB用の29erチューブを引いてしまうと苦戦は必至。空気を完全に抜き切ってギチギチにタイトに折り畳まないと入らない。じつによくできたハンディである
レース中も平静を保つ安定した精神力と、優れたコンセントレーションが問われる第三ライダー。 第三ライダーはスポークを「箸」代わりにサラダボールに入れられたボルトやワッシャーを別の皿に移動させるというミッション。5個移動させることができたらようやくスタートすることができる。
eBIKEのモーターアシストを封印して坂道を登らなければならない徒労感たるや……。肉体だけではなく精神へのダメージも大きい(笑)
とくに面白いのが第四ライダーのミッション。ルーレットを回し、出た数値の通りにTURBO LEVO SLのアシストパワーを調整して走り出すというもの。専用アプリ「Mission Control」を使えばアシスト量を任意で調整できるというTurbo e-Bikeの特性を活かしたハンディだ。もちろん、アシスト0%と100%とでは登坂セクションで圧倒的な差がつく。
スペシャライズド・ジャパンの代表である小松氏も参加。みかんの皮むきに苦戦中。
最後のライダーはレッドブル250㎖缶を一気飲みしてからスタート……のはずだったが、当日フォレストバイクさんから小田原名物みかんが差し入れられたため、急遽みかん1個も併せて食べ切ることに。
レースは予測通り(?)ライダー交代で手間取るチームが続出し、最後の最後までもつれた展開のまま終了。スペシャライズドのアンバサダーであり、ついこないだまで日本最強のMTBライダーだった山本幸平 氏とMTB経験の浅いチームメートがゴール前で接戦を演じるなど、板垣氏の目論みは大成功に終わったと言っていいだろう。不確定要素が加わっているものの、与えられた条件のなかで少しでも上の順位を目指して頑張るというプロセスは、本格的なレースと同じである。
革新はスペシャライズドの社是のようなものだが、それは機材のテクノロジーに限った話ではない。レースの在り方・楽しみ方にもイノベーションの可能性を探っている。
文・写真/佐藤旅宇
最終ライダー同士の熾烈な争い。元日本最強MTBライダーからの猛烈なプレッシャーに耐えつつ逃げまくる。
レース後の表彰式の様子。副賞を受け取るのはMTBダウンヒル競技でアジアチャンピオンになったこともある竹本将史。