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マウンテンバイクのレジェンドが繋ぐ想い

2022/11/08

マウンテンバイクのレジェンドが繋ぐ想い

プロ選手生活にピリオドを打った山本幸平。チーム運営とMTBの普及活動に取り組んだシーズンを終えようとする彼に今シーズンの経験と、引退とは?について話を聞いた。

シーズンイン前、前回のインタビューはこちら
https://www.specialized-onlinestore.jp/contents/blog/detail/818

簡単に、今シーズンの活動内容について聞かせてください。


山本幸平の運営するチーム、Athlete Farm SPECIALIZED所属の北林力。スイス・Lenzerfeideのワールドカップにて。

Yamamoto Athlete Farmという会社をつくって、チーム運営を行っています。その他にも、マウンテンバイクのレースやスクールの運営、オリジナルコーヒーの販売を行うオンラインストアなど、色々とやっています。もちろん、軸になっているのは、マウンテンバイクの楽しさ、魅力を広めていくということ。そして世界で活躍できる日本人選手を育てたいという想いがあって、現在チームで北林力、北林仁と2名の選手をサポートしています。

僕自身、世界チャンピオンになりたい、まずはトップ10に入りたいという想いで、ずっと現役選手を続けてきましたが、夢叶わず世界15位で終わってしまいました。選手として悔いはあるので、僕が走る訳ではなくても、何かしら関わりたいという想いが強く、今はチームとしてその夢を追いかけています。

幸平さんがプロデュースするRAINBOW CUPについて聞かせてください。


レインボーカップではレース前日に、山本幸平やチームAthlete Farm SPECIALIZEDの選手によるスクールが開催された。

このレースで育った選手から、将来世界チャンピオンを生み出したいという気持ちがあって、世界チャンピオンが着ることが出来るチャンピオンジャージのアルカンシェル(レインボー)から名付けました。2022年は5月と10月の2回開催しました。メインはユースのレースです。

強くなるためには、世界チャンピオンやトップ10ライダーになるためには、どこで過ごしたらいいのかというのを現役時代の僕は常に考えていて。だから、日本を飛び出してフランスとスイスで活動してきました。

ヨーロッパはトレーニング環境も、MTBのレースの数も質も違います。質というのは、どういうコースだとか、同じ世代の競り合えるライバルがどのくらいいるのかとか、そういった少しずつの積み重ねなんですけど、強い国、伸びている国と日本を比較すると、環境の違いは圧倒的です。日本でも、メジャーなスポーツには、育っていく環境が当たり前にあって、ピラミッドが出来ていますよね。

そんな経験を経てこのRainbow Cupを企画しました。ピラミッドをしっかり構築して、日本でも次世代のために良い環境を作っていきたいです。


初心者や家族全員がレースを楽しみ、スキルアップもできるよう、会場にはSpecialized Family Parkの木製パンプトラックが設置された。

ユースのレースのほかに、2時間耐久も行いました。これはMTBの普及というところが強くて、初めてMTBに乗る人や、初めてレースに出るという人でも、アットホームな雰囲気のなかで、ワイワイ楽しんでほしくて、コース設定も優しくしています。来年は、また少し違った形のレインボーカップを開催したくて、いま計画を進めているところです。

現在の活動について、いつ頃より考えていましたか?


FDAジャパン・マウンテンバイク・カップ2022の試走でラインを指導する。左から北林仁、山本幸平、北林力 
(写真提供:H.Suzuki@jpnmtbcup2022

リオ五輪の後ぐらいから、競技者を続ける意味を考える時間が増えていました。現実が見え始めていたんです。100%やれるところまでやることは決めていましたが、メンタルの部分で迷いが出てきていました。「今、僕がポンっと辞めてしまうと、強い選手がいないまま、日本のマウンテンバイクはどうなってしまうんだろう?」そう思って、リオ五輪が終わってから、北林力選手に「一緒にやらないか」と声をかけ、チームに加入してもらいました。

僕自身、東京五輪までは走ると決めていたので、チームで一緒に過ごすことで、僕が経験してきたことを色々と吸収してもらおうと思っていました。東京五輪後からは後輩たちが世界に飛び出せるよう、スペシャライズドと一緒に体制を整えています。

現在の活動のパートナーにスペシャライズドを選んだ訳を聞かせてください。

スペシャライズドファクトリーチームで走った3年間は成績もよく、一番フィーリングが合っていました。あと、スペシャライズドが思い描くビジョンが、僕の理想に近いこともあって、常に心の片隅にあったというか、僕自身、信頼できるブランドなので、一緒にやっていきたいと思い、お声がけさせてもらったというわけです。

今シーズンの海外遠征について聞かせてください。


2022年8月、フランス・レジェにて開催された世界選手権のスタートを待つ山本幸平と北林力

チームとして、北林力選手と僕とメカニックの3人で海外遠征をしました。イタリアのワールドカップ、フランスの世界選手権で、久しぶりに世界の走りを見てきました。

力選手の結果は、完走できずにマイナス2ラップ。厳しい結果となりました。スタートから良い流れで、集団パックの中に入っていましたが、2周目に入る時から、かなり呼吸も乱れていて苦しいしいというのは見てわかりました。でも、そこから耐えるというのが、必要なところです。世界で走ろうと思うと、常にプラスに考えて、前に前に、我こそはという気持ちでプッシュし続けないといけません。

マイナスなマインドというのは何一つ必要ありません。苦しいと、走りも荒くなっていき、タイムロスが増えてきます。日本の言葉で言うと心技一体という言葉がありますよね。近道はないので、全てを少しずつやっていくしかありません。

僕が伝えられることもありますが、選手自身が、しっかりと感じ取る必要があります。通用しているところは自信をもっていいし、補わないといけないところは、すべきことを、自分自身でアンテナを張って、心に刻み込むと言うか、自分に言い聞かせて毎日過ごしていかないといけません。ワールドカップは、待ったなしの世界なので、常に強くなるんだという思いを持って、前を向いて、目標を持っていかないと、夢を達成することは難しい。今回の遠征で強く感じた部分ですね。

続いてアジア選手権では力選手が優勝しました。ナショナルチームのテクニカルアドバイザーとしてその場に立ち会ったわけですが、彼の成長をどのように感じましたか?


韓国・スンチョンで開催されたアジアマウンテンバイク選手権でチャンピオンに輝いた北林力

今回のアジア選手権に関して言うと、勝つことを彼自身がこだわってコントロールできた、というのが良かったですね。最初から30秒ぐらいの、意外とタイム差がない中でトップを走っていたのが現状でした。コースはちょっとしたミスでもパンクしやすかったので、「慎重に」というのは伝えていたんですけど、本当にそれをしてくれてて。彼自身がいろんな思いを描いてこのレースを走っていたと思うんです。道を切り開くためにも結果は必要だった。今までのレースでは集中が切れたりとか、走りが荒くなったりする部分が見られたんですが、それが今回のレースは最後まで本当に気持ちを出すっていうか、集中していたと思います。最後まで顔付きも凄く良かった。ゴールシーンは珍しくガッツポーズもしているし、嬉しい感情を出していました。

世界の舞台を見ると、走りたくなるのでは?

世界選手権とかワールドカップというのは走りたくないです。あの舞台に立てる人というか、あそこでレースをする人は、相当な覚悟のある人の集まりで、そうであるべきだと思うんですよ。僕はもう、世界チャンピオンを目指すことを諦めた人だから。でも、マウンテンバイクが大好きだし、レースも好きだから、これからもレースには出たいと思っています。ただ、それは優勝を目指すというより、自分自身への挑戦ですね。

現役引退という言葉が使われていることもありますけど、そうじゃない。僕は東京五輪を機にプロを、世界トップ10を目指す人をやめただけであって、今でもMTBが大好きだし、「マウンテンバイクが大好きなおじさん」としてレースにも出ますよ。

引退後のレースは幸平さんにとってどんな存在なのか、聞かせください。


自称「マウンテンバイクが大好きなおじさん」として出場したFDAジャパン・マウンテンバイク・カップ2022では4位でフィニッシュ
(写真提供:H.Suzuki@jpnmtbcup2022

引退したときから「レースには出ますよ」、と言っていました。自分は、スポーツを通じて自分と向き合うのが好きなんです。今年の初めはYamaomto Athlete Farmの活動の立ち上げに時間が必要だったので、半年ぐらいずっと乗れなかったんですが、体が鈍っていくのが分かって。やっぱりそれは自分自身にしっくりこなかったです。やっぱり体を動かすことで得られる、レースとか練習の時にしか感じられない想いや感情というのが、今の人生にもプラスになっています。頑張っていく中でいろんな感情が出てくる。そういう生き方をしたいなという想いがあります。挑戦し続けていないと嫌なタイプなんです。

Japan MTB Cupでフィニッシュラインを通過したときの率直な感想をお聞かせください。


FDAジャパン・マウンテンバイク・カップ2022にて4位でフィニッシュラインを通過する山本幸平 
(写真提供:H.Suzuki@jpnmtbcup2022

ゴールでは、昨年の東京五輪が完全に頭の中に来ました。あの時と同じ両手を合わせるフォームをわざとしました。またここに帰ってきたんだな、っていう嬉しい気持ちで。全然立場は変わっていて、優勝も何も目指していないし、単純に自分自身楽しく走っているんですが、マウンテンバイクを見に来ている人たちが、自分の走りをみて楽しんでいる。こういうイベントをやってくれてありがとう、という感情でした。

表彰台も視野に入り、プッシュしていた局面もあったかと思いますが、その時はどんな気持ちでしたか?

4、5周目ですね。レースに出ている以上は、やっぱ前に人が見えたら追いたくなっちゃうのはアスリートの心で、それは今も同じです。前がシンガポール人だったんで、やっぱり日本人が表彰で立った方が盛り上がるし、自分自身も嬉しいし、そこはちょっと挑戦しましたね。

引退後のシーズン1年目が終わろうとしているわけですが、今年の挑戦を振り返ってみていかがでしょうか?


FDAジャパン・マウンテンバイク・カップ2022でファインにサインをする山本幸平
(写真提供:@jpnmtbcup2022)

 

分からないことも多い中で、チームはアジアチャンピオンという結果が残せたし、レインボーカップも無事開催出来て、一年目にしては上手くいっている印象です。今は来シーズンに向けて動き出そうとしているところです。より若手であったり、もっと大きなグループであったりに、自分の経験を活かせる組織を作っていきたいと考えています。そのためには、選手の時に感じていたこと、大切にしていたことを変わらずにやり続けないと熱い思いは語れなくなるし、伝わっていかないんだろうなと思って生きています。

山本幸平(スペシャライズドアンバサダー)

マウンテンバイク・クロスカントリー競技のプロライダーとして12回の全日本選手権と10回のアジア選手権を制覇。4大会連続オリンピック日本代表。東京五輪を最後に選手としての一線を退き、自転車を身近なスポーツとして普及させるために様々な事業を展開中。

公式サイト:www.athletefarm.net
Instagram:@kohey55

使用機材:
Specialized Epic
Roval Control SL 29

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